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『ブラタモリ』終了のタモリが「不適切にもほどがある」だった時代

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『ブラタモリ』ホームページより

『ふてほど』で昭和の名曲が令和でアウトに

 大詰めを迎えるドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。主人公のタイムスリップを通じて、昭和と令和の常識の違いが対比されるのが話題を呼んできた。

 3話では、令和のバラエティで代役MCの八嶋智人が発した言葉に、プロデューサーがことごとくダメ出しして、VTR明けに謝罪する繰り返し。「チョコ渡す相手いるのかな」がセクハラ、「中がトロトロ」や「麺がシコシコ」も不適切とされた。

 4話でも、令和のテレビマンたちがナツメロ特集に向けカラオケへ。島津ゆたかの『ホテル』の<手紙を書いたら叱られる 電話をかけてもいけない>が「モラハラ男とストーカー女の不倫ソング」、沢田研二の『カサブランカ・ダンディ』の<ききわけのない女の頬を ひとつふたつはりたおして>が「パワハラというかDV」と断じられる。

 作詞はそれぞれ、なかにし礼と阿久悠という大御所だが、令和のコンプライアンス的にはアウトとされた。

『オールナイトニッポン』でスポンサーもイジって

 一方、平成に始まった『ブラタモリ』(NHK)が3月9日でレギュラー放送終了となった。タモリが街をぶらぶら歩きながら、知られざる歴史や人々の暮らしを再発見する教養バラエティ。タモリの博識と知的な趣味から生まれた番組で、幅広い層から支持を受けていた。

 1982年に『笑っていいとも!』の司会に就いてから、国民的な人気タレントとなったタモリだが、もともとはマニアックな芸風で“夜の顔”とのイメージだった。

 1976年10月から1983年9月まで、深夜ラジオの『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)で木曜パーソナリティを担当。これがまさに、令和の基準なら、コンプライアンスぶっち切りの放送だった。

 『ビタースウィート・サンバ』に乗ったオープニングのスポンサー紹介から、「社長の顔がデカい角川書店グループ」「何を作ってるのか分からない武藤工業」などと毒気が入った。あらかじめ承諾は得ていたのだろうか。

NHKニュースを継ぎ接ぎにしてオンエア

 1977年には、タモリのアルバムにレコード倫理委員会が中国絡みの部分でクレームを入れ、発売が一時中止に。その委員に慶応大の教授がいたことから、「大学対抗悪口合戦」なるコーナーが始まった。

 当時の音楽シーンのトレンドだったニューミュージックも、歯に衣を着せずに批判。アンチテーゼとして「思想のない音楽会」というコーナーも展開した。そこでたびたび流したさいたまんぞうの『なぜか埼玉』が、自主制作盤からメジャーリリースされている。

 極めつけが1980年の「NHKつぎはぎニュース」。NHKで実際に放送されたニュースをリスナーが継ぎ接ぎしたテープを、ラジオで流した。

深夜にあった「解放区」としての自由さ

「今日午前10時ごろ、川崎市高津区の道路で、ライトバンがコンクリートの電柱にぶつかったうえ反対車線に突っ込み、大根を売ったり、おでんを試食したり、年に一度のお祭りを楽しむ一幕が見られました」

「この事故で運転していた大根1本が即死したのを始め、助手席に乗っていたネギひと束が顔に1ヵ月の大ケガをしました」

 文字にするとニュアンスが伝わり切らないが、支離滅裂なニュースをNHKのアナウンサーが大真面目に読んでるように聞こえて、何ともおかしかった。だが、当然NHKからクレームが入り、3ヵ月ほどで打ち切りに。

 筆者はリアルタイムで聴いてはいないが、年上の知人が録っていたテープを聴くと、昭和であっても、よく毎週電波に乗せていたものだと思う。あの時代でも、「解放区」と呼ばれていたラジオの深夜放送には、特別な自由さがあったことがうかがえる。

 令和では当然、深夜ラジオでもコンプライアンスは厳しいだろう。自由さを取り戻してほしい……などとは言えない。それでもラジオでは報道番組のみならず、テレビに比べて政権への厳しい発言、ニュースで触れられない問題への言及が多い。深夜放送でも、テレビを消して聴きたくなるくらいの遊び心が欲しいとは思う。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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