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なぜヴィニシウスはレアルで”爆発”したのか?ベンゼマとの関係性とアンチェロッティの信頼。

森田泰史スポーツライター
ドリブルするヴィニシウス(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

レアル・マドリーが、強さを取り戻している。

リーガエスパニョーラ第11節、敵地カンプ・ノウのクラシコでバルセロナに2−1と勝利したマドリー。リーガで1試合未消化ながら首位レアル・ソシエダに次いで2位につけ、チャンピオンズリーグ・グループステージ第4節ではシャフタール・ドネツクを下して決勝トーナメント進出に向けて前進している。

■ヴィニシウスの爆発

現在のマドリーの好調の要因として挙げられるのが、ヴィニシウス・ジュニオールの爆発だ。

ヴィニシウスは2018年夏にマドリーに正式加入。マドリーは彼の獲得に際して、フラメンゴに移籍金4500万ユーロ(約58億円)を支払っている。

それはある種の「青田買い」だった。だが、10代の選手としては決して安い移籍金ではなかった。ジョゼップ・グアルディオラ監督が当時、ヴィニシウスのマドリー移籍に関して「補強は簡単ではない。レアル・マドリーは16歳の選手を確保するのに4600万ユーロ(正確には4500万ユーロ)を投じている。16歳のブラジルの青年が、それだけの額でマドリーに加入する。それがマーケットの現状だ。本当に素晴らしいね...」と語っていた。

加入当初こそ、フレン・ロペテギ監督(現セビージャ)の下で出場機会を得られずに苦しんだヴィニシウスだが、監督がロペテギからサンティアゴ・ソラーリに代わると、すぐにプレータイムを増やしていった。

10代でブラジルでプロデビューしたヴィニシウス
10代でブラジルでプロデビューしたヴィニシウス写真:ロイター/アフロ

そして、その突破力とキレのあるドリブルで、ヴィニシウスは指揮官だけではなく瞬く間にマドリディスタの信頼を勝ち取った。

一方、フィニッシュの精度には課題を残していた。2020−21シーズン、ヴィニシウスは49試合6得点を記録している。レアル・マドリーのアタッカーとしては、6得点というのは物足りない数字だ。

当然、ゴールを奪うためにはシュートを打たなければいけない。だがこれまでのヴィニシウスのシュート数は、2020−21シーズン(1試合平均シュート数1.92本)、2019−20シーズン(2.57本)と少なかった。

■シンプルなフィニッシュ

「ヴィニシウスは1対1が強い。素晴らしいクオリティを備えている。だが、ゴールをするためには、そんなに多くボールタッチをする必要はない。1タッチか2タッチで良いんだ」とはアンチェロッティ監督の弁である。

ヴィニシウスが、得点数を増やすために、やるべきはスペースへのランニングとシンプルなシュートだった。

得点を喜ぶヴィニシウス
得点を喜ぶヴィニシウス写真:ロイター/アフロ

スペースに出て、簡単にフィニッシュする。その形で、ヴィニシウスのゴールは増えていった。

そして、自信を得て、本来のヴィニシウスらしいゴールが生まれる。

チャンピオンズリーグ・グループステージ第3節のシャフタール・ドネツク戦。この試合、2得点を記録したヴィニシウスだが、ドリブルからのゴールは圧巻だった。敵陣で3人、4人とかわして、フィニッシュ。間違いなくマドリーに加入してからのベストゴールのひとつだった。

「トレーニングでは、よくやっているプレーだ。ただ、試合では、なかなかうまくいかなかった」とはあのゴラッソを沈めた後のヴィニシウスのコメントだ。

「僕は働き続ける。まだ21歳で、伸び代がある。シュートを外すこともあるだろう。それは普通だ。でも、外しても、またチャレンジする。外れる時もあれば、決まる時もある。監督からはゴールを求められている。(シュートを外すと)ベンチから『交代させるぞ!』と檄が飛んでくるんだ」

ヴィニシウスは今季、15試合で9得点5アシストを記録している。先述の通り、昨季は49試合で6得点をマーク。すでに得点数においては昨季を上回っているのだ。

■ベンゼマとの連携

また、ヴィニシウスが向上した点として、カリム・ベンゼマとの関係性が挙げられる。

エデン・アザールとのポジション争いに身を投じてきたヴィニシウスだが、ベンゼマとの「連携力」ではアザールに部があった。昨季、チャンピオンズリーグのボルシア・メンヒェングラッドバッハ戦では、ベンゼマがフェルラン・メンディに「彼にパスを出すな。独りよがりのプレーをしている」と話しているところがフランスメデイアのカメラにすっぱ抜かれた。

現在のマドリーで、攻撃の中心にいるのはベンゼマだ。3トップの中央に据えられるベンゼマが、左サイドに流れて起点になり、ゲームメイクをする。そして機を見て自らゴール前に入っていき、ゴールを陥れる。

しかし、今季はベンゼマとヴィニシウスの関係性に改善の兆しが見られる。ベンゼマ自身、「ヴィニシウスとはよく話をする。彼をサポートできるなら、力になりたい。トップクラスの選手だ」と語っており、ゴールという結果が2人の関係性を良くしているのは明白だ。

マドリーは今季、公式戦で35得点を挙げている。ベンゼマ(13得点8アシスト)とヴィニシウス(9得点5アシスト)で、全体のうち63%が生み出されている。

ヴィニシウスとベンゼマ
ヴィニシウスとベンゼマ写真:なかしまだいすけ/アフロ

「私は何もしていない。彼を起用して、チャンスを与えているだけだ。彼はそういった信頼に値する選手だからね。ヴィニシウスは自信をつけてきている。すべてがうまくいっているようだ」

アンチェロッティ監督が述べるように、ヴィニシウスの成長には目を見張るものがある。だが、ここがヴィニシウスの到達点ではない。ビッグクラブでは、シーズン終盤に、タイトルが奪取できていなければ批判される。しかし、彼の得点力アップは頼もしく、マドリーを一段上のレベルに引き上げる可能性につながっている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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