「大麻」汚染は「電子タバコ」で広がっていく
日本では若い世代に急速に大麻汚染が広がっているが、米国では大麻成分を添加した電子タバコのリキッドの使用が急増している。大麻と電子タバコのカップリングには、日本でもこれからさらに注意が必要だ。
若い世代に広がる大麻汚染
日本では、大麻事件の検挙者の半数近くが未成年者を含む29歳以下の若い世代だ。また、30代、40代の大麻事犯の検挙者も増えている。
大麻取締法違反容疑の逮捕者は、ここ数年で増え始めていて警察は警戒を強めている。警察庁は2019年4月9日、全国の警察に対し、刑事局組織犯罪対策部長名で「大麻事犯の取締りの徹底等の継続について」という通達を出した。
これによれば、大麻事犯の検挙人数は2年連続して過去最多を更新するとともに、大麻が暴力団などの反社会的勢力の重要な資金源になっており、取り締まりを強化徹底し、効果的な広報啓発活動を引き続き実施するとしている。
1998年から2017年までの大麻事犯の検挙人員の推移をみると、この数年で検挙人員が急激に増加していることがわかる。警察庁「平成30年度版『警察白書』」より:グラフ作成筆者
違法薬物で検挙された少年では大麻の検挙人員が数と割合ともに急激に増えていることがわかる。警察庁「少年からのシグナル(Signal from the Young)」より
ここ最近、特に若い世代で大麻の検挙数が増えている背景には、欧米で合法化する動きがあり、強い依存性や身体的・精神的悪影響の知識が正しく得られていないこと、国内でも大麻解禁を唱える有名人や芸能人が増え、犯罪意識が薄れていること、インターネットのSNSなどで闇販売が横行し、未成年者でも容易に買うことができることなどがあげられている。
電子タバコの大麻リキッド
一方、米国では電子タバコを吸って健康被害を受け、死者まで出ていることが大きな社会問題になっている。
最近、米国の医師会雑誌(Journal of the American Medical Association、JAMA)に出た調査研究(※1)によれば、2017年と2018年を比べた場合、13歳以上で大麻(Marijuana)成分を添加した電子タバコの喫煙者が増えていたという。
この論文によれば、6年生(11〜12歳)〜12年生(17〜18歳)、3万8061人(女性49.1%)を対象に調査し、各生徒に電子タバコで大麻成分が添加されたリキッドを使ったことがあるか質問したという。
その結果、電子タバコ自体の喫煙経験者は23.6%、現在喫煙者は10.9%だった。そして大麻リキッドの使用者は2017年の11.1%から14.7%へと3.6%増加し、電子タバコのみの喫煙者では33.2%から40.6%へと7.4%増、家族で電子タバコ喫煙者がいる生徒で22.7%から29.5%へと6.8%増となっていた。
また、2018年の時点では、電子タバコの喫煙経験者の42.7%、現在喫煙者の53.5%が、さらに紙巻きタバコや水タバコ、葉巻など電子タバコ以外とのデュアルやトリプルの喫煙者の71.6%が大麻リキッドを喫煙していることもわかったという。
米国の若い世代では、2017年から2018年にかけて電子タバコによる大麻リキッドの喫煙が増えていたという。特に紙巻きタバコなど電子タバコ以外のタバコ製品との併用喫煙者で多かった。Via:Hongying Dai, "Self-reported Marijuana Use in Electronic Cigarettes Among US Youth, 2017 to 2018." JAMA, 2019のデータから筆者がグラフを作成
今回の研究から電子タバコによる大麻喫煙が米国の若い世代で広がっていることがわかったが、米国で死者まで出ている電子タバコ被害では約77%の症例で大麻リキッドを喫煙していたという(※2)。研究者は、思春期などまだ脳が発達途中の時期に大麻を使用すれば、脳や精神の発達に悪影響を及ぼし、学校の成績が下がる危険性がある(※3)と警告している。
日本でも大麻リキッドが
前述した研究者が警告するように、大麻を使用すると短期的には記憶障害や運動機能障害が生じる。また、長期的には依存性の中毒症状、脳の機能低下、認知障害、呼吸器障害、生殖機能障害などの悪影響が出ることがわかっていて、さらに事故を起こしたり自殺する危険性が高まるようだ(※4)。
誤解されているようだが、大麻はけっして依存性が低くもないし、健康への悪影響が少ないわけではない。リキッドにして濃縮された大麻成分は、さらに毒性を増すことがわかっている(※5)。大麻の成分にはテトラヒドロカンナビノール(Tetrahydrocannabinol、THC)があり、電子タバコの大麻リキッドにはこのTHCが添加されているのだ。
日本でも2014年12月と2016年10月に米国籍の男が大麻リキッドを密輸しようとして逮捕され、2018年6月には初めて大麻リキッド所持によって逮捕されるという事件があった。
最近も大麻リキッドの大量密輸が摘発されているが、横浜税関によると2019年1〜6月にかけて大麻の摘発件数が前年同比で2.2倍、押収量も4.5倍となっていて、大麻リキッドが若い世代を中心に広がっている危険性がある。
乾燥大麻を電子タバコのリキッドに混ぜて喫煙する方法が広まっているというが、電子タバコのリキッドはどんな成分が入っているか、外見ではわからず、特有の臭いも少ないため、大麻リキッドの使用が発覚しにくい。
米国での流行は少し遅れて日本でも流行るという。大麻による若い世代の汚染が広がりつつある中、電子タバコのリキッドには今後さらに監視の目を光らせていかなければならないのかもしれない。
※1:Hongying Dai, "Self-reported Marijuana Use in Electronic Cigarettes Among US Youth, 2017 to 2018." JAMA, doi.org/10.1001/jama.2019.19571, 2019
※2:CDC, "Characteristics of a Multistate Outbreak of Lung Injury Associated with E-Cigarette Use, Vaping- United States, 2019." CDC, Morbidity and Mortality Weekly Report, Vol.68(39), 860-864, 2019
※3:Nora D. Volkow, et al., "Adverse Health Effects of Marijuana Use." The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.370, 2219-2227, 2014
※4-1:H. Valerie Curran, et al., "Keep off the grass? Cannabis, cognition and addiction." nature reviews neuroscience, Vol.17, 293-306, 2016
※4-2:Nora D. Volkow, et al., "Effects of Cannabis Use on Human Behavior, Including Cognition, Motivation, and Psychosis: A Review." JAMA Psychiatry, Vol.73(3), 292-297, 2016
※4-3:Amir Englund, et al., "Can we make cannabis safer?" LANCET Psychiatry, Vol.4(8), 643-648, 2017
※4-4:Susan K. Murphy, et al., "Cannabinoid exposure and altered DNA methylation in rat and human sperm." Journal Epigenetics, Vol.13, Issue12, 2018
※4-5:Chattering Dong, et al., "Cannabinoid exposure during pregnancy and its impact on immune function." Cellular and Molecular Life Sciences, Vol.76, Issue4, 729-743, 2019
※4-6:Chelsea L. Shover, Keith Humphreys, "Six policy lessons relevant to cannabis legalization." The American Journal of Drug and Alcohol Abuse, doi.org/10.1080/00952990.2019.1569669, 2019
※4-7:Magdalena Cerda, et al., "Association Between Recreational Marijuana Legalization in the United States and Changes in Marijuana Use and Cannabis Use Disorder From 2008 to 2016." JAMA Psychiatry, 2019
※5:Christian Giroud, et al., "E-Cigarettes: A Review of New Trends in Cannabis Use." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.12, Issue8, 2015