日本の最低賃金1004円と英国の生活賃金2007円の意味
■200万人の低賃金労働者が恩恵
[ロンドン発]ジェレミー・ハント英財務相は10月2日、英イングランド北西部マンチェスターで開かれている与党・保守党年次大会の演説で来年4月から法定の国民生活賃金を時給11ポンド(約2007円)に引き上げると表明する。BBCなど英メディアが一斉に報じた。
国民生活賃金の引き上げで200万人の低賃金労働者が恩恵を受ける一方で、職を探そうとしない手当受給者に対する締め付けを強化する。23歳以上の労働者の最低賃金を法律で定める国民生活賃金は現在、時給10.42ポンド(約1901円)。
国民最低賃金は21~22歳で10.18ポンド(約1858円)、18~20歳で7.49ポンド(約1367円)、18歳未満と実習生で5.28ポンド(約964円)だ。2016年から実施された国民生活賃金は独立諮問機関である低賃金委員会の助言に基づいて政府が毎年4月に引き上げる。
■時給中央値の3分の2が目標
政府はすでに国民生活賃金が来年10月までに時給中央値の60%だった目標値を3分の2に引き上げていた。この目標を達成するために必要な金額は10.9ポンド(約1989円)から11.43ポンド(約2086円)の間とみられている。
国民生活賃金の対象となるフルタイム労働者の年収は1000ポンド(約18万2500円)増える。「保守党が国民生活賃金を導入して以来、200万人近くの人が絶対的貧困から抜け出した。これが働く人々の生活を向上させる保守党のやり方だ。給料を上げ、税金を減らす」
その一方で、ハント氏は「コロナ・パンデミック以来、物事は間違った方向に進んでいる。企業が働き手を見つけるのに苦労する一方で、毎年約10万人が労働市場を離れ、手当で暮らしている」と職探しをしない手当受給者への締め付けを強め、就労を促す方針だ。
■長期疾病で働けない人は250万人
「公平性の根本的な問題だ。仕事を探そうともしない人々は正しいことをしようと懸命に努力している人々と同じ恩恵を受ける資格はない」というものの、詳細は11月の秋季予算案まで先送りされる見通しだ。
長期疾病で働けない人の数は増加しており、250万人が健康状態のため労働市場から離れているとされる。こうした人々に職場復帰を促すには、イングランドだけでも待機患者数が768万人に達した原則無償のNHS(国民医療サービス)を建て直す必要がある。
日本の最低賃金は10月1日から東京都で1072円から1113円に引き上げられた。全国加重平均額でも1004円と初めて1000円を突破したが、全国最低の岩手県は893円。デフレが続いた日本でも世界的なインフレでようやく賃上げと価格転嫁が定着する気配が出てきた。
■岸田首相の最低賃金1500円は実現可能か
経済協力開発機構(OECD)の統計によると、購買力でみた主要国の実質最低賃金(22年米ドル)はフランス13.8ドル(約2067円)、ドイツ13.6ドル(約2037円)、カナダ11.1ドル(約1662円)、韓国9.5ドル(約1423円)、米国7.3ドル(約1093円)。
少子高齢化が進み、放っておくとデフレに戻りかねない経常黒字国・日本と、常にインフレ気味の経常赤字国の英国では事情は異なるとは言え、日本はまだまだ賃上げの余地が大きい。岸田文雄首相は30年代半ばまでに最低賃金額を全国加重平均で1500円にする目標を掲げる。
日本はインバウンドや輸出で稼ぐしか生きる道はない。日銀の緩和がもたらした円安と、英国のインフレのダブルパンチに苦しむロンドン在住の筆者には岸田首相の最低賃金1500円目標が「超円安のまやかし」にならないことを祈らずにはいられない。