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KO防衛したWBOウエルター級王者が使っていた不良品グローブ

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:ロイター/アフロ)

 12月10日、WBOウエルター級チャンピオンのテレンス・クロフォードが、故郷、ネブラスカ州オマハのリングに上がった。元WBA同級王者であるダビッド・アバネシヤンの挑戦を受け、6回2分14秒でKO勝ちして防衛に成功した。

 クロフォードはジャブの刺し合いで勝ち、終始自分の距離で戦った。左右のボディブローも有効で、挑戦者を削っていった。最終ラウンドとなった6回は、顎への左アッパーを再三ヒットさせ、アバネシヤンにダメージを与えた。

 両者の力の差は明白だった。しかし試合後、大きな議論を巻き起こしている。

写真:ロイター/アフロ

 第6ラウンド開始直後、レフェリーが試合を止め、クロフォードのグローブチェックをネブラスカ州アスレティック・コミッションに要請。チャンピオンが使用していたグローブは、左右共に破れていた。右は親指の部分が、左は側面の下の皮が裂けていた。

 しかし、赤いポロシャツを着てリングサイドに座っていたコミッショナーは、グローブを目にして狐につままれたような表情を浮かべたのみ。次の瞬間、続行が決まる。

 アバネシヤンのマネージャーは、試合後ネブラスカ州アスレティック・コミッションに抗議文を送った。その中で次のような一文がある。

 「レフェリーは正しい判断でタイムアウトを告げ、コミッショナーにグローブを確認させた。WBOのスーパーバイザーも、欠陥グローブを目にしながら『このラウンドはそのまま継続してくれ』と告げた模様。試合を続行させたことは、無責任かつ怠慢であり、そのような行為はアバネシヤンを危険に晒すことになる」

写真:ロイター/アフロ

 今回クロフォードが選んだグローブは、エバーラスト社の物だ。世界ヘビー級王座を25回防衛したジョー・ルイスが使用し、モハメド・アリはグローブのみならず、ガウンやトランクスも同社の製品を好んだ。

 タイトルマッチの3日後、エバーラスト社は自らの落ち度を認め、クロフォードと彼の陣営のミスではないとの声明を出した。

 「クロフォード対アバネシヤン戦で使用されたグローブの製作中に、欠陥のある革バッチが用いられました。そして、試合中に不具合が発生しました。

 このような問題が生じた場合、エバーラストは適切な手順に従い、試合の管理団体の決定の下、予備のグローブを提供し、交換することを常としています」

写真:ロイター/アフロ

 ESPNがパウンド・フォー・パウンドKINGとするクロフォードが古里で試合をするということで、地元コミッションは浮足立っていたのか。あるいは、経験が乏し過ぎたか。名門ブランドであった筈のエバーラストは、商品のクオリティーをどう捉えるのか。

 クロフォードは快勝したものの、周囲に課題を突き付けるWBOウエルター級タイトルマッチとなった。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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