五輪マスコット選定はエンブレムの二の舞にならないか?
東京五輪の公式マスコット選定の議論が始まったようです(参照記事)。
記事中でも触れられていますが、エンブレムの時のようなもめ事は避けたいですね。知財関係はどのような扱いになるのか気になります。
上記記事によれば、「デザインについても国内の意匠権と商標権を最大45の区分ごとに取らないといけない」(委員の林いづみ弁護士)だそうです。この発言が正確に伝えられたものであるとすると、(エンブレムとは異なり)マスコットは「国内」の権利取得だけでよさそうです。実際、TMVIEW等のデータベースで調べてみると、東京および過去の大会のエンブレムは国際オリンピック委員会を出願人として全世界に商標登録出願されていますが、(たとえばリオ五輪の)マスコットはそういう扱いにはなっていません(おそらく、ブラジル国内では商標登録されていると思うのですが調べ切れていません)。
そもそも、日本国内でリオ五輪の公式マスコット(タイトル画像参照)を認識している人がどれくらいいるか、日本国内でこの公式マスコットの偽物を販売して商売として成立するかを考えると、開催国外でマスコットの商標権・意匠権を取得することはあまり意味がないと思えます。
国内だけであるとすれば既存登録商標の調査と商標権取得はそれほど難しくなさそうです(一般に、キャラクターものはほとんど同じ先登録がない限り登録できます)。意匠権も同様ですが、45区分出願すれば全権利範囲をカバーできる商標とは異なり、意匠権を全物品で取得するのは非現実的なので「人形」等、物品を絞って取得するしかないでしょう。
著作権については、偶然の類似の場合は侵害ではありませんので、よほど著名な作品にうっかり似てしまったケース、あるいは、リアルで丸パクリしたケースを除き、法律上は問題ではありません(そういう意味では佐野エンブレムも裁判すれば負ける案件ではありませんでした)。問題は、大衆(特にネット民)の声です。結局、選考過程に不透明な点があると、それに対する不満が「著作権侵害疑惑」として形を変えて噴出することが多いのではないかと思います。つまり、多くの人が納得行く形で選考すればこの問題は少なくなると思います。現実には、あらゆる人を納得させることはできないのが悩ましいところですが。
著作権制度の第一人者である福井健策弁護士は、twitterにおいて、「前から言っているのだが、リスクの高い新キャラより、マンガやアニメの歴代キャラから国民投票で選ぶのはどうか。それも、各種目にひとつずつ。例えばサッカー→翼、バスケ→スラダン、ボクシング→ジョー、卓球→ピンポン、自転車→弱ペダ、野球→あだち充、射撃→ゴルゴ。>五輪マスコット選び」と述べられています。
既存のキャラクターを使うのはひとつの選択肢ではありますね。ただ、前例がないやり方を通すのは基本お役所の五輪委には難しいでしょうし、着ぐるみの展開が必要という現実的問題もあります(キャプテン翼の着ぐるみはあまり見たくないです)。
既存キャラを使うという点では、人気ゆるキャラ(くまモン、ひこにゃん等)が五輪のたすきや鉢巻きをつけて東京を応援というのが、知財的にも安心ですし、着ぐるみ展開もできてますし、日本を世界に向けてアピールしやすくてよいと思うのですが、まあ、まず通らないでしょうね。