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「2015以後」の宿題(3)サンウルブズも知っている。「大物頼りで勝つ時代」の終焉【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真中央の堀江は、林曰く「ち密に考えて、言葉を選びながら皆に伝える」。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

不安な船出?

世界最高クラスのスーパーラグビーへ日本から新規参入するサンウルブズは、準備の遅れを指摘されている。一般的には加盟する各クラブとも、12月には合流可能な選手を集めてプレシーズンキャンプをおこなう。かたや極東の若い組織は、2016年2月初旬に最初のメディカルチェックを開始した。開幕は約4週間後だ。

15年秋のワールドカップイングランド大会では、日本代表が過去2回優勝の南アフリカ代表から大会24年ぶりの勝利を挙げた。サンウルブズもその南アフリカのカンファレンスに入って戦うのだが、当時のジャパンにはエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチのもとでの4年間の積み重ねがあった。

16年2月4日、メディカルチェックを終えたサンウルブズの日和佐篤が共同取材に応じた。前日集合時の夜にチームメイトと「これから、どうなるんだろうね」と話し合ったという昨季の日本代表スクラムハーフは、質問に答える形でこう発した。

「基本的には監督が方向性を決めて、皆が同じ絵を観ていく。その辺のすり合わせを、うまいことしていきたいです」

まずは首脳陣が戦略術を提示する。次に各担当分野のコーチが、細部のプレーを落とし込む。選手が実際にその戦術略を遂行するための微調整を、練習や試合を通しておこなってゆく。それが、ラグビーのチームの強化の手順だ。各工程のクオリティーの精査の質と所属選手のキャリアや技術の合わせ技が、いわゆるチーム力となって勝負を象る。この法則は、日本最高峰のラグビートップリーグでも通じるだろう。

「南アフリカ」がトレンドだった

トップリーグが発足した2003年以来、現役の強豪国代表が相次ぎ来日する。国際的に見れば安くないサラリーや、国の治安の良さなどが背景となっている。

また、大物が加入した後のチームの変わりようの事例も、かなり蓄積されている。例えば、かつて下位に低迷したクラブの某ニュージーランド代表選手は、練習中に若手選手のロータックルを食らうや「俺の足にいかほどの価値があると思っているのだ」とすごんだという。それが真実だとしても、世界最強国出身者のプライドの発露と受け取れなくもない。ただ、こんな調子の逸話が広がる分だけ、獲得する選手の性格調査が重要になっている。

結果、いまのこの国にあるトレンドが生まれた。南アフリカ人選手のリクルーティングだ。どのチームのコーチも、「南アフリカの選手は真面目」と口を揃える。ボスが提示した戦略術への理解の速さ、戦略術をブラッシュアップする力、その過程で必要な選手間でのコミュニケーションに評価が集まっている。

先駆け的存在は、11年度に来日のジャック・フーリー。代表72キャップ(国際間の真剣勝負への出場数)のセンターは、翌年からプレーする神戸製鋼で2013年度にトライ王を獲得。芝の上ではパスをもらう時や守備網をせり上げる瞬間の大声が特徴的で、平尾誠二ゼネラルマネージャーも、「プレーもそうだが、人がいい」と認めるほかなかった。

まさかの降格

ワールドカップイングランド大会を終えて迎えた15年度のトップリーグにも、多くの現役南アフリカ代表選手が新加入。いずれも才気を放っていたが、獲得した側の結果は明暗に分かれた。

「日本人と南アフリカ人は似ているところがある。常にチームのために一生懸命プレーする、お互いに助け合うという部分がです」

これは53キャップのナンバーエイト、ピエール・スピースの弁である。身長194センチ、体重107キロ。筋骨隆々の身体つきで相手守備網に杭を打つ。

イングランド大会でも活躍した7キャップの身長189センチ、体重100キロのセンター、ダミアン・ディアリエンディ(日本代表戦には不出場も、「12番がダミアンだったら勝っていない」と某ジャパン選手)とともに、近鉄に加わった。順位を前年度の12位から7位に上げた。ディアリエンディは第4節の故障で戦列を離れたが、序盤から2人揃ってチームにフィットしていた。開幕時、前田隆介監督は「やるべきシステムを短時間で伝えると『わかった、わかった』と。その点では、心配していなかったです。彼らも私たちのやろうとするラグビーを楽しいと言ってくれていて、やるべきことをやり切ろうとしてくれる」と話した。

キヤノンでは28キャップのフルバック、ウィリー・ルルーが駆け回った。この人は愚直さとは別な個性で知られる賢人だ。あるスタッフ曰く「バックス(パスやランを多くするポジション)は、ウェイトトレーニングをする時間を戦術理解に割くべきでは」と若手選手に助言したらしい。

イングランド大会を終えて開幕直前に合流するや、第1節でトライセービングタックルを決めるなど、危機管理能力を発揮した。球を持てばナイフの走りで4トライを記録した。チームメイトでスタンドオフの橋野皓介キャプテンが「常にチャンスを探している」と皮膚感覚を明かす傍ら、ヤマハのフルバックである五郎丸歩は「ランニングスキル、凄かったですね」と驚いた。前年度7位のチームは、過去最高の6位で戦い終えるのだった。

イングランド大会の南アフリカ代表選手を加入させたもうひとつのチームが、NTTドコモだった。20キャップのハンドレ・ポラードは、視野の広さとロングキックが冴えるスタンドオフ。44キャップのエベン・エツベスは、身長204センチの長身ロック。さらに開幕直前に加入したジェシー・クリエルは、突破力が魅力の11キャップのセンターである。いずれもイングランド大会で存在感を示しており、いずれも20代前半から中盤と伸び盛りの人だった。

しかし、前年度は11位だったチームは、最下位に終わった。さらに入替戦で敗れ、下部降格の憂き目にあった。

勝つ理由のあるチームが勝つ

今季はトップリーグのレギュレーションが変わっており、順位の比較だけでチーム力の推移を指し示すことはできない。それでも、イングランド大会を3位で戦い終えた南アフリカ代表を加入させた3チームのうち、2チームが手応えを掴んで、1チームが辛苦を味わったのは事実である。そしてその背景には、本来の強化手順と加わった選手の相関関係がある。

順位を上げた近鉄は、そもそもチームの決めたプレーへの理解や遂行力に手応えを掴んでいる時期だった。コーチから昇格して就任5年目となる前田監督は、シーズン終盤にこう証言した。「相手どうのこうのより、自分たちのやることにフォーカスする。それを選手が主体性にやっている。グラウンドでも『自分たち、自分たち』と言いながら」。特にワイド攻撃や肉弾戦への援護に、その意をにじませていた。

キヤノンも永友洋司監督が就任4年目だ。トップリーグ昇格前の09年からヘッドコーチを務めており、トライアンドエラーの蓄積は十分。担当コーチを入れ替えつつ、年を重ねるごとに成長を実感していた様子だ。

フロントの支援にも芯を作っている。現体制発足当初は移籍選手が力を発揮も、トップリーグに加わった12年度からは当時2季目の和田拓をキャプテンに据えて中堅以下の生え抜きにチャンスを与える。現役時代は4チームを渡り歩いた瓜生靖治がスカウトを務め、吸収力の高さを重視した採用活動を継続。立命館大学卒のロック宇佐美和彦は、2014年度の活躍で日本代表となった。近鉄と同様、大物加入のメリットを最大化できる状態だった。

かたやNTTドコモは、今季は最後までゲームプランの遂行に苦しんだか。入替戦では大型センターのパエア・ミフィポセチを司令塔に据える布陣で挑んでいた。自作のプロモーションビデオによる売り込みで入団を決めたフランカーの佐藤大朗キャプテンは、シーズン中にこんな苦悩を明かしていた。

「南アフリカ代表の選手は積極的にコミュニケーションを図ってくれて、選手にいいエッセンスを与えてくれている。逆に、日本人選手のなかに遠慮ではないですが、外国人頼みに近いマインドがあったのではと思います。自分たちのシェイプ(攻撃陣形)があるのに、単発(個の力に頼った攻め)になったことも多々あったので」

3連覇中のパナソニックでは、スタッフとプレーヤーがフラットな立ち位置で練習日程を策定。戦略術の涵養や対戦相手の分析においても、「選手とコーチで、お互いが感じることをすり合わせている」とセンターの林泰基は言う。かつてオーストラリア代表を率いたロビー・ディーンズ監督は、不動の日本代表フッカーである堀江翔太キャプテンの「ファシリテーション能力(皆の意見を聞き入れ、活用する力)」を買っている。

スタンドオフにはオーストラリア代表51キャップのベリック・バーンズを据えるなど、戦力の充実も確かだ。ただ、日本代表ウイングの山田章仁によれば、「人と人との距離が近いから、お互いの能力が活きやすい。お互いが離れていたら、能力のある人の能力がわからないまま」。真の勝つ理由を持ったチームのみが、勝てる。日本のラグビー界もそういう領域に突入してきた。

幸い、準備期間の短いサンウルブズには、パナソニックの主力が4名、加わる。堀江は「戦略術、ブレイクダウン(接点)、アタック、ディフェンス…。あちこちに顔を出したいですよね。意見を出していきたい」と覚悟を決める。

15年のワールドカップイングランド大会で日本代表が結果を残したことで、この国のラグビー界は一気に注目度を高めた。次なる目標はブームを文化に昇華することだ。いくつかの課題を検証する。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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