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ハリウッドのセクハラ騒動:トランプは?シュワルツェネッガーは?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
セクハラ騒動が政界にも及ぶ今、「トランプはいいのか」という疑問が高まっている(写真:ロイター/アフロ)

 過去に犯したセクハラで、ハリウッドのあらゆる大物が職を失い、賞を剥奪されている今、誰もが感じてきた矛盾が、いよいよ無視できなくなってきた。ドナルド・トランプである。

 トランプが「Access Hollywood」撮影の舞台裏で女性に対する卑猥な発言をする音声は、昨年秋の選挙前に公開されて、大ニュースとなった。それ以外にも、ハーベイ・ワインスタインと同じように、仕事をえさに女性をホテルに呼び出して体を触ったり、突然キスをしてきたり、自分の所有するレストランに勤める女性スタッフのルックスについて侮辱的な発言をしたりしたなど、当時、数々の証言がなされている。

 ハリウッドにおけるセクハラ摘発について意見を聞かれたジェーン・フォンダは、「でも、この国では、まだそういうことをやる人が大統領なんですからね」と、がっかりした口調で語った。最近になって、セクハラ摘発が政界にも及ぶと、その疑問はますます明白になってきたのだ。

 アラバマ州で上院議員選挙に立候補している共和党のロイ・ムーアは、 9人の女性が過去に彼からセクハラ、あるいは性的暴行を受けたと名乗り出たことで、大きな危機に陥っている。トランプは、「本人が、やっていないと言っている」とムーアを弁護しているが、やはり過去のセクハラが暴露された民主党のアル・フランケンのことは非難し、彼を揶揄するツイートをした。そもそも、そんなことを言える分際なのかと思うが、ムーアには「立候補をやめたほうがいい」という共和党議員も、トランプに対しては口をつぐんだままだ。

 そんな中、L.A.のブレイブ・ニュース・フィルムズという団体が、「16 Women and Donald Trump」という短編ビデオを製作し、ネットで公開した。このビデオには、トランプにセクハラを受けた16人の女性が実名で登場する。中には写真と名前だけでコメント映像がない女性も混じっているが、それらの場合も、彼女らが具体的にトランプに何をされたのかがテロップで説明される。

 6番目に登場するクリスティン・アンダーソンさんは、トランプが「自分のスカートの下に手を入れて、下着を通して性器を触った」と告白。8番目のカリナ・ヴァージニアさんは直接胸を触られたと言い、14番目のサマンサ・ホルビーさんと15番目のターシャ・ディクソンさんは、トランプが女性用の楽屋に何の前触れもなく入ってきたと明かしている。着替え中の女性たちは裸、あるいは半分裸状態で、「バスローブを羽織る暇もなかった」とのことだ。11番目のナターシャ・ストイノフさんは、トランプが「性被害に遭うのは美人の女性だけ」と言ったと証言する。

 ブレイブ・ニュース・フィルムズは、このビデオを紹介するサイトで、「これは深刻な問題です。セクハラは、この国を動かす最もトップの組織でも起こっているのです。 (中略)主要メディアが被害女性たちの声を無視し、ホワイトハウスが彼女らに責任転嫁をしようとしても、私たちには、彼女らの話を聞く権利があります。(中略)ハリウッドだけではありません。私たちの現大統領も、責任を逃れることはできないのです」とメッセージを送り、このビデオをシェアするよう促している。

シュワルツェネッガーに賞をあげるな。署名運動が展開

 今回の騒動では不思議なほど名前が出てこないが、アーノルド・シュワルツェネッガーも、トランプ同様、選挙前にセクハラ男であることがばれていたのに、無事、当選してしまった人物である。2011年に、家族のメイドとして長年働いてきたグァテマラ人女性の子の父親が彼であると発覚して大恥をかき、そのことについて後に自伝でも触れているだけに、もう「誰でも知っていること」と受け止められているせいかもしれない。だが、テレビのインタビューでカメラが止まったとたんに女性インタビュアーの胸を触ったとか、「ターミネーター2」の現場で女性のクルーに近づき、ブラウスの中に手を入れて胸を露出させたとか、ホテルのエレベーターの中で女性の水着を脱がせようとしたとか、彼のやってきたことも相当である。

 そんな彼が公共非営利団体コモン・コーズから来月1日に賞を受けることに反対する署名運動が、最近、ネットで始まった。始めた女性は、「アーノルドを称えるのは、いつだって間違い。でも、#metoo運動が起きている今は、もっと間違っている。アーノルドに賞をあげることで、コモン・コーズはセクハラ男を認め、犠牲者を黙らせることになる。そうではなく、コモン・コーズは、蔓延したセクハラ問題の解決に力を貸すべきなのだ」とサイトで訴えている。 現段階で、まだ署名は目標数に達しておらず、目的を達せられるかどうかは不明だ。

 トランプとシュワルツェネッガーは昔からの友人。ふたりとも金持ちの共和党支持者で、ハリウッドから政界に転身した。昨年末、シュワルツェネッガーは、トランプからリアリティ番組のホストを引き継いでもいる。年齢もトランプが71歳、シュワルツェネッガーが70歳と、同世代だ。

 だが、シュワルツェネッガーが引き継いだ番組の視聴率が悪かったことがきっかけで、ふたりは今年初めから犬猿の仲になった。トランプは、自分がホストの時は視聴率が良かったと、まったく関係のない場でもシュワルツェネッガーの話を持ち出し、シュワルツェネッガーは、トランプがパリ協定を離脱したことや、8月に起きたシャーロッツビルの事件で白人至上主義者を非難しなかったことなどを、テレビやツイッターで攻撃している。しかし、当然のことながら、トランプのこの部分の問題に関しては、何も発言してきていない。 今すぐ公開予定の映画もないシュワルツェネッガーは、墓穴を掘らないためにも、とりあえず今はあまり目立たないほうが得策と考えているのかもしれない。セクハラ騒ぎが一段落するまで、このふたりの間の騒ぎは、一時休止となりそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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