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東京五輪開会式のピクトグラム。極限の緊張から「GABEZ」が得たもの

中西正男芸能記者
「GABEZ」のMASAさん(左)とhitoshiさん

今年7月の東京五輪開会式で競技のピクトグラムを体で表現し、世界を驚かせたパフォーマーデュオ「GABEZ(ガベジ)」のMASAさんとhitoshiさん。絶対に失敗が許されない緊張感の中でたどり着いた境地。そして、そこからの学びとは。

手探りの中での準備

MASA:これまで世界11カ国ほどで公演を行ってきたんですけど、開会式の後に「見たよ!」という連絡を各国の方からいただき、当たり前のことなんですけど(笑)、改めて大きな場だったんだなと思いました。

「GABEZ」という名前を単純に多くの方に知ってもらえたというのがまずうれしいですし、僕らは吉本興業さんでお世話になっているんですけど、吉本さんの社内でも僕らが所属だということを知らなかった人が多くて「え、吉本やったんや!」と知ってもらえたことも、実は大きな効果がありました(笑)。

今回のパフォーマンスの端緒となり、僕らもずっとお世話になっている(パントマイムアーティストの)HIRO-PONさんから「ちょっと話が…」とお声がけをいただいたのが2月でした。

ただ、この話は全部鵜吞みにはしないでほしいと。話があることは事実なんだけど、まだどうなるか分からない。そう前置きがあった上での話でした。

hitoshi:実際、直前まで何がどうなるか分かりませんでしたからね。本当にやることが100%確定になったのは当日です。それくらい本当に分からない。そんな中での練習期間でした。

MASA:最初は「なくなるかもしれない」と頭で理解しながらのスタートだったんですけど、これも当然なんでしょうけど、本当に素晴らしい方々ばかりが集まって、日々アイデアを出し、磨きをかけていくので、どんどん良いものになっていくんですよ。みんなの結束もどんどん強くなっていくし、純粋に面白いものになっているという感覚もある。途中からは「なんとかして、やりたい」という思いで頭がいっぱいになりました。

根本的な話になりますけど、なぜ僕らが選ばれたのか。本当はプロのダンサーさんとか、いろいろな人が候補にいらっしゃったみたいなんです。

でも、まず核となるHIRO-PONさんに打診があった時に、短期間で何か物を作り上げるとなると、パフォーマーとしての腕も大切だけど、関係性も大切だと。

互いに物が言い合える。言わずとも通じる。それがないと短い時間で仕上げるのは難しい。そんな判断があって、昔からお付き合いがある僕らにお声がけをいただいたようで。

hitoshi:そもそもの話を言うと、MASAは役者を目指していて、僕もダンサーをやりながらテレビタレントみたいな仕事がやりたくて同じ芸能事務所に所属してたんです。

ただ、日々仕事があるわけでもないし、その事務所の若手メンバー13人ほどで「GABEZ」というユニットを組んで、いろいろなパフォーマンスをやっていたんです。

ただ、そのユニット活動も頻繁にあるわけではないので、それも解消みたいになったんですけど、僕はこのユニットに可能性を感じていて、ユニットのリーダー格だったこの人(MASA)に声をかけて二人での活動を始めていったという流れなんです。それが2007年頃のことだと思います。

その頃に受けたコンテストの審査員をされていたのがHIRO-PONさんで、そんなところからご縁をいただいて今に至るという感じなんです。

MASA:人としての関係値がしっかりある中ではあったんですけど、新型コロナ禍が強まって練習ができない時期もあったので、実質3カ月で本番を迎えることになりました。スケジュール的にはなかなか厳しい流れではありましたね。

hitoshi:パフォーマンスのベースはHIRO-PONさん、僕らが考えて、そこに衣装さん、音楽担当の方、あらゆるプロが集まって作り上げていきました。

何より、誰もやったことがないことなので「こうやればやりやすい」とか「こうすれば効率的」というセオリーも何もないんです。

一つの一つの競技の動きでもすぐにできるようになるものもあれば、何回やってもできないものもある。でも、それも50回練習してもダメかもしれないけど、100回練習すればできるようになるかもしれない。でも時間は限られている。どこまで試せばいいのか。その判断も分からない。とにかく手探りでした。

誰もやっていないことをやる

MASA:あと、僕はすごく“緊張しぃ”なので、この上ない大舞台でやるプレッシャーもありました。いかに緊張と向き合うか。ここもHIRO-PONさんからいろいろと教わりました。

緊張しないようにするというのは無理だと。緊張はするもの。緊張を受け入れて、緊張しているところからどうするのか。その練習をした方がいいと。というんですけど、緊張をしちゃいけないから緊張を受け入れるということ。緊張しないようにではなく、緊張したところからどうするかという。

HIRO-PONさんは「脳みそを置く」と表現されるんですけど、例えば、本番当日だったら朝起きてから本番直前の現在まであったことを思い出していくと。

朝起きて歯を磨いて、お茶を飲もうと思ったらコップがなくてみたいなところまで細かく振り返っていく。そうやって今現在まで時間を埋めていくと、すっと地に足が着くというか、そんな感覚になると。

さらに、完璧にというか、決めたことを100%やるのももちろん良いんですけど、失敗を失敗としないというか。リハーサルと違うことになっても、それはお客さんには分からない。こちらが瞬時に対応していかに成立させるか。そういう対応をする柔軟性みたいなものも緊張とうまく向き合えば高めることができるということも意識するようになりました。

ただ、開会式当日は、何をやってもダメでした(笑)。緊張で。でも、最後に考えたのは隣にHIRO-PONさんがいる。さらにhitoshiがいる。最強の二人がいるわけですから、何を疑うことがあるのか。その思いが出てきて、本番に臨むことができたんです。

hitoshi:実際の話で言うと、前日の段階でも完成はしてなかったんです。というのは、練習場ではうまくいっていても、本番の場所に行くと、まず地面が違う。ツルツルすべる。さらに衣装が加わると、また感触が変わる。さらに小道具も練習用のものではなく本番用のものになると、これまでの感覚とは違う。何もかも変わった中で、実質的にはまたかなり前に戻ってしまうというか。

ただ、誰かに代わってもらうわけにはいかない。やるのは僕らしかいない。そう思って本番に臨みました。

そして、僕は全く緊張はしてなかったんです。もちろん練習はやってきたし、そして、誰もやったことがないことをやるので、何がどうなろうが、僕らがやったことが正解になる。失敗があったとしても、それが正解というか、唯一の結果になる。

誰かがやったことなら明確な答えがあるのかもしれませんけど、誰もやってないことなので答えがないというか。その感覚になると、本当に緊張はしなかったんですよね。

MASA:本当にありがたいことに、今回のことで“名刺”をいただいたと思っています。これからはより一層、僕らがやっていることを確立していきたい。僕らがいいなと思っていることを広くやっていきたい。そう今は思っています。

僕らがやっていることの原点というか、あこがれが昔テレビで志村けんさんと加藤茶さんがやられていた「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」(TBS)でされていたコントというか、言葉がなくても見ていて面白いものなんですよね。

それを海外でも当たり前のようにやる。僕らがやろうとしているものがしっかりと形になる。それを目指していきたいなと。

ただ、体あってのパフォーマンスなので、年々、加齢の恐ろしさを感じてもいます(笑)。それでも“名刺”もいただいたので、なんとか、自分たちが思っているものを作り上げられるよう頑張りたいと思っています。

(撮影・中西正男)

GABEZ

MASAとhitoshiがそれぞれ10年以上のダンス経験をもとに、2007年からコンビ活動を始める。中国、フランス、韓国、イタリア、ニュージーランド、オーストラリア、インドネシア、タイなどで公演を開催。今年年7月、東京五輪の開会式で「が~まるちょば」のHIRO-PONとともにピクトグラムのパフォーマンスを披露した。パフォーマンスライブvol.4(12月18日、ヨシモト∞ホール)を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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