Yahoo!ニュース

投手優先?打者優先?大谷翔平が絶対的エースになったからこそネビン監督代行に突きつけられた究極の二択

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
6月22日のロイヤルズ戦で自身最多の13奪三振を記録した大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【二刀流としてMLB初の快挙を成し遂げた大谷選手】

 大谷翔平選手がまたまた二刀流選手としてMLB史上に名を残す快挙を成し遂げた。

 現地時間の6月22日に行われたロイヤルズ戦に登板し、8回を投げ2安打無失点の好投を演じ、今シーズン6勝目を挙げた大谷選手だったが、同時に自身最多の13奪三振を記録し、自らの勝利に花を添えている。

 その前日には打者として2本塁打を含む8打点を記録し、こちらも自身最多を更新。まさに二刀流で連日の活躍を見せるに至った。

 ESPNによれば、1920年に打点が公式記録に加わって以降、各選手のキャリアの中で1試合8打点と1試合13奪三振を達成した選手は、今回の大谷選手が史上初めてということだ。

 ちなみに大谷選手と度々比較されるベーブ・ルース選手でも、1試合最多打点が6、また1試合最多奪三振が11に止まっており、これらの個人記録に関しては大谷選手がルース選手を上回ってしまった。

【今やチームの絶対的エースになった大谷選手】

 ところでエンジェルスが悪夢の14連敗から脱してからというもの、チームの先発ローテーションは明らかに大谷選手を中心に回っている。

 6月9日のレッドソックス戦で、大谷選手が投げては7回4安打1失点の好投を演じ、打っては5回に逆転2ラン本塁打を放つという投打にわたる活躍で連敗を阻止して以降、チームはここまで7勝7敗と一進一退の状況が続いている。

 だがもう少し細かく観察すると、先発投手陣に関しては決して一進一退とは言い切れないのだ。

 というのも、大谷選手が登板した6月16日のマリナーズ戦、そして今回のロイヤルズ戦ともに、チームは3連敗と2連敗という悪い流れの中で大谷選手の登板を迎えているのだ。

 しかもロイヤルズ戦に至っては、7回終了時点で球数が96に達しながら(それまで100球以上投げた試合は1度しかなかった大谷選手からすればお役御免の場面だった)、前日に延長戦を戦ったリリーフ陣の疲労を考慮し、フィル・ネビン監督代行に続投を志願していたのだ。

 チームの悪い流れを引き戻し、リリーフ陣を休ませるため少しでも長いイニングを投げる──。これこそチームの絶対的エースが果たす役割に他ならない。

【大谷選手しか頼りにならない先発投手陣】

 7勝7敗のスパンの先発投手の成績を比較すると、大谷選手の圧倒的存在感がさらに浮き彫りになってくる。

 この14試合で大谷選手は3試合に登板し、3勝0敗、防御率0.43と、手がつけられない成績を残している。説明するまでもなく、3試合ともにクオリティスタート(6イニング以上、3自責点以下)を達成している。

 一方、残りの先発投手の成績は11試合で1勝6敗、防御率5.21で、クオリティスタートも3回しかないのだ。明らかに大谷選手を除く先発投手陣は、今も厳しい状態が続いているのだ。

 もし大谷選手がいなかったとしたら、エンジェルスは今も深刻な低迷を続けていたのではないだろうか。

【打者出場を優先しながら投手起用を考案したマドン前監督】

 現在の先発投手陣の状況を見れば、チームが再び浮上しポストシーズン争いに加わるためにも、大谷選手を中心にローテーションを回していくしかないと考えるのが当然だろう。だがそう単純にはいかないのだ。

 エンジェルスは6人の投手でローテーションを回しているので、通常なら各投手は中5日、もしくは中6日で登板していくことになる。だが解任されるまでのジョー・マドン前監督は、大谷選手を打者としての出場を優先する傾向にあり、その合間で登板間隔を調整しながら投手として起用していた。

 それを裏づけるかのように、昨シーズンの大谷選手は中5日登板(6回)、中6日登板(7回)だけでなく、中7日登板というのが2回あり、さらにシーズン前半戦では中12日登板と中15日登板も経験している。

 今シーズンの大谷選手も基本的に中5日登板(5回)、中6日登板(6回)で回っているのだが、やはり中7日登板をすでに2回経験している。

 ちなみに他の先発投手にしても、トミージョン手術から復帰したノア・シンダーガード投手や、今シーズン初めて開幕ローテーション入りしたリード・デトマーズ投手が存在しているため、ここまでローテーション通りに登板していた先発投手はマイケル・ロレンゼン投手とパトリック・サンドバル投手の2人しかいない状況だった。

 そんな彼らが好投を続けていたからこそ、14連敗前までエンジェルスは地区首位争いができていたと考えていいだろう。

【打者優先?それとも投手優先?究極の二択】

 繰り返しになるが、現在の先発投手陣の状況を考えれば、シーズン最後まで大谷選手をローテーション通りに中5日もしくは中6日で登板させるのが最善策だ。

 だが投手中心の起用法を推し進めていけば、どうしても大谷選手はある程度の休養が必要になってくるわけで、打者としての出場機会を多少抑えていかねばならなくなる。

 さりとて昨シーズンに引き続き主軸として期待されたアンソニー・レンドン選手を失った今となっては、大谷選手を打線から外すのはチームにとって大きな戦力ダウンになってしまう。

 チームが勝利するために、今や投打ともに必要不可欠な戦力になってしまった大谷選手。究極のオールマイティカードを手中にしたネビン監督代行は、今度どのように大谷選手を起用していくのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事