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【最新研究】片頭痛治療薬が意外な効果?ニキビと赤ら顔の予防に期待

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【片頭痛治療薬の意外な効果:ニキビと赤ら顔のリスク低下】

最近の研究で、片頭痛の治療に使われる薬が、ニキビや赤ら顔(医学用語では酒さ)の発症リスクを下げる可能性があることがわかりました。

この発見は、多くの人にとって朗報かもしれません。なぜなら、ニキビや赤ら顔に悩む人は少なくないからです。日本でも、特に若い世代でニキビに悩む人は多く、赤ら顔も中年以降の方々にとっては気になる肌トラブルの一つです。

では、どのようにしてこの驚きの関連性が明らかになったのでしょうか?

【CGRP阻害薬:片頭痛治療の新星】

この研究の主役は、CGRPという物質を阻害する薬(CGRP阻害薬)です。CGRPは、カルシトニン遺伝子関連ペプチドの略で、体内で血管を拡張させたり炎症を引き起こしたりする働きがあります。

CGRP阻害薬は、比較的新しい片頭痛治療薬です。日本でも2021年から使用が始まり、従来の治療薬では効果が不十分だった患者さんにも効果があると注目されています。

この薬には主に2種類あります:

1. 抗体医薬(モノクローナル抗体):注射で投与し、効果が長く続きます。

2. 経口薬:飲み薬で、即効性があります。

【意外な発見:ニキビと赤ら顔への効果】

研究チームは、片頭痛で治療を受けている患者さんのデータを分析しました。その結果、CGRP阻害薬を使用している患者さんは、他の薬を使用している患者さんに比べて、ニキビや赤ら顔の発症率が低いことがわかったのです。

具体的には、CGRP阻害薬の抗体医薬を使用した患者さんは:

- トリプタン(従来の片頭痛薬)を使用した患者さんと比べて、ニキビの発症率が29%、赤ら顔の発症率が47%低下

- トピラマート(別の種類の片頭痛予防薬)を使用した患者さんと比べて、ニキビの発症率が18%、赤ら顔の発症率が35%低下

さらに、CGRP阻害薬の経口薬を使用した患者さんでも、ニキビや赤ら顔の発症率が低下する傾向が見られました。

この研究結果は非常に興味深いものです。片頭痛の治療薬が、思いがけず肌のトラブル予防にも役立つ可能性があるということは、多くの患者さんにとって朗報となるでしょう。特に、片頭痛とニキビや赤ら顔の両方に悩んでいる方々にとっては、一石二鳥の効果が期待できるかもしれません。

【CGRPと肌トラブルの関係】

では、なぜCGRP阻害薬がニキビや赤ら顔の予防に効果があるのでしょうか?

研究者たちは、CGRPが皮膚の炎症や血管拡張に関与していることに注目しています。ニキビの原因となる細菌(アクネ菌)によって引き起こされる炎症にも、CGRPが関わっているという報告があります。また、赤ら顔の特徴である顔面の血管拡張にも、CGRPが関与している可能性があります。

CGRP阻害薬がこれらの作用を抑えることで、ニキビや赤ら顔の発症リスクを下げているのではないかと考えられています。

ただし、この研究はあくまでも統計的な分析結果であり、CGRP阻害薬がニキビや赤ら顔に直接効果があるという確定的な証明ではありません。今後、さらなる研究や臨床試験が必要です。

【今後の展望と注意点】

この研究結果は、ニキビや赤ら顔の新しい治療法の開発につながる可能性があります。しかし、現時点では、ニキビや赤ら顔の治療のためにCGRP阻害薬を使用することは推奨されていません。

CGRP阻害薬は、あくまでも片頭痛の治療薬として開発され、承認されたものです。副作用や長期使用の影響についてもまだ十分なデータがありません。

ニキビや赤ら顔でお悩みの方は、まずは皮膚科を受診し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。日本皮膚科学会のガイドラインに基づいた標準的な治療法が確立されていますので、それらを参考にしながら、個々の状態に合わせた治療を行うことが大切です。

また、日常生活での肌ケアも重要です。洗顔や保湿、紫外線対策などの基本的なスキンケアを心がけましょう。さらに、ストレス管理や食生活の改善なども、肌の健康に良い影響を与える可能性があります。

今回の研究結果は、皮膚科学と神経科学の融合という新しい視点を提供してくれました。今後、この分野の研究がさらに進み、より効果的で副作用の少ない治療法が開発されることが期待されます。

参考文献:

1. Thang CJ, Lai J, Garate D, et al. Calcitonin Gene-Related Peptide Inhibition and Development of Acne and Rosacea. JAMA Dermatology. Published online July 10, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.2182

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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