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西宮市長選・市議補選でまさかの完敗 野党第一党を狙う日本維新の会の前途は多難か

安積明子政治ジャーナリスト
「空飛ぶ車」を視察する松井市長と吉村知事。党勢は「飛ぶ勢い」にはならず……(写真:つのだよしお/アフロ)

市長選ではほぼゼロ打ち

 「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」とはプロ野球の名監督だった故・野村克也氏が残した言葉だが、まさか投票箱を閉じてすぐに当確が打たれようとは、誰も予想しなかったに違いない。だが3月27日に行われた兵庫県・西宮市長選で、神戸新聞は午後8時5分に現職の石井登志郎市長に当確を打っている。石井氏が獲得した票数は8万8572票で、4万9158票を獲得した日本維新の会公認の増山誠元県議に4万票近くの差を付けての勝利だった。

 さらに同時に行われた市議補選で、日本維新の会は2人の公認候補を擁立するも、2人とも落選。維新の本拠地・大阪に最も近い西宮市での完敗は、いったい何を意味するのか。

全国展開の足掛かりだった西宮市長選

 昨年10月の衆議院選で11議席から41議席に大きく勢力を伸ばした日本維新の会。とりわけ兵庫県では、擁立した9人のうち兵庫県第6区の市村浩一郎氏が当選し、残り8人も全員比例区で復活当選を果たしている。その躍進ぶりは数字に表れ、同年11月のFNN世論調査によれば、日本維新の会の政党支持率は11.7%で、野党第一党の立憲民主党は7%。衆議院の議席数41の政党が議席数96の政党を抜いたのだ。

「我々が全国政党に広がっていくためには、地方議員さんも必要です。で、地方自治体の首長さんをそのなかから誕生させていく。そういう基盤がしっかりできたなかで国会議員を誕生させる。そうすると国と地方がうまく絡み合いますんで、よりそのパワーアップした政治というのはできると思います」

 昨年12月6日のBS番組で日本維新の会の馬場伸幸共同代表は、維新が飛躍する方策は「首長のポストを握ること」とはっきり述べた。そして全国展開への第一歩となるべきが西宮市長選であり、その基盤も整っていた。

 日本維新の会は2019年4月の西宮市議選で、5人の候補を擁立して全員が当選。そのうち3人は高得票の1位から3位までを占めている。また2021年の衆議院選では日本維新の会は西宮市内で8万3040票の比例票を獲得し、自民党の5万7060票、立憲民主党の3万1538.727票、公明党の2万4票などを上回った。

昨年の衆議院選ではコロナ禍にもかかわらず大人気の吉村知事
昨年の衆議院選ではコロナ禍にもかかわらず大人気の吉村知事写真:アフロ

 このように順調に勢力を伸ばしているように見えた日本維新の会だが、果たしてどこで躓いてしまったのか―。

追い風は止んだ

「完全に風向きが変わってしまった。今回は維新には吹かなかった」

 そう話すのは、兵庫県のある自民党関係者だ。昨年7月に行われた兵庫県知事選では、元大阪府財政課長の斎藤元彦氏が当選。斎藤知事を推薦したのは自民党の一部と日本維新の会だったが、退職金半減や歳費の3割カットなど「身を切る改革」を実行する斎藤知事は、「大阪府外の最初の維新系首長」と注目を浴びた。

 そのような斎藤知事を維新は兵庫県進出の足掛かりにするはずだったが、「(斎藤知事のかつての上司である)大阪府の吉村洋文知事に比して、せいぜい府の課長クラスどまり」と斎藤知事の県内での評判はいまいち。しかも斎藤知事が県政の運営のために自民党に寄り添う姿勢すら見せるため、維新にとっても気が気ではないこともあるらしい。

 そうした焦りが西宮市の2つの選挙での候補擁立に現れたのではないか。上述の自民党関係者はさらにこう述べる。

「西宮市長候補として維新がたてた増山氏は、2019年の県議選に当選したばかり。もう数回当選を重ねていれば別だったのだろうが、いかんせん政治歴が浅く、有権者に顔も名前も憶えてもらえなかった」

 日本維新の会関係者もこう話した。

「増山氏擁立は7区の三木圭恵衆議院議員が決めた。もっと名前の知られたベテランを擁立していたら、結果は変わったかもしれないが……」

 2021年の衆院選で比例復活し、7年振りに永田町に復帰した三木氏の惜敗率は98.39%。7区の大部分を占める西宮市の首長をおさえれば、次の選挙での勝利も十分にありうる。

2人擁立という計算ミス

 市長選と同日に行われた市議補選に2人擁立したのもミスといえるだろう。最も勢いがあった昨年の衆議院選での比例票数から判断しても、2人の当選は不可能だ。

 「しかしそれが、維新ゆえの策ではなかったか」と、上述の自民党関係者は分析する。「補選に2人出したのは市長選を盛り上げることが目的で、規定路線は1人当選。もう1人については今回の補選を予行演習として、来年の市議選に回せばいい」。

 ならばなおさら、2人擁立は失敗だ。候補を1人に絞っていれば、当選は確実だったからだ。ある西宮市関係者は「そもそも維新の計算が狂ったのは、宮本恵子氏が出馬したからではないか」と述べている。

 3人の子供を持つシングルマザーで3万2713票を獲得して当選した宮本氏は、市議だった夫を昨年7月に亡くしている。その遺志を受け継いだ宮本氏は立憲民主党の推薦を得たが、支持はそれ以外にも広がった。「宮本氏が出馬しなかったら、維新は1議席を獲得したはず」と同関係者は語った。自民党関係者も「宮本氏は強かった」と評価する。

雨の中で見えた緩み

 選挙戦最終日に大阪市の松井一郎市長あるいは吉村知事を投入して勢いを上げることが維新の常套手段だが、26日に吉村知事が西宮市内で応援演説したのに完敗したことについて、上述の自民党関係者はこう述べている。

「街宣の場所は甲子園前のららぽーと。甲子園野球の試合が行われていれば、演説するのに良い場所だ。しかしこの日は雨天のため、2つの試合が翌日に延期された。にもかかわらず、場所が変更されていないとは、いったい維新はやる気があるのか」

 日本維新の会は3月27日に党大会を開き、今夏の参議院選で改選議席を倍増させ、来年の統一地方選の後に600名以上の地方議員を有し、次期衆議院選で野党第一党になるという野心たっぷりの目標を掲げた。だが全てが実現する前に、結党以来党の要となってきた松井市長が退場する可能性もないわけではない。そうした危機を維新はどう乗り切るつもりなのか。

 その行動指針が「不思議の勝ち」のみに基づくものでないことを、国民のひとりとして願うばかりだ。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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