ロシア軍がシリアでジョージア人テロリスト、ムスリム・アブー・ワリード・シーシャーニーを狙って爆撃
シリア北西部のイドリブ県で12月11日、ロシア軍戦闘機が「決戦」作戦司令室の支配下にあるジスル・シュグール市近郊のヤアクービーヤ村の民家に対して熱気化爆弾3発で精密爆撃を行い、外国人戦闘員1人、子供2人を含む住民3人が死亡、女性複数と子供6人を含む12人が負傷した。
英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団、親政府系サイトのザイトゥーン、反体制派支配地での救急消防活動やプロパガンダ・工作活動に関与するホワイト・ヘルメットなどが発表した。
爆撃が行われたのは、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を握り、同組織とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)が主導する「決戦」作戦司令室が支配するいわゆる「解放区」。
狙われたのはジョージア出身のテロリスト
爆撃は、ジョージア出身のムスリム・アブー・ワリード・シーシャーニー(本名ムラド・イラクリーヴィッチ・マルゴシュヴィリ)が家族とともに身を寄せていた民家を狙ったもの。
シーシャーニーは2012年半ば頃にトルコを経由してシリアに不法入国し、チェチェン人やレバノン人を主体とする武装集団のジュヌード・シャームを結成し、シリアでテロ活動を続けている人物。2014年9月に米国によって特別指定国際テロリスト(SDGT)に指定され、2017年6月に国連安保理決議第1267号制裁委員会の制裁リストに追加されている。
ロシア軍の爆撃を恐れて、頻繁に居場所を変えているとされるシーシャーニー本人は無事だったが、今回の爆撃で妻と子供らが負傷した。
ロシアとアル=カーイダの挟撃
ジュヌード・シャームは、2014年6月にイスラーム国がカリフ制樹立を宣言すると、メンバーの多くがイスラーム国に合流したが、長らくシャーム解放機構や、国民解放戦線を主導するアル=カーイダ系組織のシャーム自由人イスラーム運動と共闘を続けていた。だが、2020年3月に、ロシア・シリア軍とトルコ軍・反体制派の激しい戦闘を経て、ロシアとトルコが「解放区」での停戦に合意すると、これらの組織との関係を悪化させていった。
2021年に入って、シャーム解放機構は、外国人戦闘員を主体とするジュヌード・シャームなどの武装集団が追跡中の犯罪者や指名手配者を匿っていると主張、彼らの身柄引き渡しを応じなければ、追放すると迫った。そして、10月に武力でこれを圧倒し、ジュヌード・シャームは本拠地であるラタキア県トルキスタン山地方からの退去を余儀なくされていた。
ジュヌード・シャームから見れば、かつての共闘組織であるアル=カーイダとロシアの挟撃を受けたかたちだ。