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CLベスト4,古巣バルサと戦うグアルディオラ。勝利の「処方箋」と遺恨の最終節。

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサ戦前日練習のグアルディオラ監督。(写真:ロイター/アフロ)

欧州チャンピオンズリーグは、準決勝でバイエルン・ミュンヘンとFCバルセロナが対戦する。

「グアルディオラ監督は誰よりもバルサを知っている。勝つための"処方箋"を与えてくれるだろう。あとは選手たちがやるべきことをやるだけだ」

バイエルンのトーマス・ミュラーは、自軍の指揮官に全幅の信頼を置いている。

決戦の注目ポイントは、最強バルサを創った英雄、ジョゼップ・グアルディオラがバイエルンの指揮を執り、愛するクラブと対戦するという点だろう。グアルディオラはバルサの生え抜き選手として育ち、クラブ愛は人並み外れて強い。選手としてもいくつもの栄冠を勝ち取っている。

「バルサを相手に戦いたくない」という忠誠心で、スペイン国内のクラブに移籍しなかったほどだ。

しかし、今回は監督として戦わざるをえない。カンプ・ノウに敵として乗り込むのは人生初。期するところはあるだろう。

かつてグアルディオラは、現在の主力であるメッシを筆頭にシャビ、イニエスタ、ブスケッツ、ピケ、アルバ、アウベス、マスチェラーノ、ペドロなどほとんどの選手を指導した経験がある。08-09シーズンから4年間にわたってチームを率い、リーガエスパニョーラ3連覇、スペイン国王杯2度優勝、チャンピオンズリーグ2度優勝。09,11年にはクラブW杯でも優勝し、あらゆるタイトルを取り尽くした。

バルサで生まれ育った男は、選手の長所も短所も知り尽くしている。

「メッシ封鎖計画」

決戦を前にバルセロナの有力スポーツ紙「SPORT」は一面で打電。グアルディオラはベルナットを中心に、ラーム、ボアテングという3人のミックスディフェンスでメッシの力をそぎ落とし、孤立させる戦略を立てているという。重用していた左DFアラバを故障で欠いていることは計算外だろうか、バルサ時代にメッシの力を全開させた指揮官の作戦には説得力がある。

すなわちこの一戦は、「グアルディオラvsバルサの選手」という構図が見える。バルサを率いるルイス・エンリケ監督がグアルディオラがバルサを指揮していた時代、セカンドチームであるバルサBを率いていたことも因縁めいている。両者、複雑な心境での対決になるだろう。

そして厳しい勝負の世界、大きな成功を収めた監督と選手の関係と言えども、決して美しいだけではない。

グアルディオラはバルサ指揮3年目で「サイクルは終わった」と感じて辞任の意向を示していたが、結局は4年目も指揮することになった。結果、4年目は国王杯しか勝ち取れていない。グアルディオラは選手の覇気が衰え、士気が低下していたことを憂慮していたわけだが、その通りの結果になった。

11-12シーズンの最終節だ。ベティス戦のロッカールームで、グアルディオラは選手たちに向かい、半ば錯乱したようにプレー態度を責めた。優勝はすでにレアル・マドリーに決まっており、"消化試合"だったのだが、2-2と引き分けた不甲斐なさを許さなかった。

「おまえらにはやる気が感じられない! もう(勝ち取ったタイトルに)満足でもしたのか! そんな体たらくでは、これから栄光は望めなくなるぞ」

その語調は強く激しく、選手たちが呆然とするほどだった。いつものグアルディオラは言葉は熱かったとしても、論理的だったからだ。

選手を叱責し続ける指揮官はどうにも止まらず、たまりかねて一人の選手が発言した。

「俺が退場になってしまい、10人にしたことで難しい試合にしてしまった。避けられたカードだった。本当にみんなに迷惑をかけて申し訳ない。ここで詫びるよ」

この試合で退場処分になっていたダニエル・アウベスが謝罪したことで、何とかその場は収まった。

選手たちは数日後に行われた国王杯決勝、アスレティック・ビルバオ戦で開始30分間近く、信じられない猛攻を見せた。メッシらが3得点し、一気に試合を決めてしまった。それは、監督の非難に対する"無言の抗弁"だったと言われる。

結局、この試合を最後にグアルディオラは去った。

その後のバルサは2012-13シーズンにリーガエスパニョーラで一度優勝したものの、チャンピオンズリーグや国王杯のタイトルはない。図らずもグアルディオラが危惧していたように、クラブとしては栄耀栄華を極めていた時代の覇気が感じられなくなった。今シーズン、メッシ、ルイス・スアレスらの輝きは眩しく見えるものの、カウンター主体で、自慢のポゼッションフットボールはキレを失いつつある。

はたして、バルサの選手たちはかつての恩師を前に"遺恨"を感じ、正当性を示せるのか?

グアルディオラは秘策を用意しているだろう。同じくバルサ育ちで"凱旋"するチアゴは、試合のキーマンになりそうだ。相次ぐケガに苦しんできたファンタジスタだが、ポルト戦は実力を示した。彼がチャンスを創り出し、レバンドフスキーやミュラーがゴールを狙う・・・。「攻撃こそ最大の防御なり」は、グアルディオラの変わらぬ信念である。

決戦の行方が注目される。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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