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ブラジルの名門「グレミオ」アメリカ支部の代表をインタビューした

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
2017年にリベルタドーレス杯を制した本家グレミオ(写真:ロイター/アフロ)

 17歳で母国、ブラジル4部のSão José Esporte Clubeと契約し、スペイン時代も含めて計7シーズン、プロ選手としてピッチを走り抜けたアンドレ・カンズ・サナ(40)。

 引退後、ブラジルの大学、Faculdade de Tecnologia Tecbrasilを卒業し、米国に渡ってからコーチとしてのキャリアを積んできた。そして、2018年に自身がユース時代を過ごしたブラジルの名門、グレミオの米国支部を立ち上げる。

撮影:筆者 サナはTATTOOもグレミオのデザイン
撮影:筆者 サナはTATTOOもグレミオのデザイン

 サナのチームは、間も無く開幕するUPSL(United Premier Soccer League)の初戦に向けて調整中だ。UPSLは、アメリカ国内リーグで4部にあたる。昨シーズンを最下位で終えたグレミオ・サンディエゴは、元U17ポーランド代表他3名だけを残し、ほとんどの選手と契約更新しなかった。

 オフに大規模なトライアウトを行うと、ポルトガルの古豪ベンフィカのユースで育ち、カナダでプロ経験のあるGKや、元U15トリニダード・トバゴ代表のFW、ロシア人のDF、イングランド人MF、2年前にオレゴン州U17王者となったFWなど、過去に無いレベルの男たちが集った。

撮影:筆者 プレシーズンマッチ前に指示を出すサナ
撮影:筆者 プレシーズンマッチ前に指示を出すサナ

 「2018年から2021年までのチームと比べると、かなりいい面子だ。今季は、18歳から22歳までのユースチームも増設した。彼らはSouth West Premier Leagueで戦うけれど、若いうちから鍛えて、いい選手はトップチームに引き上げる。トップは、ブラジル、アメリカ、カナダ、メキシコ、イングランド、ポーランド、ロシア、トリニダード・トバゴ、ソマリア……など多国籍だよ。18歳から33歳まで、それぞれファイティング・スピリッツと技術を持ち合わせた選手と契約した。

 可能性のある選手たちを、夏に本家ブラジル、グレミオの練習に参加させる。物凄く楽しみなんだ」

撮影:筆者
撮影:筆者

 アメリカ合衆国サッカー界の頂は、ご存知のようにMLS(メジャー・リーグ・サッカー)であり、最高年俸は元メキシコ代表のFWで現在LAFCで10番を背負うカルロス・ヴェラ(32)の630万ドル。2部リーグ的な存在としてMLSの下にUSL(United Soccer League)が存在するが、こちらは平均年俸が6万5000ドル。

 米国のリーグには入れ替え戦が無い。資本金がいくらか、加盟金を支払えるか、ホームとなるスタディアムを持つか否かなどの審査によって、リーグが受け入れるかどうかの判断を下し、認められれば参加できる。

 「そこが南米やヨーロッパの強豪国と違う点だよね。カネさえ払えばプロチームが創れて、プレーする場所が与えられるなんて、ブラジルじゃ考えられない。だから資金繰りに苦しむチームは、USLでも突然クラブが消滅してしまったりするな」

撮影:筆者
撮影:筆者

 UPSLは優勝チームに2万ドルの賞金が出るため、セミプロと呼ばれるものの、選手たちはサッカーだけでは決して生活できない。グレミオ・サンディエゴも、プログラマーやカー・ディーラー、保育園経営者、空港での荷物運搬、車の修理工、大学生など様々な立場の青年たちが、それぞれの仕事を終えて練習場所、試合会場にやって来る。

 「UPSLでも活躍すれば、上のリーグからスカウトされる。それに、ブラジル・キャンプで誰かの目に留まる可能性だってある。23歳を超えるとプロになるのは難しいけれど、若い選手には夢を持って頑張ってもらいたい」

撮影:筆者
撮影:筆者

 ブラジルのプロチームは、常に才能を発掘しようと四六時中目を光らせる。

 「グレミオのような名門は、14歳から狙うね。才能と伸び代を見るよ。16歳くらいでプロ契約して、月給2000ドルから3000ドル与えながら育てる。投資だな。一流選手となったら、なるべく高額でヨーロッパに売るビジネスだから」

撮影:筆者
撮影:筆者

 今シーズンのトレーニング開始から2週間で、サナはU23のユースチームから4名をトップチームに上げた。すると選ばれなかった21歳が、「なぜ、俺が入れないんだ! このメンバーの誰よりも優秀な筈だ」と嚙みついた。また、トップチームのプレシーズンマッチで、フリーでシュートを2本外した20歳をベンチに下げると、彼も「納得できない!」と食って掛かった。

撮影:筆者 愛用する日本製のスパイクを手にするサナ
撮影:筆者 愛用する日本製のスパイクを手にするサナ

 「僕が選手たちに求めるのは他者を敬う気持ち、規律、友情、組織力。それを理解したうえで勝利のためにピッチでハードワークするのが基本。戦う集団になるにあたっては人間性も大事だ。"無理だな"と感じた場合はチームを去ってもらうしかない。

 グレミオの名に恥じないチームを築くのが自分の仕事だからね。今はブラジルの2部に甘んじているけれど、絶対に復活するさ。1983年には世界一になったし、リベルタドーレスでも3回勝っている。その伝統を忘れてはならない。このアメリカでもグレミオの血を受け継がねばならないんだ」

1983年12月11日、トヨタカップで勝利し世界一となった
1983年12月11日、トヨタカップで勝利し世界一となった写真:山田真市/アフロ

 長く「サッカー不毛の地」と呼ばれてきたアメリカだが、最近はMLSの会場も多くのファンで埋まるようになった。あのネイマールもMLSでプレーしたいと発言している。サナのブラジルスタイルは、西海岸でどこまで輝きを放てるだろうか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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