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航空機観測の減少続く 天気予報への影響は?

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
天気予報に航空機による気象観測は欠かせない(著者撮影)

 新型コロナのパンデミックが始まって一年。航空機観測は今なお減少が続く。気温や風などの予測に影響がある一方で、天気予報の悪化はほとんど見られないという意見もあり、専門家のなかでも見方が分かれる。航空機観測データの不足は何をもたらすのか。

航空機観測はコロナ前の半分

 欧米を中心にワクチン接種が進んでいても、今年3月の世界の航空需要はコロナ前(2019年3月)と比べて67.2%減と依然として低い水準に留まっています。 

 航空機による気象観測データはこれまで一日あたり約80万件ありましたが、各国の厳しい入国制限による航空需要の激減により、一時、4分の1(約20万件)まで減少しました。現在はやや持ち直したものの、それでもコロナ前の半分(約40万件)です。現在の天気予報は世界中から集めた膨大な気象データで成り立っていて、天気予報もコロナの影響を受け続けています。

一日あたりの航空機観測データ量(WMO Aircraft-Based Observations Newsletter Volume 21, April 2021 より)
一日あたりの航空機観測データ量(WMO Aircraft-Based Observations Newsletter Volume 21, April 2021 より)

短期予報ほど影響が大きい

 航空機による気象観測データは品質がよく、航空機の巡航高度や空港周辺の気温や風、湿度のデータは数値天気予報システムに利用されています。それがパンデミックの影響で途絶え、天気予報の質の低下が懸念されました。

 世界各国の気象機関がさまざまな角度から調査を行ったところ、短期予報ほど影響が大きく、長期間にわたる天気予報では重要性が低くなること、対流圏の気温や風、湿度の予測精度が12%低下することなどがわかりました。

証拠は見つけられない

 一方、ヨーロッパ中期予報センターなどの研究グループは天気予報に明確な影響があるとは言えないと結論づけました。

 高性能の気象衛星による観測データはパンデミックの影響を受けておらず、航空機観測データの不足を補うかのように利用が増えていること、数値天気予報システムの予測技術が年々、向上していることなどを挙げています。

 実際、私もこの一年、天気予報がおかしいと感じたことはありません。天気予報の精度は月、季節、年によっても変動し、天気予報の当たり外れが航空機観測データの減少によるものなのか、区別がつかないからです。

直接観測は価値あるデータ

 だからといって、このまま航空機観測データがなくてもいいとは思いません。気象観測には直接観測と遠隔観測(リモートセンシング)の二つがあります。

観測の種類は主に直接観測と遠隔観測に区別される(著者作成)
観測の種類は主に直接観測と遠隔観測に区別される(著者作成)

 直接観測とは従来の温度計や風速計などを使った観測方法で、航空機観測も含まれます。一方、遠隔観測は離れた場所からレーダーなどを用いて間接的に観測する方法で、気象レーダーや気象衛星などを言います。直接観測よりも誤データが多く、品質が劣るとされています。

 現在はリモートセンシング技術の向上により、直接観測と遠隔観測の差は小さくなりました。それでも直接観測のデータは遠隔観測データの校正に使われるなど価値の高いものです。それだけに航空機観測データの不足が長く続くことは気がかりです。

【参考資料】

国際航空運送協会(IATA):March Domestic Demand Sees Upsurge but International Travel Still Largely Shutdown、4 May 2021

世界気象機関(WMO):WMO Aircraft-Based Observations Newsletter Volume 21、April 2021

アメリカ気象学会(AMS):Eric P. James、Stanley G. Benjamin、Brian D.Jamison、2020:Commercial-Aircraft-Based Observations for NWP: Global Coverage, Data Impacts, and COVID-19

アメリカ地球物理学会(AGU):Bruce Ingleby Brett Candy John Eyre Thomas Haiden Christopher Hill Lars Isaksen Daryl Kleist Fiona Smith Peter Steinle Stewart Taylor Warren Tennant Christopher Tingwell、2020:The Impact of COVID‐19 on Weather Forecasts: A Balanced View

計盛正博、本田有機、佐藤芳昭、2018:第2章 観測データと品質管理、平成30年度数値予報研修テキスト、気象庁予報部、72-82.

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは128冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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