「大麻使用罪」ができると、自国で大麻を吸った多くの外国人旅行者が日本で処罰される!
大麻取締法に存在しない「大麻使用罪」がいよいよ新設される、というニュースに接しました。
<独自>大麻の医療使用解禁 乱用阻止に使用罪新設へ(産経新聞) - Yahoo!ニュース
かりにこれが実現しますと、日本で大麻を吸っていなくとも、自国で大麻を吸った多くの外国人旅行者が日本で処罰されるというリスクが生じます。なぜそうなのかについて説明します。
大麻取締法第24条の8は、大麻を「みだりに」栽培したり、所持したり、日本や外国に輸出入するなどの行為について、「刑法第2条の例に従う。」としています。
刑法第2条は、特定の犯罪について「すべての者の国外犯」を規定したものであって、外国で犯された内乱罪や通貨偽造罪、有価証券偽造罪などについては、だれであろうと日本の刑法を適用して処罰するという条文です。大麻の栽培や所持などの罪について、それらを国外で犯したとしても、この条文によって大麻取締法の適用が認められています。
ただし、処罰の前提としては、「みだりに」栽培や所持などを行なったことが必要です。「みだりに」とは「違法に」という意味であり、日本国内であれば日本法に違反することですが、国外であれば、その行為がその国の法令に違反するとともに、その行為が日本で行われたとすれば、日本法にも違反するという意味です。つまり、日本だけではなく、その国でも当該行為が違法である場合に、「みだりに」にその行為を行なったとされ、大麻取締法で処罰可能となります(なお、この法解釈には異論はありません)。
ところで、世界では大麻について規制緩和が進んでおり、合法化を進めている国も出始めています(ウルグアイやカナダなど)。しかし、圧倒的多数の国では、「合法化」ではなく、大麻の「非刑罰化」を進めています。これは、大麻所持や使用などを(アルコールやタバコのように)完全に合法とするのではなく、違法であるという評価は維持しながら、その制裁として刑罰を適用するのではなく、(日本でいえば、交通違反の反則金のような)前科のつかない行政罰で対処しようというものです。
これを前提に話を進めますと、もしも日本で「大麻使用罪」ができれば、大きな混乱が生じるのではないかと思うわけです。
現在は日本には「大麻使用罪」はありません。逮捕されるのは所持や栽培などで、明らかに使用の形跡があっても、大麻それ自体が見つからなければ大麻取締法違反とはなりません。使用罪があれば、(覚醒剤と同じように)尿検査などで大麻成分が検出されれば処罰可能となります。
かりに「大麻使用罪」ができたとしても、海外の大麻が合法な国に行って、そこで合法に大麻を使用し、その行為がその国で完結しているならば、その場合は「大麻をみだりに使用した」に該当しないので、帰国後に大麻取締法で処罰されることはありません。
ところが日本に「大麻使用罪」ができたとして、海外の大麻について「合法化」ではなく「非刑罰化」を実施している国の場合、刑罰で処罰されないだけで違法であることは変わりないわけですから、日本人がそのような国に行って大麻を使用した場合には、(大麻使用が日本でも外国でも違法だから)帰国後に「大麻使用罪」で処罰可能になります(もちろん証拠がそろっていることが前提ですが)。
また、もっと重要なことは、大麻非刑罰化を実施している国の国民が日本に来た場合、その外国人も「みだりに大麻を使用した」ことになってしまいます。なぜなら、大麻取締法は、上述のように「すべての者の国外犯」を規定した刑法第2条に従うとの条文があるからです。日本人であろうと、外国人であろうと区別はありません。
これはそもそも刑法第2条が、規制薬物の取締りについて、国際協力を目的として設けられた規定だからです。国際社会は違法薬物の撲滅に協力して、違法薬物の規制に違反した者は、どこの国もだれであろうと処罰するという趣旨で設けられたのです(今はこの枠組みが崩れているのですが)。つまり違法薬物取締りに違反した者は、日本人であろうと外国人であろうと区別はないのです。
「大麻使用罪」創設をめぐる議論では、以上のような点も十分に議論されているのでしょうか。(了)
【参考】