元阪神・玉置隆投手 社会人4年目「また本気の夏が始まる!」
阪神タイガースを退団後、社会人野球で頑張っている“元小虎たち”も、既に現役を引退してコーチになる人が増えてきました。そんな中、日本製鉄鹿島(新日鐵住金鹿島から社名変更)の玉置隆投手は、32歳となった今季もバンバン投げています。しかも節目の試合でチームを引っ張る仕事ぶりは健在!今月行われた公式戦でも1失点完投勝利が2試合、さらに9回無失点で延長戦に入り救援を仰いだ試合もありました。さすが玉置隊長です。
社会人野球の大きな大会は3つあり、ことしは『第90回都市対抗野球大会』が7月13日から東京ドームで、『第45回社会人野球日本選手権大会』が10月21日から京セラドーム大阪で、そしてクラブチーム日本一を決める『第44回全日本クラブ野球選手権大会』が8月26日からメットライフドームで開催されます。中でも歴史ある都市対抗は、チームも選手も予選の段階から「1年で一番本気」の戦いを繰り広げるわけです。
近畿地区の予選状況をお伝えしますと、藤井宏政コーチ(29)のカナフレックスは京滋奈1次予選を勝ち抜いて近畿2次予選へ進みましたが、今月16日に行われた1回戦でミキハウスに10対0(7回コールド)で敗れ、27日からの敗者復活戦へ回ります。また昨年途中で現役を退き専任となった阪口哲也コーチ(26)のパナソニックは24日の2回戦からスタートです。
野原祐也監督(34)が率いるOBC高島は、残念ながら京都・滋賀・奈良1次予選で敗退。穴田真規さんが2017年まで所属したマツゲン箕島硬式野球部(和歌山箕島球友会からチーム名変更)も、大阪・和歌山1次予選の初戦でミキハウスに負けて近畿2次へ進めませんでした。この2チーム、次はクラブ選手権をめざしての戦いとなり、OBC高島は18日から行われた滋賀1次予選を突破して6月末開催の東近畿予選へ。マツゲン箕島は6月15日からの大阪・和歌山1次、そして7月の西近畿予選へと向かいます。
また藤田太陽投手兼任コーチ(39)がいるロキテクノベースボールクラブは、昨年初めてクラブ選手権の本大会出場を果たしました。ことしも6月末からの富山・石川・福井1次予選、そこを勝ち抜いて7月末から行われる北信越予選を突破すれば、2年連続出場となるわけです。みんな頑張ってほしいですね。
では玉置投手の話に戻りましょう。19日に都市対抗の1次予選をトップで通過した日本製鉄鹿島ですが、その前に早くも秋の日本選手権出場を決めました。そちらからご紹介します。
【JABA東北大会】
社会人日本選手権の本大会に出る方法は、3月から6月にかけて開催されるJABAの対象試合で優勝するか、都市対抗で優勝するか、クラブ選手権で優勝すること。また8月から9月に行われる地区最終予選で勝ち抜くことです。日本製鉄鹿島は4月の『JABA日立市長杯選抜野球大会』に出場するも予選リーグで敗退。次が5月8日からの『JABA東北大会』(宮城県)でした。
予選リーグ 5月8日(仙台市民)
日本製鉄鹿島-トヨタ自動車東日本
鹿島 400 000 200 = 6
トヨ 000 000 001 = 1
◆バッテリー
【鹿島】能間-鈴木-飯田 / 片葺-坂口
【トヨ】阿世知-千葉-吉橋 / 小野
初戦は能間投手(27歳、6年目)が先発して、5回無失点ながら6回途中で降板。玉置投手いわく「足がつっちゃった」そうです。9回に1点を失っただけで、6対1で勝利。
予選リーグ 5月9日(石巻市民)
日本製鉄鹿島-きらやか銀行
鹿島 000 000 000 4 = 4
きら 000 000 000 1 = 1
※延長10回からタイブレーク
◆バッテリー
【鹿島】玉置(9回)-飯田(1回) / 片葺
【きら】小島-市毛 / 安成
2試合目は玉置投手(32歳、4年目)が先発して9回無失点!ただし打線も無得点で延長戦に入りました。無死一、二塁から始まるタイブレークで、10回表に鹿島が4点を取り、その裏は飯田投手が1点を返されたもののリードを守って試合終了。
予選リーグ 5月11日(仙台市民)
航空自衛隊千歳-日本製鉄鹿島
千歳 000 100 000 = 1
鹿島 100 002 10X = 4
◆バッテリー
【千歳】山井-能間 / 坂口
【鹿島】本木 / 佐藤大 ※交代は不明
予選リーグ3戦目は山井投手(28歳、7年目)が先発。ついで能間投手が登板しています。打線は後半に3点を追加して勝ちました。
そしてブロック1位で決勝トーナメントへ進出した日本製鉄鹿島。まず準決勝で玉置投手が登場します。
準決勝 5月12日(仙台市民)
日本製鉄鹿島-JX-ENEOS
鹿島 010 000 001 = 1
ENE 000 000 100 = 2
◆バッテリー
【鹿島】玉置 / 片葺
【ENE】江口-藤井 / 小林
玉置投手は2回に先制してもらうと6回まで無失点。7回に追いつかれますが、9回に4番・高畠選手のホームランで勝ち越し!玉置投手は完投勝利です。続けて行われた決勝は日本製紙石巻との顔合わせになりました。
決勝 5月12日(仙台市民)
日本製紙石巻-日本製鉄鹿島
石巻 030 110 000 = 5
鹿島 107 101 00X =10
◆バッテリー
【石巻】中島-小原-米谷 / 水野-薄井
【鹿島】飯田-鈴木-山井-能間 / 片葺
序盤から試合が動き、逆転されたあと3回に一挙7点を取って再逆転!中盤は互いに2点ずつ取り合って、最終的に10対5で勝利。7大会ぶり5度目の優勝となった日本製鉄鹿島から、3試合に投げて無失点だった能間投手が最高殊勲選手賞(MVP)に選ばれています。また佐藤竜選手は首位打者賞(打率.412)を受賞しました。
勝って兜の緒を締めよ
では玉置投手のコメントをご紹介しましょう。予選が9回無失点、準決勝で9回1失点完投と大きく貢献したので、玉置投手がMVPでもよかったですよね。「そう、僕かなと思いましたね(笑)」。好調だった?「(4月の)日立市長杯があまりよくなくて…。何が悪いのか考えながら、何とか調子を上げてこられた」
それにしても9イニングが2試合とはすごい!「体はありがたいことに元気ですね。9回を投げ終わった時に、あれ?全然疲れてないなあと思いました。キャッチボールをしていても“もう1試合、完投いけるな”って感じで。今の投げ方がいいのかもしれませんね」。プロ野球ではありえないこと。「考え方でしょうね。今気づいていることですけど。もしあの頃、気づけていたら…と思ったりしますが、まあ過去のことなんで」
5月のうちに日本選手権出場が決まるなんて。「今まで9月の最終予選だったから、早めに決められてよかったですね。でも都市対抗の予選が始まるので、喜んでいる暇はありません。“勝って兜の緒を締めよ”です。より気を引き締めて臨みます」
次はその都市対抗予選。玉置投手が入部してから3年連続でダブルドーム出場という快挙を続けているので、4年連続といきたいですね。「何とかそこは。そのために呼んでもらったんですから。また玉置、完封で決めてきますよ」。 本当に都市対抗の予選では好投続きで。「ここ3年、予選はできすぎってくらい。これを続けないといけませんね。このチームは緩まないのがいいとこ。気合は日本一入っています!」
【都市対抗野球1次予選 茨城県大会】
大会は5月10日からの予選トーナメントを経て、18日から代表決定トーナメントが行われました。日本製鉄鹿島はここからの登場。他に、おなじみの日立製作所をはじめJR水戸、茨城トヨペットが出場しています。ちなみに茨城から4代表が北関東2次予選へ進出するので、この4チームでもう決まりなんですね。ただし、ここを一抜けできるかどうかが大きな問題!それによって、2次予選の“しんどさ”が変わってくるとのこと。のちほど詳しく書かせていただきます。
第1代表決定 準決勝 5月18日
JR水戸-日本製鉄鹿島
水戸 010 000 0 = 1
鹿島 011 081 X =11
※規定により7回コールド
◆バッテリー
【水戸】小泉-曾澤-高萩-保坂 / 佐川
【鹿島】山井-葛谷 / 坂口-濱村
まず18日に行われた準決勝はJR水戸を11対1(7回コールド)で下しました。先発は山井投手で、葛谷投手が救援。藤本選手と安達選手にホームランが出ています。
そして翌日、例年通り日立製作所との対戦となった決勝。打線が前半で5点を取り、先発の玉置投手は7回に4番・田中選手のホームランで1点を返されたものの、その後も抑えて完投勝利!2年連続となる第1代表で北関東2次予選へ駒を進めました。
決勝 5月19日
日本製鉄鹿島-日立製作所
鹿島 003 020 000 = 5
日立 000 000 100 = 1
◆バッテリー
【鹿島】玉置 / 片葺
【日立】西澤-岡-邑楽-猿川-梅野 / 川本-中園
狙い通り第1代表で進出した北関東2次予選ですが、先ほど書いたように今回は形式が大きく変わっています。昨年までは、まず1回戦トーナメントで8チームから4チームに絞られます。次に代表決定リーグ戦で4チームから3チームに減って、最後の代表決定トーナメントで2チームが本戦切符を手にするという流れでした。とはいえ毎年のように日本製鉄鹿島と日立製作所(茨城)、SUBARU(群馬)の3チームで争ってきた代表の座。お互いに、この三つ巴の戦いが一番の難関と言えるでしょう。
ところが今季は、8チームで争う代表決定トーナメント一発に変更されました。第1代表を決める“やまがた”には2つのブロックがあり、左側には茨城の第1代表と第3代表、栃木の第1代表、群馬の第2代表が名を連ね、右側には群馬の第1、栃木の第2、茨城の第2と第4が入ります。つまり、群馬の第1代表であるSUBARUも茨城県大会で戦った日立製作所も、日本製鉄鹿島とは違うブロックになったわけで、顔を合わせるのは決勝の第1代表決定戦までないのです。
これまでリーグ戦、トーナメントと何度か戦うこともあり、これが本当にしんどかったと玉置投手。勝っても負けても代表になれるという茨城県大会だけど「ことしは北関東の形式が変わったので、ここからもう気が抜けない」と繰り返し言っていたのですね。確かに第2代表だと、おそらく同じブロックのSUBARUと準決勝で戦い、さらに決勝は日立製作所が相手となるでしょう。ここで負けたら敗者復活戦でまたSUBARUと?いや~本当に第1代表でよかった!
「全員で勝ちたい!」という信念
玉置投手が「SUBARUとは別のブロックになったけど、同じブロックにいるエイジェックってチームは要注意ですね。梵さんがいるんですよ」と教えてくれたので調べてみたら、梵英心内野手兼任コーチと、元巨人の川相拓也内野手兼任コーチの名前があります。エイジェックは2018年2月創部で、2シーズン目の今季は栃木の第1代表として北関東2次へ進んできました。常連の全足利クラブを破って。確かに油断はできません。
なお7回に唯一の失点となったホームランは日立製作所の4番・田中選手に打たれたもの。「田中さんは僕より年上のベテラン。でも力が衰えるどころか、すごいバッター!」と玉置投手は言います。「真っすぐ、真っすぐで押しこんだ結果、うまく打たれたというか、さばかれた。落ち込むホームランではなかったですね。いい勉強をさせてもらいました」
決勝での完投について「疲れがなくもないですが、いいイメージを持っていたし、技術的にも自信があったから気持ちの上で優位に立てたと思います」と振り返っています。完投するつもりだった?「そんなことないですよ。つないで勝ちたい、全員で勝ちたいと思っているので。後ろに頼もしいピッチャー陣が控えているから、1人で投げ抜くことができたと思っています。後ろがいるから投げられた」
しっかり打線の援護もあったので。「野手陣も調子いいですね。楽に投げられる。守ってもらって、打ってもらって感謝しています。でも打ってくれ、とは思っていないんですよ。打線が苦しんでいたら(自分が)助けてあげたい」
表彰式で最高殊勲選手賞をもらいましたが「ただ僕もみんなも、欲しいのはここのMVPじゃないんです。1年間めざしてきたのは」と。次の北関東2次予選で第1代表になって、MVPを手にしてください。そして東京ドームでの勝利を祈っています。この日の決勝を「ここさえ勝てば。ここだけは何とかしないと1年後悔する試合だった」と力を込めながら、続けて「しんどいけど楽しみでもありますねえ。簡単に出たら面白くない」と笑う玉置投手。頼もしい限りです。
エースの穴をみんなで埋めて
最後に、昨年まで在籍した大貫晋一投手(25)がドラフト3位でDeNAに入団。秋に行われた日本選手権でも2勝を挙げ大会の優秀選手に選ばれ、チームのベスト4進出に貢献してくれたエースだっただけに、その穴は大きいだろうと心配していました。玉置投手は「大貫の穴を誰が埋める?となった時に、その誰かを待つだけじゃなく自分がもう一度やればいいかと思った。もう一回やる準備はできているので」と、ことしも現役で投げる覚悟を持ったようです。
「でもいいピッチャーが多いですよ、うちは」。はい、よくわかります!
ところで大貫投手のことは見ているのかなと思って聞いてみたら「めっちゃ応援しています!めっちゃ見ていますよ!初勝利を挙げたのが阪神戦やったから、大貫も阪神も両方を応援していました(笑)。幸せな悩みで。大貫は本当によく頑張っていますね」と玉置投手。そうそう、4月11日のプロ初勝利が甲子園でした。試合後に連絡したら、ドラフト指名時と同じく自分のことのように喜んでいた“玉置コーチ”。巣立っていった大貫投手のためにも、東京ドーム行きを決めてください。
大貫投手と玉置投手の話もご紹介した昨年の日本選手権については、こちらからどうぞ。→《元阪神・玉置隆投手、32歳の決意。「さらに先のゴールを目指して」》
<写真の※印はチーム提供、それ以外は筆者撮影>