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ロシアのウクライナ侵攻に沈黙?「後方支援」? 北朝鮮の「複雑な心境」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ウラジオストクで会談した金正恩総書記とプーチン大統領(労働新聞から)

 北朝鮮はウクライナ問題を巡る問題ではこれまでロシアの立場を支持してきた。実際に今月13日には米国が北大西洋条約機構(NATO)を拡大してロシアへの軍事的威嚇を強めているとして、北朝鮮外務省はロシアに肩を持つ記事をウェブサイトに掲載していた。

 北朝鮮とウクライナとの交流はゼロに等しい。新年の賀状の交換も一度もない。それに対してロシアは北朝鮮にとって数少ない伝統的友好国である。

 ロシアは北朝鮮に対してほぼ毎年小麦粉など食糧支援するほか、国連の場では北朝鮮への制裁緩和を求めるなど北朝鮮を擁護してきた。従って、今回のロシアのウクライナ武力侵攻でも当然、支持を表明してしかるべきだが、事はそう単純ではない。北朝鮮はこれまで主権国家に対する大国の武力行使には反対の立場を貫いてきた経緯があるからだ。

 古くは北ベトナムへの空爆(1965年)、グレナダへの侵攻(1983年)、パナマへの侵攻(1990年)、そして湾岸戦争(1991年)からイラク戦争(2003年)、さらにはアフガニスタン侵攻(2001年)からリビア空爆(2011年)やシリアへの空爆(2017年)まで「米帝の侵略的野心を露呈した」と、米国に非難を浴びせてきた。

 直近のシリア空爆の時は「主権国家に対する明白な侵略行為である」と規定し、「米国は超大国を自称しているのに核兵器を持っていない国だけを選んで横暴を極めてきている。絶対に容認できず、強く断罪する」との外務省談話を発表していた。

 同じ論理、理屈に立てば、今回のロシアの主権国家・ウクライナへの武力行使に対しても同様の批判をしてしかるべきだ。なぜならば、北朝鮮は過去には同盟国、友好国であっても他国への内政干渉、特に小国への武力行使については批判していたからだ。

 例えば、中国とベトナムの中越戦争では国境を越え、ベトナムに侵攻した中国を批判し、またそのベトナムがカンボジアに攻め入った国境紛争ではベトナムを批判し、カンボジア側に立った。いずれも「大国主義の横暴」を問題にし、小国を庇っていた。

 また、ロシアの前身、旧ソ連が同じ社会主義陣営のルーマニアや旧ユーゴと冷却な関係にあった時も「自主独立」の旗印の下、ルーマニアやユーゴに連帯を表明していた。同盟国の争いで唯一、中立を保っていたのは1969年の「中ソ国境紛争」ぐらいだ。

 露朝関係は金正恩(キム・ジョンウン)総書記が2019年4月に訪露(ウラジオストク)し、プーチン大統領と初の首脳会談を行って以来、急速に発展してきたが、それまでは蜜月な関係ではなかった。その理由はロシアが北朝鮮の核実験やミサイル発射実験に反対し、米国に同調して制裁を科していたからだ。北朝鮮は国連安保理から10回も経済制裁を受けているが、この間ロシアは中国同様に一度も拒否権を行使することはなかった。

 そのため北朝鮮はロシアに対して「米国の策動に追随し、主権国家の自主権を乱暴に侵害したばかりか、我が共和国の最高利益である国家と民族の安全を直接侵害する道に入った」とか「小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めない」とロシアの大国主義的強権に反発していた。

 「干渉を受け入れ、他人の指揮棒によって動けば、自主権を持った国とは言えない。真の独立国家とは言えない」と言い続け、大国の圧力や干渉を批判してきたならば、ロシアよりも小国のウクライナ側に立ってしかるべきだが、米国と対峙している北朝鮮にとってロシアは中国と並ぶ後ろ盾だけに原理、原則に従うというわけには行きそうにない。損得勘定すれば、失うものが多すぎるからだ。実際に2014年のロシアのクリミア併合では国連総会で「ロシアによるクリミア編入無効決議」が出された際には棄権した中国とは対照的に北朝鮮は反対票を投じてロシアを擁護していた。

 それでも、北朝鮮はウクライナの主権を侵害したロシアの横暴を公然と支持するわけにはいかないだろう。ロシアがミサイルと核を放棄すれば安全を担保するとウクライナに約束していたにもかかわらずそれを反故にして、攻撃したからである。

 ウクライナはロシアから分離、独立した際に約1800基の核弾頭とICBM(大陸間弾道ミサイル)を保有する世界第3位の核ミサイル保有国だった。ロシアが米国や英国と共にウクライナの安全を保障すると約束したからこそウクライナは核とミサイルをすべてロシアに返還、廃棄、そして非核化に踏み切ったのである。

 ロシアの侵攻に接したウクライナのクレバ外相は「核放棄決定は賢明な判断ではなかった」と嘆いていたが、北朝鮮の核問題では米国だけでなくロシアもウクライナ方式による非核化を唱えていたこともあって北朝鮮にとってウクライナは他人事ではない。同じような立場、境遇にあるだけに表には出さないが、内心ウクライナに同情しているのではないだろうか。

 安全保障と制裁解除を条件に大量殺傷兵器の完全廃棄を宣言したカダフィ政権が2003年に英仏を中心とした連合軍の空爆によって倒された時、北朝鮮外務省は「(米国は)安全保障と関係改善という甘い言葉で武装解除させた後、軍事的に襲った」とし、「地球上に強い権力と横暴な振る舞いが存在する限り、力があってこそ平和を守護できるという真理が改めて確証された」との談話を発表していたが、北朝鮮は今回のロシアのウクライナ攻撃でこの言葉を再確認したのではないだろうか。

 北朝鮮は米国が2001年にアフガンに侵攻した際、李享哲(イ・ヒョンチョル)国連大使(当時)が「武力行使は正当化できない」と反対し、国連に対して「大国が弱小国家の自主権を脅かし、紛争問題を支配主義の実現目的に利用しないよう特別な注意を払うべき」と注文を付けていた。

 こうした過去の発言からも北朝鮮はロシアの軍事侵攻を全面的に支持することは躊躇い、沈黙を守るものと考えられるが、逆にミサイル発射を再開し、米国を牽制するなど「後方支援」することもあり得るかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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