昇格組の大宮が好調の理由は何か? コツコツ稼ぎ、コツコツ成長する。鹿島は第三、第四の手に乏しかったか
J1昇格組の大宮アルディージャが好調だ。ファーストステージ第9節で鹿島アントラーズと対戦し、スコアレスドロー。勝ち点15で5位に着けている。
今季開幕前の展望を行う上で、大宮は頭を悩ませるチームだった。渋谷洋樹監督率いるチームは、ポゼッションからのサイド攻撃が緻密に組み立てられている。昨季のJ2でもその攻撃力で優勝し、昇格を果たした。しかし、J1クオリティーのカウンターにさらされたとき、どうなるのか。
自分たちのやり方にこだわりすぎると、大きくつまずくことも考えられる。そんなわけで、筆者は中位のやや低めに予想したのだが、ここまでの大宮の試合を見て、少しイメージが変わった。
攻撃に重心を置きながらも、今季の大宮はうまく戦っている。理想と現実、将来の成長と目先の勝利。いろいろな部分でバランスが良い。
鹿島との試合でも、戦術的な柔軟性が見られた。
前半はある程度、互角に戦った。左サイドに開いたドリブラーの泉澤仁への展開、ボールや人に食いつきやすい鹿島のボランチの背後でボールを受けようとする江坂任、流動的にポジションを動かす家長昭博が、鹿島のセンターバックをサイドや中盤に引き出し、1トップのムルジャと共に中央の空いたスペースへ仕掛ける場面が何度もあった。
やりたい攻撃の形は垣間見えたが、しかし、鹿島の球際の強さ、前へ迫るプレッシャーはやはり強く、大宮は時間が進むに連れて、前線と後ろが分断された。前線が孤立しやすくなった結果、大宮の選手で目立ったプレーをするのは、相手を背負ってターンしたり、ボールを浮かせてかわしたりと、個の局面で違いを見せる家長ばかり、という展開にハマった。
渋谷監督は「もっと攻撃のクオリティーを高めなければいけない」と言い、江坂も「前向きに仕掛けられたのはアキさん(家長昭博)くらいだった」と唇を噛んだ。たしかに、後半はほぼ自陣に釘付けになり、試合を通してシュート2本に終わったのだから、悔しさは募る。
しかし、ねらいとする攻撃が影を潜めても、守備はしっかりと踏ん張った。
鹿島の攻撃で怖いのは、第一にFWの飛び出し、第ニはサイドハーフのカットインだ。
裏への飛び出しに対して、大宮はセンターバックの菊地光将と河本裕之を中心に球際でしっかりと防ぎ、かつ、ラインをずるずると下げるだけではなく、積極的にラインを上げてオフサイドに仕留める場面もあった。
そして、サイドハーフのカットインに対しては、ボランチの一人が助けに行く。特に鹿島の左サイドハーフのカイオは脅威を与えるプレーをする選手だが、大宮は対面するサイドバックの奥井諒だけに任せず、横谷繁が中へのドリブルコースを切り、対応した。
鹿島はシュート15本を打ったが、遠目からのシュートや、あるいは大宮のコンパクトな守備にコースを限定された強引な打ち方も多かった。決定機と言えるシュートは2つ程度だったのではないだろうか。
守備で勝ち点を拾っていることについて、渋谷監督は「本来の私のイメージではない」としながらも、「2014年に途中就任したときも、毎試合失点したことが多かった。それを少なくすれば、勝ち点はもらえると。私も自分の反省があった」と語る。この辺りには、今季の大宮のバランスの良さが伺える。
逆に、ここ2試合で無得点に終わっている鹿島は、第三、第四の手に乏しかった。
引いて中央を固める相手を崩すには、サイド突破が定石だ。もう少しサイドを深く崩せれば、大宮のDFが慌てるシーンは増えただろう。しかし、本来の左サイドバックの山本脩斗が負傷で欠場。西大伍が左サイドバックへ移り、伊東幸敏が右サイドバックに入った急造の鹿島は、サイドを縦に突き崩す攻撃が少なかった。
後半21分に小笠原満男のスルーパスに伊東が大外から飛び出したり、あるいは28分に西がサイドで高い位置を取り、金崎夢生らに大宮DFが気を取られている隙にカイオが中央へ入って飛び出したりと、少し目先の違う攻撃が見られたが、シーンとしては少なかった。この点は大宮にとっては幸運だったのかもしれない。
圧倒されながらも、大宮は鹿島と勝ち点を分け合った。
渋谷監督はこの試合で得た課題について、『カウンター』を挙げている。最近の試合は名古屋、甲府、湘南と、ボールを持てる対戦相手が多かったが、やはり鹿島クラスの強豪と戦うためには、カウンターの刃をもっと磨く必要がある。
目先と将来。理想と現実。コツコツと勝ち点を積み重ねながら、コツコツと成長する大宮。
次節は5月4日の福岡戦、その後は8日に浦和とのさいたまダービーが控えている。絶好調のライバルに、どのように挑むのか。楽しみな一戦だ。