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ウクライナ侵略非難決議にまで反対するれいわ新選組、その狙いは

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
先の衆議院議員選挙では、山本太郎代表をはじめ3人の衆院議員が誕生した(写真:つのだよしお/アフロ)

 ロシアによるウクライナ侵攻が国際的に大きな問題となっています。我が国は欧州から離れていることから直接的にこのウクライナ侵攻の当事者となっているわけではありませんが、経済制裁をはじめとする国際協調の枠組みの中で、日本政府もロシアのウクライナ侵略が国際秩序の根幹を揺るがすものとの認識のもと行動をしています。また、立法府たる国会も、同様にこのロシアによるウクライナ侵攻について非難決議を出すなど行動を行っています。ところが、この非難決議にれいわ新選組が相次いで反対をしています。なぜ、れいわ新選組はこの非難決議に反対するのでしょうか。

れいわ新選組は今国会における決議案を相次いで「反対」している

 1月から開かれている通常国会では、衆議院において「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議案」「ウクライナを巡る憂慮すべき状況の改善を求める決議案」という2つの決議がすでに可決されていますが、衆議院ではいずれも全会一致とはならず、れいわ新選組のみが反対しました(多数可決)。また、「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」についても、同様に反対するとすでに表明しています。では、国際社会の情勢から鑑みれば賛成して当然ともいえるような内容の決議案に、なぜれいわ新選組はわざわざ反対するのでしょうか。

 まず、「新疆ウイグルにおける深刻な人権状況に対する決議」への反対理由については、れいわ新選組の公式サイトに以下のような記載があります。

衆議院・れいわ新選組は、2月1日の衆議院本会議で行われる予定の上記決議に反対する。

いかなる国でも人権侵害は許されない。もちろんこの決議で言及された新疆ウイグル、チベット、香港などで行われている人権侵害を許してはいけないことは言うまでもない。

ウイグル自治区での大量拘束や拷問、大規模監視や宗教と文化の抹殺、強制労働や生殖に関する権利の侵害などを直ちに停止し、拘束された人々を解放することを目指し、国連などの独立した調査官や記者等の自治区への入域を受け入れるよう、中国に対して求めるべきである。

ではなぜ反対するのか。

簡単に言えば、

「腰のひけた決議を、やってる感を出すためだけにやるな」、である。

そうならぬよう内容の修正を求めたが、かなわなかった。

「新疆ウイグルにおける深刻な人権状況に対する決議」への反対理由(衆議院・れいわ新選組 2022年1月31日)

 また、今日の衆議院本会議で予定されているウクライナ侵略を非難する決議に反対する理由についてもれいわ新選組の公式サイトに以下のような記載があります。

れいわ新選組は、3月1日に衆議院本会議において予定されているウクライナ侵略を非難する決議に反対する。

無辜の人々の命を奪い、とりわけ子どもや障害者など弱い立場にある人々を真っ先に犠牲するのが軍事力の行使・戦争である。

れいわ新選組は、ロシア軍による侵略を最も強い言葉で非難し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求める立場である。

ではなぜ決議に反対するのか。

今、日本の国会として、一刻も早く異常な事態を終わらせようという具体性を伴った決議でなければ、また、言葉だけのやってる感を演出する決議になってしまう。

では、明日決議される内容に加えて、今、国会として強く政府に求めるならば、何を決議するべきか。

(中略)

・国内においては、この戦争によって原油高などの物価上昇により生活や事業が圧迫される状況に対して、消費税減税、ガソリン税0%、一律給付金などで日本国内に生きる人々を守る

以上のようなことを、政府に求めることが必要な場面ではないだろうか。

【声明】ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議について(れいわ新選組 2022年2月28日)

 いずれの記載にも共通する「やってる感」という言葉から、これらの非難決議に反対する理由が、「決議が表面的なものであり、具体性を伴っていない」ということがわかります。

 確かに、国会における決議は、法的根拠のある内閣不信任決議(日本国憲法第69条)を除き、あくまで議会としての意思表示の効果しかもたらさず、決議をもって権利や義務が発生することはありません。言い換えれば、国際社会に対して立法府たる衆議院・参議院が意思表明をする政治的効果が「決議」であり、より具体的な行動を起こすためには「法律の制定」や「条約の締結・承認」といった行為が必要になります。

 一方で、具体的な経済制裁の決定などは政府(行政府)が決めることであり、立法府としてできることには限りがあるのもまた事実です。法律を制定したとしても行政を担っているのは政府であり、また国会は条約を事前又は事後に承認することができますが、締結をするのは政府(行政府)の役割です。

「逆張り」は少数を結束させる

 それでは、れいわ新選組が非難決議に反対する真意はいったいなんでしょうか。

 今夏の参院選に向けて、各党は話題づくりに勤しんでいます。岸田内閣が予想以上に安定した船出となり、野党第一党である立憲民主党の存在感がいまいち発揮できていない今国会では、国会での「見せ場づくり」が難しく、各党が存在感を出すことに苦慮しています。特にオミクロン株によるコロナ禍はこれまでで最大規模の感染者を発生させたことで国民の関心が高まり、政治の安定が求められたことも起因して、本予算は例年よりも早く予算委員会を通過しました。また、ロシアによるウクライナ侵攻は外交問題のみならず原油高など日本に与える経済的影響も憂慮されていますが、この点も政府の対応にクローズアップされており、野党側の話題が相対的に少なくなっているのが実情です。また、れいわ新選組の政党支持率は直近でも「0.6%(NHK)」「0.7%(FNN)」「3%(毎日新聞)」と伸び悩んでおり、今夏の参院選に向けて浮上が必要な状況です。

 そうすると、話題づくりのパフォーマンス手法の一環として、「逆張り」をしたとみることもできるでしょう。(現在はそうではないにしろ)以前は何でも反対とまで揶揄された日本共産党も、今国会における決議はすべて賛成していますが、れいわ新選組としては、大衆迎合主義的主張の中で、今回のような国際協調を目的とする立法府としての意思表示を「形式だけの決議」(党公式サイトの記載ママ)と断じ、「消費税減税、ガソリン税0%、一律給付金などで日本国内に生きる人々を守る」(党公式サイトの記載ママ)と問題をすげ替えることで、熱心な支援者に「この問題の本質は政府の対応だ」と訴え、結束力を高めようとしているのです。

 コロナ対応における反ワクチンや反マスク、さらにはQアノンなど、少数派による政治的アピールのうち、「逆張り」にあたるものは、少数派を結束させる効果をもたらします。今夏の参院選では、山本太郎代表が「衆院議員」であり「参院議員候補」ではないことが最大の弱点と言われるほど、苦戦が想定されていますが、その中でれいわ新選組としては自身の支援者に対して存在感をアピールする一環の戦略とも言えるでしょう。

 なお、この逆張りが国内の選挙対策としてどのような効果をもたらすかはわかりませんが、国際社会が協調する動きを見せる中で、「誤ったメッセージ」となる可能性は否定できません。「木を見て森を見ず」という批判が出るのは当然のことと言えます。

議会人としての品位と倫理が問われる

衆院本会議の予算採決で、壇上から不規則発言をする山本太郎衆院議員
衆院本会議の予算採決で、壇上から不規則発言をする山本太郎衆院議員写真:つのだよしお/アフロ

 れいわ新選組といえば、つい先日の衆院本会議で可決成立した本予算の採決にあたって、山本太郎衆院議員ほか所属議員2名が壇上から不規則発言をしたことが問題になりました。本会議場のマイクで話すことが出来るのは、当然議長に指名されたものであり、議会の秩序から考えれば当然のことです。本会議中のやじなど、議会の品位や倫理は当然れいわ新選組だけに問われるものではありませんが、本会議における記名採決の際に壇上から不規則発言ということは前代未聞に等しく、懲罰委員会にかける検討もなされるほどでした(結果的には議院運営委員会において厳重注意)。

 そもそも山本太郎衆院議員には、参議院議員時代にも本会議の記名採決時に「焼香パフォーマンス」をするという「前科」があります。この時も厳重注意処分となりましたが、今回「前科」があったにもかかわらず懲罰委員会に付されずに厳重注意処分となったのは、単に衆参議院の違いや6年という時間の経過だけではなく、与野党を通じて「懲罰委員会に付されたことを更に話題にすることがれいわ新選組のねらい」という見透かしがあったからでしょう。

 様々な政治信条の議員が国会にいることは当然のことであり、少数派の意見もきちんと議論されるべきが国会のあり方です。しかし、それは立法府における最低限のルール・マナーに則って行われるべきであり、このようなパフォーマンスが受け入れられるかも含めての審判が、今夏の参議院議員選挙になることを忘れてはなりません。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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