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Jリーグ王者からMLSへ~首位に快勝した守護神~

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
まだ27歳。可能性は無限大だ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨シーズン、横浜F・マリノスの守護神として、Jリーグ優勝を果たした高丘陽平(27)。チームで唯一、リーグ戦全試合に出場し、ベスト・イレブンにも輝いた。

 その彼は今季から、メジャー・リーグ・サッカー(MLS)のバンクーバー・ホワイトキャップスでゴールマウスを守る。

 現地時間6月24日、敵地であるロスアンジェルスに乗り込み、西地区首位を走るLAFCと対戦。正GKを獲得した彼の活躍もあり、キックオフ時点で同10位だったホワイトキャップスは、昨年の王者であるLAFCを3-2で下した。

 試合開始1分、高丘のロングパスが前線左サイドに渡り、CKを得る。ホワイトキャップスは、このチャンスをものにし、ヘディングで先制点を奪った。LAFCは3日前にフル出場した元イタリア代表の名DF、ジョルジョ・キエッリーニを温存していたため、守りに難があった。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ホワイトキャップスは球際での競り合い、空中戦をことごとく制し、追加点を奪う。前後半に1点ずつ反撃を許したが3-2で勝利し、順位を一つ上げた。LAFCは71分にキエッリーニを投入したが、時既に遅しであった。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 この日、高丘は7つのセーブを見せ、存在感を示した。その幾つかは、LAFCのシュートを自身の正面で受けた。ポジショニングの良さが光っていた。

 試合後、彼に話を聞いた。

 「こっちに来てから、ゴールの守り方、スペースの守り方が凄く新鮮なんです。日本にいた時には教わってこなかったやり方ですね。最初は『これで、本当に守れるのかな?』という感じがあったんですが、やってみると今までよりも楽と言うか、ボールを正面で取れることがあったり。良くなってきている段階だと感じています。

 GKコーチは『世界中の誰もやっていない』と話しますし、一つのアイディアとして面白いです。自分が一つ二つ、レベルアップ出来るんじゃないか、という実感があります。ポジショニングは、こちらに来て変わりましたね。ただ単にゴールネットを守るんじゃなくて、いかに自分の目の前にあるスペースを守るかを常に考えています」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 MLSに飛び込んだ理由については、こう語った。

 「昨シーズン、マリノスで全試合出させて頂いて優勝出来たということで、自分としてはヨーロッパでのプレーを模索したんですが、日本代表にも入っていなかったですし、そういう選手がヨーロッパに直接移籍するのは2022年のシーズンオフの時点では難しかったんですね。そんな時、バンクーバーが熱心にオファーをくれたんです。

 MLSに日本人のGKは来たことが無かったですし、いいチャレンジになるんじゃないかと考えました。バンクーバーは色んな国籍の方が住んでいて、アジア系も多く、面白い場所です。食事面で困ることもありません。海外生活を始める第一歩としては、申し分無い環境だなと感じています」

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 MLS特有の縦に速いサッカーについても訊いた。

 「マリノスにいた時は非常にテクニカルで、ボールポゼッションをしながら、かつ縦に速く、を意識していました。日本のサッカーとの違いもありますが、対戦する相手は世界なので、GKとしては色々な攻め方に対応しなければいけません。MLSには素晴らしい選手がいますから、そういう人たちと対戦していい経験ができているなと思いますね」

撮影:筆者
撮影:筆者

 昨シーズンの優勝チームで、今季も西の首位であるLAFCから勝利を挙げたこと、そして今後の目標についても質した。

 「LAFCとは、2~3カ月前にCONCACAFチャンピオンズリーグで対戦しました。1戦目も2戦目も0-3で負けたんです。1戦目の60~70分くらいまでは、ある程度互角に戦えていたんですが、その後、差が多少あったように感じました。

 でも、今日の僕らは固く守れました。2失点はしてしまいましたが、大きな崩れは無かったですし、チャンスを沢山作れたので、勝ちに値するゲーム内容だったと思います。

 自分は今、バンクーバーでチャンスを与えてもらっているので、ここで100%出し切って、順位を一つでも上げてプレイオフに出場してチャンピオンを目指していきたいです。去年、Jリーグチャンピオンとなりましたが、その素晴らしさって言葉で表現できないくらいのものでしたから、バンクーバーでも達成したいですね。そして日本代表にも食い込んでいきたいです」

 確かに、高丘陽平の一つ一つのプレーからは、<チャレンジ>という言葉が伝わってきた。MLSで大きな花を咲かせてほしい。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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