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二松学舎よりも"惜敗度"の高い高校は?

楊順行スポーツライター

夏の甲子園5日目、東東京代表の二松学舎大付が、海星(長崎)を下して夏の甲子園初勝利を挙げた。

「春夏合わせて何10年ぶりかの甲子園勝利なので、なんともいえない気持ち。ホッとしました」

市原勝人監督のその言葉は、正直な気持ちだっただろう。なにしろ二松学舎にとっては、準優勝した82年センバツ以来の甲子園での白星なのだ。

二松学舎は過去、センバツには4回出場しているが、夏は初めての出場だった。東京が東西に分割される以前の71年を皮切りに昨年まで、東東京の決勝に進出すること10回。そのたびに帝京や関東一など、並み居るライバルに敗れていた。

だが、今年。東東京大会の決勝で過去に3回決勝で負けている帝京に、延長で勝利。11回目の決勝進出で、ようやく初めての夏の甲子園出場を達成したわけだ。82年の春に準優勝したときのエース・市原監督が「ホッとした」のは、久々の勝利もそうだが、夏の甲子園に出場したことも大きな要因だっただろう。

そのことで、思い出したのが旭川東だ。なぜいきなり北海道の話を……実は旭川東、二松学舎と同じように、地方大会の決勝に10回進みながらいずれも敗退しているのだ。しかも二松学舎は、春の甲子園に出場しているが、旭川東にはそれもない。"あと一歩で甲子園に出られたのに……"率としては、むしろ二松学舎より高いのである。

北北海道の高校野球のメイン会場・スタルヒン球場。84年、それまでの市営球場を改築したとき、旭川出身の伝説的な英雄、ヴィクトル・スタルヒンにちなんで名づけられた。そのスタルヒン球場から直線距離にして真南に約2キロほど下ると、スタルヒンの母校・旭川東高校がある(当時は旧制旭川中)。

在学当時から剛球投手として鳴らし、チームは33、34年と全国中等学校優勝野球の北海道大会決勝まで進んだが33年は北海中に敗れ、34年はスタルヒンが札幌商を11三振、2安打に抑えながら、バックのエラーで惜敗と、あと一歩で甲子園を逃していた。

この後スタルヒンは、来日した大リーグ選抜チームと対戦する全日本の一員に選ばれ、旭川中を中退して全日本からそのまま発足間もない巨人に入団。やがて日本プロ野球第1号の300勝を達成し、シーズン最多の42勝を挙げるなど、日本プロ野球黎明期の大投手となった。57年、交通事故で世を去っている。

旭川中はそれ以前にも、初めての決勝進出(26年)で同地区の旭川商に敗れてから、スタルヒンまでにつごう3回、それ以後も5回、(北)北海道の決勝で敗れている。つまり、スタルヒンの2回を合わせ、これに勝てば甲子園という地方大会の決勝で敗れたのが10回もあるわけだ。

甲子園常連校なら決勝で負けるのはめずらしくもないだろう。だが旭川東の場合、10回決勝に進みながら、一度も勝っていないのだ。甲子園への“惜敗度”は、全国でもダントツである。付け加えれば53年には、秋の全道大会決勝で0対1と惜敗。勝った北海が翌年センバツに出場しているのだから、ここに勝っていれば甲子園、という惜敗度は、11分の0になる。

じゃあ二松学舎のように、これから決勝に勝って甲子園に出ればいいじゃないか……となると、これがなかなかむずかしいなぁ。

旭川東が、最後に北北海道の決勝に進出したのは69年の夏のことで、旭川東は、その地区では堂々の強豪だった。だが、それから半世紀近く。旭川龍谷や旭川実といった私立が勃興する中、屈指の進学校である旭川東は、旭川地区を勝ち抜くのすらむずかしくなっている。で、結局なにがいいたいのかというと、旭川東のような公立の普通高校が甲子園に出ようとしたら、生半可ではない、ということだ。

今回の甲子園出場校をながめてみると、公立・私立を問わずほとんどは部員数が100人もいる大所帯だ。少子化の時代、野球にそれだけの人気があるのは慶賀の至りだが、逆にいうと、頭のいい中学生が東大を目ざすように、野球のうまい中学生は甲子園を目ざす。たまたま集まった部員だけで、たまたま勝ち進んで甲子園に出場……なんて昭和の時代のようなことはないと思ったほうがいい。

だけどもし、あなたの母校が甲子園に出たら熱狂はするでしょうけどね。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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