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ひとり旅がおすすめ! ソロ温泉の魅力は「退屈を楽しむ」ことにあり

高橋一喜温泉ライター/編集者

ソロ温泉(=温泉ひとり旅)は、ひとりになる時間をプレゼントしてくれる。

温泉にただ浸かるだけの環境は、都会での生活と比べれば「退屈」な時間かもしれない。

しかし、自分と向き合う時間は、日常ではなかなか確保できない。忙しない日常がそれを許してくれない。ソロ温泉は自分と向き合う貴重な時間である。

現代では貴重な「退屈な時間」

ひとり旅を愛し、各地の温泉地にも足を運んだ歌人・若山牧水が著した『みなかみ紀行』の中にこのような一節がある。

「わたしのひとり旅は わたしのこころの旅であり 自然を見つめる ひとり旅でもある」

そう、ひとり旅は、いわば〝心の旅〟なのである。

「ひとりになれるなら、温泉でなくてもいいではないか」。その指摘は間違っていない。たとえば、単独で山に登ってもひとりになる時間はつくれる。

だが、自分と向き合うには温泉が最適である。なぜなら、基本的に湯船につかる以外することがないからだ。

ひとりで温泉につかる時間は、湯に身を預けるほかない。スマホをいじることも、テレビを見ることもできない。見方を変えれば、手持無沙汰でひどく退屈な時間なのである。

だが、生産性や効率が求められる現代社会において、「退屈」は貴重な時間といえる。

この退屈な時間をどう過ごすか、それがソロ温泉の充実度を決めることとなる。

自分と向き合う時間

退屈だこそ、自分と向き合うしかない。ひとりの時間を意識せざるを得ないのだ。ソロ温泉は、自分と向き合う時間を確保できる貴重な機会なのである。

アメリカの作家であるアーネスト・ヘミングウェイは「あちこち旅をしてまわっても、自分から逃げることはできない」という言葉を残している。

であるならば、湯船につかりながらとことん自分と対話してみてはどうだろうか。

おすすめは、少しぬるめの温泉である。泉温の高い温泉だと、戦闘状態となる交感神経が優位に立ち、ひとりじっくりと考えるモードになりにくい。

一方、ぬるめの温泉は、リラックス状態となる副交感神経が優位に立ち、時間を忘れて自分と向き合うことも可能だ。

温泉に入りながら「ひとり合宿」

ソロ温泉は「ひとり合宿」の絶好の機会でもある。ひとり合宿とは、「日常を離れてひとりで思考を深めたり、日常や人生を見つめ直したりすること」と定義している。

忙しない日常では、ただただ考える時間はそう確保できるものではない。温泉に入りながら、将来のことを考えたり、これまで手つかずのままだった人生の課題について熟考したりするのもありだろう。

マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は定期的に1週間、完全に業務から離れ、川辺のロッジに大量の本を持ち込み、読書に没頭することを習慣にしていた。そして、自らの頭の中を整理し、経営に影響を与える重要なテーマについて検討していたという。

ゲイツ氏はこれを「Think Week(考える週)」と呼ぶ。同じことを温泉地で実践してみてはどうだろう。

ゲイツ氏と同じように、宿に書籍を持ち込んでひたすら読書に没頭してもいいし、ただ、ぼんやりと自分を見つめ直すだけでもいい。ただ思いを巡らせる時間そのものが日常では確保しにくい貴重な時間である。

早めにチェックインしよう

ソロ温泉は気楽な旅であるが、少なくない時間とお金を費やす。そういう意味では、自分と向き合うための投資であるともいえる。

だからこそスケジュールはスカスカにして行きたい。日本人は旅に出ると予定を詰め込みすぎてしまう傾向がある。

早めにチェックインして、温泉につかる以外は何もしない。そして、自分の心と向き合う。何もしないことが、ひとりになる時間をつくり、温泉旅の価値を高めることになるのだ。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3900超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『スーパーJチャンネル』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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