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出演作が再放送されるたび俳優にお金が入るハリウッドで多額の未払いが発覚。故デビッド・ボウイももらえず

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
デビッド・ボウイに渡るはずのレジデュアル(再使用料)はまだ組合が持っている(写真:REX FEATURES/アフロ)

オスカー予測上、重要な意味をもつ映画俳優組合(SAG)賞の授賞式が華やかに行われた数日後、SAGが俳優に払うべきものを払っていないという実態が発覚した。

Deadline.comが伝えるところによると、先日のSAG授賞式で流れた追悼映像に登場した俳優の60%が、もらうべきお金をもらわないで亡くなったという。デビッド・ボウイもそのひとりだ。SAGからの支払いを待つ俳優は96,000人、その総額は4,800万ドル。受け取るべきお金を受け取っていない俳優には、ニコール・キッドマン、ダスティン・ホフマン、スティーブ・マーティン、ショーン・コネリー、ダイアナ・ロス、マライア・キャリーなど、大物も含まれる。

この支払いは、出演料ではなく、レジデュアルと呼ばれる、再使用料のこと。日本と違い、アメリカでは、自分が出演した映画がテレビ放映されたり、テレビ番組が再放送されたり、それらがDVDになったりするたびに、レジデュアルが発生する。つまり、キャリアが落ち込んだとしても、前に出た作品のおかげで、お金が入ってくることがあるわけだ。これは、俳優に限らず、監督や脚本家、スタントマンも対象となる。「パルプ・フィクション」でキャリアのリバイバルのチャンスを得るまで、ほぼ忘れ去られていたジョン・トラボルタが、その間も生き延びられていたのも、「サタデー・ナイト・フィーバー」や「グリース」などのレジデュアルのおかげ。「となりのサインフェルド」「フレンズ」など、“シットコム”と呼ばれる、30分もののコメディ番組の場合、人気を得て長く続くと、レジデュアルは、もっとおいしくなる。続きもののドラマと違い、シットコムは基本的に前の回を見ていなくても理解できるので、再放送に向いており、あらゆる局に再放送権が売られ、常に世界中でかかっているからだ。コマーシャル出演にも、レジデュアルはある。大手ブランドの同じコマーシャルがしつこいほど何度も流れることがあるが、そこに出ている、どこにでもいそうな無名の俳優は、そのたびにお金をもらっているのである。

レジデュアルは、もともと、ラジオで始まった。東海岸と西海岸では時差があるため、同じものが1日2、3回流されたのだが、当時は録音技術にまだ不安があり、万が一に備え、2回目、3回目用に、出演者を待機させる必要があったことから生まれたもので、待機の必要がなくなってからも、続けられた。1952年にはテレビにも適用されるようになり、1960年には、SAGが、スタジオと戦った結果、ついに映画にもレジデュアルを出すことに同意させている(ただし、1960年より前に作られた映画は対象外。)

レジデュアルの金額は、もともとの出演料、契約条件、作品からどれだけの売り上げが上がったかなどによって変わるが、作品が使われる限り、レジデュアルは発生する。1回仕事をしただけで、永遠にお金がもらえるなんて信じられないと思うかもしれないが、その作品はまだ利益を生み出しているのだから、それを作り出すのに貢献した人たちが、そのうちのいくらかのパーセンテージをもらうのは、理にかなったことである。

最初の出演料と違い、レジデュアルは、SAGから俳優に小切手が郵送されてくる仕組みになっている。SAGのウェブサイトには、年間およそ150万から160万枚の小切手が送られているとある。出演した映画がプライムタイムのメジャーテレビ局で放映された場合、放映日の30日後に支払いがあることや、俳優が亡くなった場合は相続人が受け取れることも明記されている。

しかし、実際には、SAGの手元で止まっている支払いが、大量にあったのだ。SAGのウェブサイトには、「住所が間違っていたり、郵便物が戻ってきたりなど、いくつかの理由で、SAGがお金を預かっていることもあります」とあり、きちんとレジデュアルの小切手を受け取るために、登録住所を常に正しいものにしておくことを勧めている。だが、96,000人もの会員の住所が間違っているということは、ありえない。この細かく、煩わしい作業を行うのが後回しになり、たまっていってしまったというのが現実だろう。

Deadline.comは、過去にもこの件について報道をしており、その時の記事に名前が出たトム・クルーズ、ブラッドリー・クーパー、ジョージ・クルーニー、ケイト・ブランシェットなどには、その後、SAGから支払いがなされたらしい。彼らのように、出演作ごとに高額のギャラを稼ぐトップスターは、レジデュアルなどないならないでもやっていけるが、96,000人の中の多くの俳優にとっては、来月の家賃が払えるかどうかの問題だ。「スーパーマン」(1978)でロイス・レーンを演じたマーゴット・キダーや、ティーンエイジャーの頃はテレビ番組にレギュラー出演して1年に100万ドルを稼いだウィリー・エイムスのように、一時は成功した人がホームレスになってしまう例も、ハリウッドには少なくないのである。

かつて、俳優たちの権利のために立ち上がり、見事、勝ち取ってみせた俳優組合そのものが、50年後、せっかくの成果をおそろかにしているというのは、なんとも皮肉なこと。会員は、入会の際、3,000ドルの入会金と、毎年最低201ドルの年会費を払ってもいるのだ。そもそも、4,800万ドルが宙に浮いたままというのは、それだけで、もったいない話ではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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