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auカブコムも対応 ネット証券が「入出金」を無料にする狙いとは

山口健太ITジャーナリスト
auカブコム証券のスマホアプリ(筆者撮影)

auカブコム証券が入出金に関するサービスの拡充を発表しました。4月27日にはネット振込の提携銀行を追加し、対応するすべての金融機関への出金手数料を無料化しています。

これを活用すれば、手数料をかけずに銀行間でお金を動かすことができるようになります。証券会社にとってはコスト負担になりますが、どこに狙いがあるのでしょうか。

証券口座を介して無料でお金を動かせる

最近、副業やポイ活が広まったことで、さまざまな口座に少額のお金が入ってくる機会が増えています。

それらをかき集めて投資などに回したいところですが、お金を動かすにはたとえ自分の口座間であっても振込手数料がかかってしまいます。

その手数料を回避する方法の1つとして、証券会社の口座を利用するというものがあります。銀行から無料で入金し、別の銀行に無料で出金するわけです。

今回、auカブコム証券が強化してきたのがこの機能です。入金については、ネット振込の提携銀行として、住信SBIネット銀行や楽天銀行など6行が追加されました(パソコンからは対応済み、スマホからは6月に対応予定)。

住信SBIネット銀行など6行からのネット振込が可能に(auカブコム証券のWebサイトより、筆者作成)
住信SBIネット銀行など6行からのネット振込が可能に(auカブコム証券のWebサイトより、筆者作成)

また、出金については一部の銀行を除いて110円の手数料がかかっていましたが、4月27日からはすべての金融機関への出金が無料になりました。

実際に、筆者の口座を使って入出金を試してみました。auカブコム証券のネット振込は、一部のメンテナンス時間を除けば「1分程度」で即時反映すると説明されています。

そこで平日の午前11時に住信SBIネット銀行から1000円を入金してみたところ、たしかに30秒ほどでauカブコム証券の残高に反映されました。

次に、出金です。auカブコム証券では、多くの金融機関について営業日の13時30分までなら「当日中」の出金が可能となっています。

出金先として登録している楽天銀行の口座に1000円を出金してみたところ、約1時間で楽天銀行の残高に反映されました。これで手数料をかけずに銀行間でお金を動かせたことになります。

出金先の口座はオンラインで変更できます。最近、証券会社によってはセキュリティ対策などの観点からさまざまな制限を課していますが、auカブコム証券では営業日の8時〜20時なら15分ごとに反映されるのである程度柔軟に変更できそうです。

これを活用すれば、利用者は自分の口座間で無料でお金を動かすことができるようになります。ところで、そのコストを負担していると考えられるauカブコム証券には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

auカブコム証券の決算説明会で聞いてみたところ、「たしかに短期的に出金が増えたり、コストが増えたりすることは想定している」(カスタマーサクセス部 部長の小松圭一氏)といいます。

一方で、「他の証券会社の事例として、出金手数料を無料とすることでコスト増を想定していたところ、いつでもお金を出せるからこそ口座にお金を残していただけるという意外なニーズが多かったと聞いている」(小松氏)とのこと。

「手数料無料でいつでもお金を出せるようにすることで、出金もできるが、投資や資産形成にも使っていただけるという両面で利便性を提供していきたい」(小松氏)と狙いを語っています。

その背景として、代表取締役会長兼社長の二宮明雄氏は「目先の収支よりも将来を見据えた先行投資をしている」と説明。スマホ用アプリのリニューアルを含め、「他社と比べて劣後している点を埋め、MUFGとKDDIのジョイントベンチャーとしてのブランド価値を高めるべく、サービスを拡充していく」との方針を示しています。

「先行投資」の一環として、スマホ用アプリとWebサイトのリニューアルも実施している(auカブコム証券のプレスリリースより)
「先行投資」の一環として、スマホ用アプリとWebサイトのリニューアルも実施している(auカブコム証券のプレスリリースより)

お金は「動かしやすいところに置く」という発想

お金は動かしやすいところに置く、というのは筆者も個人的に実践しています。楽天証券に入金して楽天銀行に出金するという方法は毎月のように利用しており、米ドルならSBI証券と住信SBIネット銀行の組み合わせが定番になっています。

単に入金と出金をするだけなら証券会社には1円も残りませんが、月に何度もログインすることで画面構成や操作に慣れ、キャンペーンや新商品が目にとまる機会が増えるようにも感じています。

すでにauカブコム証券にはauじぶん銀行の口座と連携できる「auマネーコネクト」があります。さらに今回から他の金融機関にも無料で出金できるようになったことで、「お金の動かしやすさ」競争において確実に存在感を増した印象です。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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