片岡愛之助さんが美術館で新作歌舞伎 「和と洋のコラボ」で壮大な世界を表現
徳島県鳴門市の大塚国際美術館で、2018年2月15日、歌舞伎役者、片岡愛之助さんらが出演する第8回システィーナ歌舞伎「GOEMON ロマネスク」が始まりました。壁画「最後の審判」などで有名なシスティーナ礼拝堂(バチカン)を陶板で原寸大に再現したホールで演じられたのは、どのような作品だったのでしょうか。
歌舞伎では珍しい、四方に客席を配したアリーナスタイルの舞台で、愛之助さんふんする石川五右衛門と、中村壱(かず)太郎さんふんするかたき役が、大立ち回りを演じます。バックには、陶板で再現されたミケランジェロの「最後の審判」。和と洋の融合が、不思議な雰囲気を醸し出します。同美術館の「システィーナ・ホール」を生かした迫力のある演出です。
システィーナ礼拝堂の天井画や壁画を原寸大に再現した間口約19メートル、奥行き約40メートル、高さ約16メートルのホールで演じられる新作歌舞伎「システィーナ歌舞伎」は、今年で8回目。「和と洋のコラボレーション」をテーマに、毎回、奇想天外な作品が演じられてきました。
今年の演目「GOEMON ロマネスク」は松竹の製作で、水口一夫さんが作・演出、藤間勘十郎さんが振付を手掛けました。作品のテーマは「愛と憎しみ」。大盗賊、石川五右衛門が明智光秀の重臣の娘とスペインの宣教師との息子だったというユニークな設定です。
愛之助さんは宣教師と五右衛門の二役を演じます。二部構成で、スペインが舞台です。第一部は宣教師と日本人村に住む女性との物語。第二部は、父親を追ってスペインに渡った五右衛門が活躍する物語です。
古典歌舞伎では見られない多彩な演出が特徴で、フラメンコや闘牛などスペイン文化が随所に取り入れられています。音楽でも、長唄や琴、太鼓などに代表される邦楽と、弦楽四重奏やフラメンコギター、聖歌といった洋楽が効果的に用いられています。
また、今回は、元宝塚歌劇団月組トップスターの女優、彩輝(あやき)なおさんも出演。女性役の他に、かつて宝塚歌劇で演じた男役をほうふつとする美青年を演じており、壱太郎さん演じる女形と一緒に歌う場面は、まるで宝塚歌劇のワンシーンのようでした。
役者たちも手ごたえを感じたようで、愛之助さんは初日、午前の部の公演を終え、「いつものチームに加えて彩輝さんに宝塚のカラーも出していただき、素晴らしいコラボレーション歌舞伎になったのではないか」と話していました。
美術館を舞台とした歌舞伎のだいご味とは
ところで、なぜ大塚国際美術館で、歌舞伎が演じられるようになったのでしょうか。同美術館は、大塚グループの創立75周年記念事業として、1998年、創業者である故大塚武三郎の地元、鳴門市に設立されました。延べ床面積約3万平方メートルの広大なスペースに、陶板で再現された25カ国の西洋名画1000点余りを展示するという世界でも珍しい美術館です。
システィーナ・ホールで歌舞伎を披露する試みは、2009年に始まりました。毎回、新作がお披露目されることもあり、回数を重ねるごとに人気が高まっています。公演期間も09、10年は、2日間でしたが、11年からは3日間となり、18年は「新作歌舞伎でありながら3日間という期間では短い」(同美術館)と、2月15~18日の4日間(8回)に増えました。
壮大なホールの空間を生かした演出も、見ものです。今年の公演でも、壁画「最後の審判」を再現した陶板に光で十字架を浮かび上がらせるなど、空間を効果的に使っていました。彩輝さんは「素晴らしいホールの中で、和と洋の融合ができるということは、貴重な体験でした」と語っています。
このような演出は、歌舞伎ファンからも好評です。2月15日は、約800人が観劇しました。香川県丸亀市から夫と訪れた60代の女性は「和洋いろいろな要素が入っていて素晴らしかった。(システィーナ・ホールの)厳かな雰囲気の中での演技に引かれました」と感嘆していました。
同美術館の担当者は「毎回が新作ですので、始まるまでどのような作品になるのか分かりません。歌舞伎ファンはもちろん、美術ファンの方にもぜいたくなひとときを楽しんでほしい」と話します。
歌やダンス、笑いも入った独創的なシスティーナ歌舞伎。構えずに見られるのも、また魅力です。
撮影=筆者(協力・松竹株式会社)