夏休みに増加?ノルウェーでの高齢者の孤独問題
多くの国民が長期休みで家族との時間や旅行を楽しんでいる夏。この夏休みの時期になると、メディアなどでさかんに目にするようになるノルウェー語がある。「孤独」だ。
ノルウェー保健サイトによると、「孤独」とは社会的なつながりが欠けたことによる欠如感、他者とのつながりを持ちたいと思っているが実現できていない状態を指す。自分は人気がないと思い込むことにより、恥や挫折を感じ、うつ病になる人もいる。
2005年の統計局の調査によると、パートナーがいる人よりも独身者が孤独感を感じやすい。高齢者よりも30歳以下の若者、16~30歳の10人に3人が孤独と感じている。
筆者はノルウェーに住んで9年目となるが、ノルウェーではこの「孤独」が頻繁に社会テーマとなっていると感じていた。筆者の学生時代にも、「友達はいるが、自分は孤独だ」と感じて落ち込んでいる大学生にも何人か出会った。
「世界一幸福な国」ランキングで常連国のノルウェーだが、この国に住めば、誰もがすぐに、常に幸福というわけではない。幸福の感じ方は人それぞれだ。
「外国人にとって友達が作りやすい国」ランキングでは、北欧諸国は見事に下位を占めている。
今回は、高齢者の孤独の話題に絞ろう。
ノルウェーの人口は520万人。退職者団体によると、2015年の時点で67~79歳の人口は50万2千人、80歳以上は22万人。平均寿命は男性が80,6歳、女性は84,2歳。
70歳以上で移民背景を持つ人は現在は4%だが、2060年には27%にのぼると想定されている。ノルウェー語や英語が話せないで暮らす元難民もいるため、医療施設での移民への対応は今後大きな課題となるだろう。コミュニケーションができなければ、人はさらに孤独に追い込まれる。
80歳以上の10人に3人が孤独と認識
統計局の2009年の発表によると、若者と高齢者のグループが特に孤独に悩んでいる。80歳以上の10人に3人が孤独と認識しており、このような場合はより病気にもなりやすい。
ノルウェーでは孤独に悩んでいる人が多いことは、ニュースなどで毎年特集されている。筆者が通ったオスロ大学のノルウェー語の授業でも、孤独やうつに悩むノルウェーの人々の記事を読むことがあった。
暗くて寒い時期が長い冬は気分が落ち込みやすいという側面もあるが、反対に直射日光が増える夏の時期にも、「こんなに天気がいいのに、みんなのように楽しめない」と自分を追い込む人もいる。
国民が休暇をとるクリスマス、イースター、夏休みなどに、この社会問題は顕著に表れる。みんなが楽しい「はず」の時期、家族や友人と過ごす時期という「常識」が、交流関係がない人をさらに追い込みやすいのだ。
Facebookで「私は寂しい」と声に出す人がでてきた
最近では、勇気をもって、Facebookで「私には一緒に時間を過ごす人がいません。誰か一緒にクリスマスを祝いませんか」と投稿する高齢者もでてきた。
「見知らぬ人と出会うことは危険ではないのか」、という議論の流れはあまり一般的ではない。平和な国ならではともいえるかもしれない。
日本とまた違う点は、高齢の親を責任を持って世話をするのは、家族よりもノルウェー政府と社会福祉制度ということ。家族との同居よりも、高齢者は自宅で自力で生活、もしくは老人ホームなどで時間を過ごす。人付き合いが得意な人には問題がないが、苦手な人は簡単に孤独な世界に入り込みやすいこともある。
高齢者の孤独対策として政府は予算をだし、国や社会によるボランティア交流などで、外とのつながりを強めようとする。高齢者の世話は、政治家と社会全体の責任だ。
夏休み真っ最中の7月13日、ベント・ホイエ保健・ケアサービス大臣(保守党)はフィンマルク紙にこのような寄稿をした。
メディアやSNSなどで、社会問題を可視化させることには、この国では大きな意味がある。国会で議論されるようになるだけではなく、ひとりひとりの意識に時間をかけて変化をもたらしていく。
一方、環境、税金、教育問題などは議論しやすいが、個人の身体的・精神的・プライベートに深くかかわる社会福祉や医療分野においては、当事者が声をだすことは容易ではない。家や老人ホームで精神的に弱っている時に、記者に電話をかけようという人は多くはない。SNSの登場は、その行為をほんの少し楽にした。
7月9日、84歳のおじいちゃん、ヘルゲ・スヴェーダルさんがFacebookにひとつの投稿をした。
この投稿は1000以上の「いいね!」がつき、550回以上シェアされた。
文化大臣がひとりぼっちのおじいちゃんに、Facebookで返事
結果、リンダ・ヘッレラン文化大臣(保守党)がヘルゲおじいちゃんに返事をする。21日、文化大臣はこう回答した。
VG紙はこの出来事を大きく報道。ヘルゲおじいちゃんと文化大臣はすでに電話で連絡を取り合い、夏休み中に一緒になにかする予定だそうだ。
Text: Asaki Abumi