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今期ドラマに「漫画家」と「編集者」が大量発生したのは、なぜだろう?

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

ドラマにおいて、同じジャンルが同時多発すること自体はよくあります。刑事ドラマとか、医療ドラマなどですね。

今期、目立ったのが恋愛ドラマです。しかも、「漫画家」や「編集者」が登場する作品が並びました。

まず『レンアイ漫画家』(フジテレビ)の主人公は、少女漫画家の刈部清一郎(鈴木亮平)です。

恋愛漫画のネタを求めて、無職だった久遠あいこ(吉岡里帆)を雇い、「疑似恋愛」を命じました。

雇用関係から生まれる恋愛というわけですが、設定と配役に、やや無理があったのではないでしょうか。

次が、『あのときキスしておけば』(テレビ朝日)の漫画家、唯月巴(麻生久美子)です。

彼女は旅行中の事故で亡くなり、「魂(たましい)」だけが見知らぬ男、田中マサオ(井浦新)に乗り移りました。

井浦さんは「内面が女性の男性」を好演しているのですが、「入れ替り物語」という意味での新規性は薄かったと思います。

また、主人公が編集者のドラマとしては、北川景子主演『リコカツ』(TBS)があります。

ファッション誌の編集者だった咲(北川景子)は、航空自衛官の緒原紘一(永山瑛太)とスピード結婚しますが、別れるのも早かった。

離婚したことで相手や自分の本心が見えてくるという展開には、ちょっと目新しいものがあります。

そして、『カラフラブル』(読売テレビ制作・日本テレビ系、放送終了)のヒロイン、町田和子(吉川愛)は漫画誌の編集者。

しかし、そのエネルギーはもっぱら美形の男性スタイリストなどに向けられ、あまり熱心に仕事をしているようには見えませんでした。

『リコカツ』の咲も、そして和子も、編集者の仕事より私生活のほうが忙しいという印象です。

なぜ、これらの恋愛ドラマで、「漫画家」や「編集者」がもてはやされるのか。

それは、制作側にとっての「望ましいイメージ」があるからでしょう。

人気漫画家なら、我がままでエキセントリックなのも当たり前。突飛な行動も許される。

編集者は自由度の高い職業で、好きな時に、様々な人と会うことができる、といったイメージです。

実際の漫画家や編集者がどうなのかはともかく、制作側には、ストーリーに沿って自在に操れる、使い勝手のいいキャラクターだと思われている。

でも、その発想って安直であり、やや陳腐です。

一方、こちらには、いわゆる恋愛ドラマではありませんが、全力で記事を作る女性たちがいます。

NHKドラマ10『半径5メートル』です。

主人公の前田風未香(芳根京子)は、女性週刊誌の生活情報班に所属しており、「半径5メートル」に象徴される身近なネタを、視点を変えながら深掘りしていきます。

指南役は、ベテランフリーライターの亀山宝子(永作博美)。

彼女は、たとえば料理における「手作り」の意味が曖昧なことを明らかにしました。

また、アンティークチェアを使って人と物の関係を探る実験を行うことで、「断捨離ブーム」を検証したりします。

自分の流儀で仕事を進める亀山と、取材を通じて「ものの見方」が深まっていく風未香。

時々、風未香の恋愛模様も描かれますが、何と言っても、2人の記事作りのプロセスがスリリングです。

ドラマは現実を映す鏡。仕事も恋愛も、ひと筋縄ではいかないところに、醍醐味(だいごみ)があるのではないでしょうか。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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