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やはり日本社会はタリバンよりひどかった 金子恵美議員が「悔し涙」告白

木村正人在英国際ジャーナリスト
浮気騒動で議員辞職を表明する宮崎謙介氏(写真:Motoo Naka/アフロ)

「離婚しない」宣言

男性国会議員初の「育休」宣言で注目を集めた夫の宮崎謙介・前衆院議員(35)が妻の金子恵美・衆院議員(38)の出産直前に女性タレントと密会していたことが週刊誌「週刊文春」に報じられた浮気騒動から4カ月。金子議員が約2カ月の産休を経て、議員活動を再開しました。

5月25日、中越地震、中越沖地震の経験を他の被災地にも活用するよう促す提言書を菅義偉官房長官に提出。

5月28日、自身のFacebookに直筆の手紙を掲載して、宮崎氏と離婚しないことを宣言。

「私事で恐縮ですが、夫である前衆議院議員宮崎謙介とは離婚しないことを決断し、ここにお伝えします。(略)一時は離婚を考えたこともありますが、その後の夫の姿勢から判断し、今回は家族として歩む道を選ぶことにいたしました」

「夫は今回の言行不一致の軽率な行動により政治不信を招いたことについて責任をとり、議員辞職をいたしました。(略)非を認め、志を諦めて辞職することは、反省の意を示すことの一番の姿勢だと考えます」

6月1日、ブログを開始。国土交通省総合政策局長に、人工関節や義足など一見して病気や障害を抱えていることが分からない人たちのための「ヘルプマーク」普及の提言を提出。

金子議員のブログ
金子議員のブログ

6月4日、地元・新潟の白根大凧合戦花火大会で司会・アナウンス役を務める。

6月10日、生後4カ月の息子を抱っこしながら地元であいさつ回り。

「子育てしながら議員を続けるのはおかしなことですか?」

Forbes JAPAN に掲載された「子育てしながら議員を続けるのはおかしなことですか?」というインタビュー記事には本当に考えさせられます。インタビューアーは女性の谷本有香副編集長兼ウエブ編集長です。

谷本ウエブ編集長「復帰早々に地元入りした際、新潟県支部連合会では『離婚しろ』『離婚しないなら私人になれ』というような厳しい糾弾の声が上がったと聞きます(略)」

金子議員「私は自分の生き方として、妻であり、母親であり、政治家であり続ける、という姿勢は見せていきたいと思っています、というようにお答えしています。それでもやはり、なかなかご理解いただけないんですね。なので、今後は『子育てしながら議員を続けるのは、おかしなことですか?』とお伺いしていこうかなと思っています」

「産休の申請も出していないうちから、『いつまでも休んでいいですよ』と言われたんです。『いつまでも』ということは、帰ってこなくていいということ。帰る場所はないんだ、と愕然としました。あのときは本当に悔しくて、思い出すだけで今でも涙が出てきます」

先日のエントリーで「『世界で最もパワフルな女性100人』今年も圏外の日本社会はタリバンよりひどい」と指摘したばかりですが、金子議員の「大きいお腹を抱えた私に、怒鳴りつける方もいました」という告白には愕然としてしまいます。

アフガニスタンより低い女性国会議員の割合

出所:OECDデータをもとに筆者作成
出所:OECDデータをもとに筆者作成

上のグラフは経済協力開発機構(OECD)のデータから見た女性国会議員の割合です。9.5%の日本は最下位です。先のエントリーでも紹介したように世界銀行のデータを見るとイスラム原理主義勢力タリバンの恐怖にさらされているアフガニスタン(28%)よりも低い数字です。

金子議員を支えてあげないと、日本の女性国会議員の割合はさらに下がってしまいます。米大統領選の民主党候補者選びで指名獲得を確実にしたヒラリー・クリントン前国務長官(68)も夫のビル・クリントン大統領(当時)とモニカ・ルインスキーさんの「不適切な関係」を許しました。女性の指名候補は民主、共和両党を通じて初めてです。

金子議員は「今は両親の助けを得ながら、夫は働きながら家事・育児も率先して行っています。(略)一人の人間としてこれから出直したいとの意思表示をされたら、それを一度は許すことも人としての道ではないかと考えます」と手紙に書き、女性として、妻として、母親として度量の広さ、深さを見せています。

しかも二度目はないと夫の宮崎氏にはきっちり釘を刺しています。この寛容さが日本ではマイナス評価されるとしたら実に悲しいことです。

政界、メディアが男女平等の先頭ランナーに

政界やメディアで働く女性は社会や職場から求められる姿よりも人間らしい日常の姿を公の場で見せるべきだと考えます。結婚して妊娠したらお腹が大きくなり、出産したら子供を抱いて職場に出てくることもあるのが自然な姿です。

日本では、育児休暇や子育て支援などの制度があるにもかかわらず、出産後に女性が退職することが多いのはご存知でしょう。職場復帰が難しく、不本意ながら低賃金の非正規で働かざるを得ないのが現状です。そのため男女間に大きな賃金格差が生じています。

同

女性政治家やメディアウーマンは男性のように働くのではなく、1人の人間として家庭と仕事を両立させる姿を見せることが大切ではないでしょうか。男性も夫として父親として当然、サポートが求められます。

男性の育休取得率2.3%

出所:厚生労働省のデータをもとに筆者作成
出所:厚生労働省のデータをもとに筆者作成

厚生労働省の調査によると、2014年度の育休取得率は、女性が前年度と比べ3.6ポイント上昇して86.6%。男性も0.27ポイント上がったものの2.3%にとどまっています。

長時間労働が当たり前の日本では夫が家事や育児、介護など無償労働に費やす時間も1日平均で 61.9 分。トップのデンマーク(186.1分)に比べると3分の1以下です。宮崎氏は浮気という重大な過ちを犯してしまったものの、献身的に金子議員をサポートして許しを得ました。

出所:OECDのデータをもとに筆者作成
出所:OECDのデータをもとに筆者作成

OECDは12年に発表した報告書「男女平等を実現しよう(Closing the Gender Gap: Act Now)」で日本についてこう提言しています。

「労働市場参加率の男女格差が継続されれば、今後 20 年で日本の労働人口は 10%以上減少すると予測されます。労働市場における男女平等が実現すれば、今後 20 年で日本の国内総生産(GDP)は 20%近く増加することが予測されます」

大企業優先の社会設計見直しを

日本の社会と経済は大企業の利益を最大化するよう設計され、1990年代の金融バブル崩壊とともに衰退してしまいました。サービス残業や長時間労働、単身赴任といった悪しき労働慣行は今すぐ撤廃すべきだと考えます。

非正規と正規の雇用格差、それによって生じる教育、医療、社会保障などの不平等もなくすべきです。女性が男性のように働くのではなく、女性も男性も同じように家庭と仕事のバランスを取りながら働ける社会をみんなで作っていかなければ日本の未来は暗くなる一方です。

宮崎氏も心底反省しているようだし、金子議員、宮崎氏の夫婦を応援しようと思います。少し甘いですか。皆さんはどう思われますか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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