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7日の地震、高層マンションの室内被害が大きかった訳。賃借人の家具固定の傷は、原状回復不要の自治体も。

あんどうりすアウトドア防災ガイド  リスク対策.com名誉顧問 
首都圏で震度5強 埼玉県草加市のマンション15階 撮影 浅葉健介氏

 10月7日22時41分 千葉県北西部を震源とする震度5強の地震がありました。気象庁の震度階級解説表によると、震度5強の室内の様子は、「棚にある食器類や書棚の本で、落ちるものが多くなる。テレビが台から落ちることがある。固定していない家具が倒れることがある。」とあります。

 写真は、震度5強ではなく、震度5弱を観測した埼玉県草加市にある築20年の耐震マンションの15階です。カウンターに乗せていた固定していないウォーターサーバーが落下しています。

埼玉県草加市のマンション15階 撮影 浅葉健介氏
埼玉県草加市のマンション15階 撮影 浅葉健介氏

 写真を撮影した浅葉健介さんによると、棚のものは落ち、テーブルは向かってきて、冷蔵庫の扉は空いてしまったとのことです。

 そして、ウォーターサーバー落下時に、床や壁に傷がついていたので、ここに寝ていたら命の危険があったとのことでした。

壁の傷 埼玉県草加市のマンション15階 ウォーターサーバー落下時についた壁の傷 撮影 浅葉健介氏
壁の傷 埼玉県草加市のマンション15階 ウォーターサーバー落下時についた壁の傷 撮影 浅葉健介氏

 ところが、近所に住む親や一戸建てや低層階に住む社員の被害はそれほどではなかったとのことです。

 なぜ、同じ地域でも室内の被害が異なるのでしょうか?

 答えは、長周期地震動にあります。

出典 気象庁 「知ってる?長周期地震動」
出典 気象庁 「知ってる?長周期地震動」

 今回の地震は、長周期地震動階級2と気象庁から発表されています

 長周期地震動階級は、2013年から設定されていたものの本格的運営は2019年からなので、まだまだ馴染みがないかもしれません。

 なぜ気象庁が長周期地震動階級を発表するのかについては、以下のように記載されています。

 気象庁では、地震発生後直ちに震度情報を発表していますが、震度は地表面付近の比較的短い揺れを対象とした指標で、高層ビル高層階の揺れの程度を表現するのに十分ではありません。このため、高層ビル内での的確な防災対応に資することを目的に、概ね14、15階建以上の高層ビルを対象として、長周期地震動に関する情報を提供することとしました。(出典 気象庁 長周期地震動に関する情報について

 ところで、今回の長周期地震動階級2は、2018年大阪北部地震で観測されたものと同様です。

出典 気象庁 「知ってる?長周期地震動」
出典 気象庁 「知ってる?長周期地震動」

 マンションの固有の周期や地盤、免震構造か耐震構造かによっても揺れ方は異なるので、全員というわけではありませんが、14階以上の方にとって、今回の地震は、震度5であっても大阪北部地震(震度6弱)と同様の揺れを体感していた可能性があります。ちなみに東日本大震災や熊本地震の長周期地震動階級は4でした。

マンションの上層階の家具固定対策は一戸建てと異なる

 このように、高層マンションについては、揺れ方が異なるため、家具固定の方法も長周期地震動の対策が必要になります。

 長周期地震動階級4の熊本地震では、転倒や移動が起こってしまった防災グッズもありますので、熊本地震の時、マンションで転倒等があった防災グッズは?賃借人でも家具固定OKにするための国の動きありで記事にしていますから、ご確認いただければと思います。

公営物件について賃借人が家具の転倒防止を実施した場合、原状回復を請求しない自治体が増えている

 さらに、上記記事にも書きましたが、家具の転倒防止をしようにも、賃借人であれば、原状回復義務があります。そのため、たとえつっぱり式やシールタイプやゲルタイプの家具固定グッズであっても、天井や壁や床を傷つける恐れは皆無ではないので、固定を、躊躇してしまいます。

 この時、賃借人がエアコンを設置するときのネジ穴は、エアコンが常識であるため、原状回復義務を負わないとするケースが多いことを知りました。

 だとすれば地震対策で家具を固定する事も、日本においては常識と言えるので、少なくとも公営物件については、家具固定の原状回復を免除すると類推解釈すべきなのではということを、自治体に政策提言してきました。

 そして、最初に東京都港区が政策を実現してくださり、2021年3月には、国が動きました。

港区を含め全国の自治体で、すでに公営物件等について、家具固定の場合の原状回復義務を免除しているケースがあるので、それを参考にするようにという国からの事務連絡を出したのです。

公営物件について家具の転倒防止を実施した際、現状回復を免除している自治体 あんどうりす作成
公営物件について家具の転倒防止を実施した際、現状回復を免除している自治体 あんどうりす作成

 発信元は内閣府と国土交通省で、それぞれ、自治体の危機管理課と住宅担当課、そして、賃貸住宅関連団体に対する事務連絡(周知依頼)です。(この詳細は上記記事で紹介しています。)

 さらに、9月には、高知県議会でも議会質問が出され、高知県では、入居のしおりに賃借人が家具固定をする場合の原状回復義務が免除されることが明記されるという回答があったばかりです。(まだ県の正式な議事録には掲載されていませんがこちらでご確認できます。)

 全国各地で、この政策を実現してくださった議員さんたちは、党派に関係なく防災への熱い想いで実現してくださいました。熱心な自治体職員、また、市区町長さんの主導や、防災士さんや弁護士さんの提言で、この政策をとった自治体もあります。

 賃借人だけでなく、賃貸人にとっても、家具の転倒が防止できると家の損傷も少なくてすみますし、逆に転倒防止を拒んだために人が亡くなることになると今後の賃貸物件経営にとって、マイナスになります。転倒防止を実施する方が、賃貸人にとってもメリットになりますので、自治体だけでなく民間物件でも増えることを願っています。

家具の転倒防止はマスト 賃借人でも実施できるように

 今回の地震であらためて、家具の転倒防止を再確認しようとした方も多いのではないでしょうか。家の傷は技術で修復可能ですが、人の命が失われると取り返しがつきません。全ての自治体や民間物件で同様の取り組みが増えればと願っております。

アウトドア防災ガイド  リスク対策.com名誉顧問 

FM西東京防災番組パーソナリティ 兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 博士課程 女性防災ネットワーク東京呼びかけ人 阪神淡路大震災の経験とアウトドアスキルをいかした日常にも役立つ防災テクを、2003年から発信。子育てバックは、そのまま防災バックに使えるなど赤ちゃん防災の先駆けとなるアイデアを提唱。技だけなく仕組みと知恵が得られると好評で、口コミで講演が全国に広がる。企業広報誌、子育て雑誌などで防災記事を連載中。ゆるくて楽しい防災が好み。

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