デ・ヨングの逞しさに、攻撃的な戦術。アヤックスが巻き起こす旋風。
貫かれた哲学に、褒賞が届いている。アヤックスが、チャンピオンズリーグでベスト4に進出した。
彼らを優勝候補に挙げたとしても、もはや驚く者はいないだろう。決勝トーナメント一回戦でレアル・マドリーを、準々決勝でユヴェントスを破った。欧州王者とイタリア王者を打ち砕き、堂々とセミファイナルに臨む。
■4トップ
平均年齢24.1歳という若きアヤックスを束ねているのが、エリック・テン・ハーグ監督だ。
テン・ハーグ監督が敷く戦術は特徴的だ。3トップを従来のシステムとしているアヤックスだが、テン・ハーグ監督は、そこに大胆に変化を加えてみせた。
契機となったのは、レアル・マドリーとの一戦だ。昨年12月18日のエールディビジ第15節ズウォレ戦を最後に、スタメンから遠ざかっていたダヴィド・ネレスを先発に復帰させた。これは攻撃的な布陣を作り上げるためのプロセスだった。ハキム・ジィエフ、ドゥシャン・タディッチ、ネレスが最前線に据えられる。トップ下のファン・デ・ベークが加わり、4トップが形成された。
ファン・デ・ベークが「第4のFW」となり、対峙する守備陣のマークを攪乱する。相手の4バックが、アヤックスのアタッカー全員をマークするわけにはいかない。誰かを余らせるために、ボランチの助けを借りようとする。すると、デ・ベークやタディッチが巧妙にDF-MFラインを行き来して、相手のボランチを最終ラインに吸収させる。
4トップを採用する上で、欠かせないのがタディッチだ。タディッチはデン・ハーグ監督の手によってCFにコンバートされた。だが「典型的なセンターフォワードではない。継続的なプレーへの関与を求めるタイプの選手だ。チャンスを作りながら、ゴールを奪える」と指揮官が評するように、彼はストライカーらしいストライカーではない。
しかしながら、今季30得点11アシストを記録しているという事実が、新たな役割がタディッチを覚醒させた裏付けになっている。また、前線の選手が流動的に動いて空けたスペースを、ラセ・シェーネやフレンキー・デ・ヨングが使う。気付けば、対戦相手は自陣に釘付けにされている。
■薄くなる中盤
デ・ベークを捕まえるのは困難だ。彼は最前線でポストワークをこなしたと思えば、次のタイミングでは二列目から飛び出してくる。この戦術が、マドリーとユヴェントスをズタズタに切り裂いた。
一方で、中盤の選手の負担は大きい。だが、デ・ヨングとシェーネは、攻撃的な戦術を敷くチームが機能するように、働き続けている。アヤックスの基盤となっているのが、この2選手だ。
来季からのバルセロナ加入が内定しているデ・ヨングは、「2CB+アンカー」の3枚ビルドアップで、ボールを握るチームにおいて思う存分タクトを振るっている。守備の面では、シーズンが追うにつれてカウンターを潰す場面が多くなり、逞(たくま)しさを増している。
シェーネは玄人好みのプレーを見せる。守備時は淡々とスペースを埋め、攻撃時にデ・ヨングを生かすためにポジショニングを取る。3枚ビルドアップが詰まれば、臨時的にデ・ヨングとダブルボランチを形成して、連携しながらボールを前進させていく。
そして、4トップの効能は、攻撃面に限らない。守備の際、ボールを奪われると即座にプレッシングを行えるという利点が生まれている。トランジションの部分で、アドバンテージをもたらす可能性を常に含有しているのだ。
■証明
アヤックスが最後にチャンピオンズリーグで優勝したのは、1995年だ。
1996年のボスマン判決の影響で、優秀な選手が次々にビッグクラブに引き抜かれるようになった。人口約1700万人の小国オランダを象徴するアヤックスは、徐々に欧州で存在感を失っていった。
「これはオランダとアヤックスの哲学の証だ」
マドリーを撃破した直後、テン・ハーグ監督はそう語った。20年以上の時を経て、欧州のトップクラブと競い合う舞台に、アヤックスが戻ってきた。
4-3-3とポゼッションがアヤックス伝統のスタイルだ。しかし、それにとどまらず、4トップという攻撃的な戦術をオプションとして加えて、彼らは虎視眈々とビッグイヤー獲得を狙っている。