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過去のケースから北朝鮮の核実験が延期される可能性はないのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2016年3月に核関連部門を視察した際に核弾頭を前にする金正恩総書記(労働新聞)

 北朝鮮の7度目の核実験が差し迫っていると伝えられてからおよそ1か月以上経過した。

 米空軍偵察機のRCー135S「コブラボール」が昨日(16日)、北朝鮮に対する偵察と監視活動を行ったようだ。「コブラボール」の任務はミサイルの発射兆候を事前に捕捉し、軌跡を追跡することにある。核実験が差し迫っているならば、米空軍所属の「WC-135」が出動しなければならない。

 「WC-135」の主な任務は核実験後に大気中に含まれる極微量の放射性粒子を捕捉することにあるからだ。放射性粒子が検出されれば、その種類や濃度、比率によってどのような種類の核実験をやったのか判明する。

 北朝鮮の核実験は本当に間近に迫っているのだろうか?

 過去に何度も核実験の兆候がありながら、北朝鮮当局もまたそれを暗示しながら、直ぐにはやらなかったケースが何度もあった。それだけに「本当に近々、核実験を行うのだろうか?」との疑念もある。

 「核実験は近い」と騒がれたにもかかわらず、実際にはやらなかった、あるいは延期した年を挙げてみると、以下のとおりである。

 一度目は2010年の年で10月頃から北朝鮮が11月10日のオバマ大統領(当時)の訪韓に合わせて、3回目の核実験をやるのではないかと取り沙汰されていた。

 情報源は韓国紙「朝鮮日報」(10月21日付)で核実験場のある咸鏡北道吉州郡豊渓里で「最近になって動きが活発化している」と報道したことが引き金となった。米国の偵察衛星が豊渓里周辺で人や車両を捉えたことから「過去2回の地下核実験で崩壊した坑道が修復されている」というのがその根拠となった。実は、この年は4月にも韓国では「北朝鮮が5月か、6月頃に3度目の核実験をやる可能性がある」と囁かれていた。

 二度目は2012年で4月から5月にかけて、核実験の可能性が取り沙汰された。

 実際にゲーツ米国防長官(当時)は中止を求め、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)も共同声明を出し、北朝鮮に核実験の自制を求めていた。その結果、北朝鮮の核実験の動きは止まった。単なるアドバルーンで終わった。

 後に北朝鮮外務省報道官は談話を発表し、北朝鮮が「核実験を自制していることを米国に伝えていた」ことを明らかにした。外務省報道官は「それなのに米国がサミットの場で核実験説を持ち出し、圧力を強めようとするのは不当である」と、米国を批判していた。北朝鮮が実際に3度目の核実験を実施したのは翌年の2013年2月12日であった。

 三度目は2014年4月から5月の間でこの年は北朝鮮が国連安保理の北朝鮮非難声明に反発し、3月30日に外務省声明を出して「新たな形態の核実験」を示唆したため核実験の「4月、5月説」が現実味を帯びていた。

 韓国紙「セゲイルボ(世界日報)」は5月1日付で北朝鮮の権力層に精通している消息筋の話として「今月初旬にある」と報じた。この消息筋によれば、本来は4月15日の金日成(キム・イルソン)主席の生誕日の前日にやる予定だったが、中国に通報したところ、中国が強力に反対したため流れたとのことだ。そのうえで同筋は「北朝鮮は5月5日を次のXデーと定めている」と同紙に語っていたが、北朝鮮はこの年、核ボタンを押さなかった。実際に4回目の核実験はおよそ2年後の2016年1月に行われた。

 四度目は2017年の春で米FOXニュースが3月23日に複数の米政府当局者の話として豊渓里の核実験場で「数日以内に新たな核実験を実施する可能性がある」と伝えたのに続き、米CNNテレビも翌日(24日)、複数の米政府当局者から「北朝鮮が6回目の核実験の準備を終えたことを示す具体的な情報を得た」と伝えた。米当局者らは新たな衛星画像の分析の結果、これは過去の核実験の直前に見られた活動パターンの変化と同様で、最終段階の準備が完了したことを示唆していると分析した。

 核実験場を空撮した偵察衛星画像を分析した米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」のデーター分析から核実験場に地震波探知など計測装備や計測装備と地上統制所を繋ぐ通信ケーブルなども設置され、坑道の入り口も閉じられたことから韓国国防部は4月24日、「北朝鮮は金正恩氏の命令が下されれば、数時間内に核実験を実施できる。韓米合同で核関連施設を監視している」と述べ、北朝鮮の核実験を警戒していた。また、当時朴槿恵(パク・クネ)大統領も「北朝鮮はいつでも核実験が行える状態にある」と発言していた。しかし、北朝鮮が6回目の核実験を断行したのは約5か月後の9月3日であった。

 北朝鮮は新型コロナウイルスとみられる「原因不明の発熱」が収束していないことやチフスとおぼしき「急性腸内性感染症」が新たに発生したことで今直ぐに核実験ができる状況にはない。北朝鮮は核実験をやれば、決まって数日後には平壌を中心に全国で群集を動員した祝賀行事を大々的に行うが、現状では人を集めての祝賀行事はできない。どう考えても、今すぐには核実験には踏み切れそうにない。

 サリバン米大統領補佐官は昨日、中国の楊潔篪外交担当政治局員と13日に電話会談をした際、北朝鮮に対して影響力を行使し、核実験を止めるよう要請したことを明らかにしたが、今後、バイデン大統領も習近平主席との会談で同様の要請をするものとみられる。中国の仲裁次第では核実験延期の可能性も決してゼロではない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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