アップル対サムスン特許裁判でアップルが手痛い敗北
いろいろな裁判が錯綜して全貌が把握しにくくなっているアップル対サムスンの米国での裁判(もう私もすべてを追っかけている時間がなくなりました)ですが、北カリフォルニア地裁での2回目の裁判(第一審ではサムスンに約136億円の損害賠償支払命令)の控訴審において、2月26日にアップルの重要な特許権が無効にされ(当然、損害賠償命令は取消)、しかも逆にアップルによるサムスンの特許権侵害が認定されてしまうという、アップルにとっては手痛い判決が下されました。
今回、問題になったアップルの特許は3件ありますが、うち2件が無効、1件が非侵害とされました。その内容については、大昔に弊所ブログでも書いていたものです(過去ブログ記事1、過去ブログ記事2、過去ブログ記事3)。
US5,946,647(System and method for performing an action on a structure in computer-generated data)「コンピューター生成されたデータの構造上でアクションを実行するためのシステムと方法」
通称「データタッピング」特許です。ドキュメント中の特定の文字列(たとえば、電話番号)を自動的にリンク化し、対応する操作(たとえば、電話をかける)を呼び出せるようにするというアイデアです。これはサムスンの非侵害が認定されました。ちなみに本特許は今年の2月1日に権利満了していますので、無効かどうかにかかわらず今後の侵害については気にする必要はありません。
US8,046,721(“Unlocking a device by performing gestures on an unlock image”)「アンロック・イメージ上でのジェスチャーによるデバイスのアンロック」
昔のiPhoneでおなじみのアイコンのスライド操作によるロック解除方式に関する特許です(もう最近では画面全体をスライドする方式に変わってますので今ではあまり意味がないかもしれません)。これは無効と判定されました。特許性の問題は別として、当時としてははなかなかエレガントなUIだったとは思います。
US8,074,172(”Method, system, and graphical user interface for providing word recommendations”)「単語の推奨を行なう方法、システム、及びGUI」
昔のiOSデバイスのiOSデバイスのオートコンプリートの実装、ほぼそのまんまの特許です。これは無効と判定されました。昔にブログ記事に書いたように出願日は比較的新しい(2007年)こともあり、もともと進歩性は疑わしかったと思います。
上記の特許はHTC等のベンダーにライセンス契約を結ばせざるを得なくしたアップルにとっては「値千金」の特許でした。一般に、特許資産は何百億円の価値があると言われていても、いったん無効にされてしまうと価値ゼロになってしまいますので、価値評価という点ではなんともやっかいではあります。アップルが再審理を求めるかどうかは現時点では明らかではないようです。
今にして思えば、アップルは裁判でガチンコで争うなどせずに、普通に特許権を適正な金額でライセンスして、サムスンは今後丸パクリデザインはやめる(過去の侵害は不問とする)くらいの条件で和解していれば、両者とも、もっと建設的なイノベーションに予算を使えたと思います(アップルにはジョブズの弔い合戦的な感覚もあったのかもしれません)。
ところで、サムスンに800億円強の損害賠償支払が命じられた北カリフォルニア地裁の1回目の裁判ですが、これもまだ予断を許さない状況ではあります。これについてはまた別途。