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連敗したサンウルブズ、田中、堀江抜きで南アフリカ遠征へ!

永田洋光スポーツライター
機転を利かせてインターセプトからトライを奪った福岡堅樹。(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

機能しなかったゲームコントロール

サンウルブズが昨季17位、つまり自分たちより順位がたった1つだけ上のキングズに敗れた。

スーパーラグビーのなかでも、かなり濃厚に勝利が見込める相手と、第2のホームであるシンガポールで対戦したにもかかわらず、最終スコアは23―37。昨季は、敗れても着実に稼いだ7点差以内負けのボーナスポイントすら取れない、完敗だった。

敗因は簡単だ。

10番、12番、13番の、いわゆるバックスのフロントスリーがまったく機能していないこと。それに尽きる。

ゲームを司る中枢が機能しないのだから、いくらFWがスクラムで頑張り、チームの両翼に快足ランナーを配しても、試合を自分たちのペースで組み立てることができない。だから、勝てないのだ。

この試合、サンウルブズは、10番に東京ガスでプレーするヘイデン・クリップスを起用。CTBには初戦同様デレック・カーペンターを12番に、ティモシー・ラファエレを13番に置いた。

この3人、プレーヤーとしての能力が低いわけではないし、ラファエレのようにランナーとしての魅力もある。

しかし、では彼らがスーパーラグビーのレベルでゲームをコントロールし、刻一刻と変化する状況を見据えながら、チームを勝利に導くことができるかというと、疑問符がつく。

カーペンターは昨季サンウルブズで活躍したが、このキングズ戦ではミスを連発し、まったくいいところがなかった。

でも、試合を見ていると、なぜ彼が今季はミスを連発し、調子を落としているかがよくわかる。

昨季のサンウルブズは、10番にトゥシ・ピシか田村優を置き、CTBには立川理道が入って、攻守をリードした。FWに近い10番と、バックスラインの中央に位置する12番(または13番)に、パスで人を使って走らせる“仕掛け人”がいたから、ボールが動けばチャンスが膨らみ、カーペンターも思う存分に力を発揮できた。しかし、今季は“使ってくれる人”がいない。だから、さまざまなものを背負い込み、思ったように力を発揮できないのだ。

同じことはラファエレにも言える。

ラファエレは前半21分に、SH田中史朗が仕掛けた速攻からパスをもらい、トライを記録したが、このプレーに象徴されるように、誰か気の利いた選手にお膳立てしてもらったシチュエーションで活躍する選手だ。

だから、ボールをもらったときにまずランを考え、それがダメになって初めてパスを選択する。彼らの外側に位置する福岡堅樹や中鶴隆彰といった快足ランナーに、いい状況でボールを渡すことを、頭では意識していても、体が瞬時には反応しないのだ。

これではせっかくのランナーたちも、宝の持ち腐れである。

困ったことに、田村優も立川も、まだコンディションが上がらずにメンバーから外れたままだ。

サンウルブズは、今週は南アフリカのブルームフォンテインに飛んでチーターズと戦うが、その試合を含めた南ア遠征にも2人は参加しない。しかも、フィロ・ティアティア ヘッドコーチ(HC)は、日本代表のジェイミー・ジョセフHCとも話し合って、田中と堀江翔太も遠征メンバーから外す決断を下した。6月に予定されているルーマニア、アイルランドとのテストマッチに万全のコンディションで臨めるように配慮したわけだが、その分、チーターズ戦からの3連戦はサンウルブズにとって、非常に厳しい戦いになることが予想される。

キックを使うラグビーは本当に日本に向いているのか?

ジョセフ体制になってからのキック多用も、果たして本当に有効なのか疑問に思う。

FWが頑張ってボールを獲得し、ようやく攻めの形ができたところで、なんとかの1つおぼえのように、しょぼいグラバーキックを相手の背後に転がすだけのアタックでは、勝敗を超えて感動するようなトライが生まれるはずもなく、「そこで蹴るかよ!」と悪態をつくのがせいぜいだ。

田村―立川のようなパスの名手がラインを積極的に動かし、相手がそれを阻止すべく前に飛び出してきた背後に転がしてこそキックは生きるが、前提となるパスでのアタックが少ないためにキックが有効に機能していないのだ。といって、素早いボールさばきでパスを連続させて外側にボールを運べるかというと、そこまでのスキルは今のフロントスリーにはない。

田中が先発で9番を背負っている間、サンウルブズは組織的なアタックでゲームを支配していたが(つまらないミスからトライを奪われ、リードされたが)、田中が1人ピッチに立つだけで、このフロントスリーでも何とか戦える。それだけゲームを差配するコントローラーは、大きな意味を持つ存在であり、足が速くて力が強い選手を15人並べただけで勝てるほど、ラグビーは単純な競技ではない。

結局のところ、エディー・ジョーンズ体制でみっちりと鍛え上げられ、W杯の場で結果を出したメンバーを超える選手は出ておらず、彼らが不在になると、たちまちサンウルブズもジャパンも“並み”のチームとなる。

それが、日本ラグビーの現状なのである。

トップリーグで目立った外国人選手を起用し、彼らに世界と同じような戦い方、つまり一般的に今の主流となっているような戦い方で試合をさせれば、結果はより優れた素質と経験を持つ強豪チームに有利に働く――今のサンウルブズを見ていると、過去にジャパンが何度も繰返した苦い失敗を、スーパーラグビーの場でさらけ出しているようにさえ見える。

春とはいえ、なんとも薄ら寒い予感に身震いする日々は、これからも続くのだろうか。

それとも、メンバーがそろい、若い選手たちが苦い経験を積み重ねた末に、ベテランと若い力が合致して素晴らしいパフォーマンスが生まれるのだろうか――たとえば、6月のテストマッチに臨む日本代表で――。

いずれにしても、3月は、日本ラグビーにとって“耐える時期”なのかもしれない。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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