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マドリーはパリSGも撃破。批判を賞賛に変えたジダン。サッカー監督に学ぶリーダーシップとは?

小宮良之スポーツライター・小説家
マルセロがジダンと喜び合う。この絆が名将の本質か。(写真:ロイター/アフロ)

サッカー監督で見本とすべきリーダーは?

 リーダー学の観点から、サッカー監督として見本とすべきは、当代なら誰になるだろうか?

 ジョゼップ・グアルディオラ、ジョゼ・モウリーニョ、ジネディーヌ・ジダンの三人は、やはり筆頭に名前が挙がるかも知れない。他に、ディエゴ・シメオネ、カルロ・アンチェロッティ、アントニオ・コンテ、ユップ・ハインケス、ユルゲン・クロップ、エルネスト・バルベルデらも「本命」だろう。戦略、戦術、どちらも高いレベルで実行できる指揮官だ。

 しかし、リーダーシップを学び取るには誰が適当か?

グアルディオラとシメオネの違い

 例えば、今や世界のフットボールをリードする名将グアルディオラのポゼッションメソッドは達人の域に入っているが、なにより選手の力量の高さが不可欠となる。誰もが一朝一夕にできる代物ではない。監督自身に相当な知識と経験が条件になるだけでなく、手駒となる選手にも高いプレー精度が求められるのだ。

 一方、シメオネを理想の指揮官とする指導者は少なくない。グアルディオラほどの天才性はないからだろう。

 シメオネは自身の強烈なパーソナリティー(自信と気概に満ち、不屈に戦いに向き合える)を、選手たちにそのまま移植する、というタイプのモチベーターである。スポーツメンタルにおいて、トレーナーの強固な精神をそのまま選手に移す、というやり方があるが、気持ちを高揚させる精神的強さをシメオネは持っている。チーム全体をドラゴンに見立てた場合、その頭は監督であり、そこからの指令で龍は体をしならせるイメージだ。

 精神的な話だけに、不可能ではない気がする。しかし、実際にシメオネのように強権を発動しながら、「サブ選手にまで愛される」というケースは稀。シメオネの求心力は並ではない。

 模倣できる監督は、実際にはいないだろう。彼らはその個性によって、名将と呼ばれる。個性の中身は、なかなか手にすることができないのだ。

 しかしもし見本を一人挙げるなら、ジダンではないだろうか?

ジダンのリーダーシップ

「私がベンゼマを信用しているか? 選手を信用しないでどうするのか?」

「クリスティアーノのプレーを疑う理由などない。たとえ、ゴールをしなくてもね。彼はわずかなチャンスさえあれば、そこですべてを出し切れるし、常に狙っている」

「(GKの補強の話が出たときに)私にはすでに信頼するGKたちがいるよ」

 いずれも、ジダンのコメントである。フランス人監督は、麾下選手たちの心をつかむのが、抜群にうまい。不調などが伝えられ、批判に巻き込まれる選手たちに対し、絶対的な信頼を伝えられる。結局のところ、それがプレーヤーの力につながっている。

<ネガティブな空気に流されない>

 その不動さが、ジダンの異能だろう。

人を信じられるジダン

 ジダンはこう言っている。

「私は18年間、プロ選手として過ごし、ロッカールームがどのように機能しているのか、を心得ている。その点は、私のアドバンテージになっているだろう。選手というのは、"自分がこのチームで必要とされている"と感じると、それに感謝し、プレーに誇りを持てる。私はそういうリスペクトのある関係を求めているんだと思う」

 ジダンが選手との絆を、戦いの根本としているのが分かるだろう。

 人を信じる。

 それは決して簡単なことではない。

 選手が結果を出せないとき、「本当に大丈夫だろうか?」と周りの声に惑わされる。それは人間心理だろう。もしくは、チームの結果が出ないとき、自らの保身から選手のパフォーマンスに責任を転嫁する。ほとんどの指揮官が、この手の"誘惑"に負けてしまう。人間としての弱さ、脆さが出るのだ。

 しかしジダンは信じたら、考えを曲げない。選手時代に、それによって力が引き出される成功体験をし、それを忘れていないからだ。

 それは人徳の為せる業とも言えるが、その作法はどんな指導者も教訓とすべきではないだろうか?

絆の力

 言うまでもないが、ジダンの言葉の効力はその華麗なるキャリアに根ざしている。世界最高のフットボーラーとして、スペクタクルを生み、ドラマを創り出し、多くのタイトルを勝ち取った。その栄光は燦然と輝く。引退した今も、ボール回しをすると、ほとんどの選手が敵わない。指導者になっても、選手時代が大きなメリットになっているのは間違いない。

 しかし、名選手から監督になるケースはいくらでもある。その中にあって、ジダンが(監督としては)若くして、これだけのタイトルに恵まれ、無敵の軍団を率いられている理由があるとすれば――。人を信じる力にあるだろう。それは誰もが、試みることができることかも知れない。

 絆。

 それはフットボールの世界で、巨大な熱になるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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