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タバコの吸い殻「ポイ捨て問題」の最適解は喫煙所を増やすことではない

石田雅彦科学ジャーナリスト
喫煙所のすぐ外でタバコを吸う人:写真撮影筆者

 路上や公園でタバコを吸うことによる受動喫煙被害や吸い殻のポイ捨てが問題視されている。この問題に対し、喫煙所を増やせばいいという意見も根強いが、喫煙所を増やせばこの問題が解決するのだろうか。

喫煙所の増設では問題は解決しない

 受動喫煙防止を主な目的にした改正健康増進法が2020年4月より全面施行され、原則的に屋内は禁煙となり、施設管理者は受動喫煙の害が発生しないようにしなければならなくなった。タバコを吸う場所が減った喫煙者が、路上や公園などに集まり、近隣や通行者などへタバコ煙による健康被害を及ぼし、吸い殻をポイ捨てして社会問題になっている。

 改正健康増進法の施行や新型コロナのパンデミックの以前から、各地域・自治体の条例などで路上喫煙禁止のエリアがあり、違反した喫煙者には過料が科せられるなど、タバコを吸う場所は少なくなっていた。こうした中、喫煙する場所を確保する目的やタバコの吸い殻のポイ捨て、受動喫煙の防止などのため、公衆喫煙所を増設すべきという声も出てきている。

 それでは、駅前などに公衆喫煙所を設置すれば、はたして喫煙者は路上喫煙をやめ、ポイ捨てがなくなり、受動喫煙の害を根絶することができるのだろうか。

 実は、喫煙所を増やすことは、吸い殻のポイ捨て問題の抜本的な解決にならない。

 筆者も参加したインターネット・アンケート(※1)によれば、喫煙者の約2/3が「喫煙したくても、喫煙所を利用したくないと思う」(いつも思う、頻繁に思うことがある、ときどき思うことがある)と回答した。また、喫煙者の約3/4が、喫煙所が設置されていても路上で喫煙したことがあると回答した。

 さらに、路上喫煙に対し、過料などの罰金の徴収が効果的と回答した喫煙者は6割近くになった。つまり、喫煙者にとっても喫煙所の増設は、問題の抜本的な解決につながらないと感じているようだ。

喫煙者を減らすことが抜本的な解決法

 周囲に人のいない場所で吸えばいいのに、なぜ喫煙者が目の前に喫煙所や灰皿がある路上、子どもが遊ぶ公園、タバコ煙が漏れ出るビル裏などでタバコを吸うのか、なぜ吸い殻をポイ捨てするのか、タバコを吸わない人にはよく理解できないかもしれない。

 その理由は、ニコチンが切れると喫煙者はタバコを吸わずにはいられないからだ。過去に喫煙者であった筆者からみると、喫煙してはいけない場所でタバコを吸い、吸い殻をポイ捨てする喫煙者の行動はよく理解できる。

 タバコ製品に含まれるニコチンには強い依存性があり、朝起きてから夜寝るまで一日中、一定時間おきにタバコを吸わずにはいられない。こうした生活習慣を何十年も続けるのが喫煙だ。

 タバコ会社はあちこちで喫煙所の設置を働きかけているが、タバコ会社にしてみれば喫煙者というロイヤリティの高い消費者を減らさないため、タバコを吸える場所をなるべく多く増やしたいのだろう。

 喫煙所を設置するのは、一見すると喫煙者のためでも非喫煙者のためでもあるように思える。だが結局、ニコチン依存から逃れられない喫煙者の健康のためでもなければ、上記のアンケート調査でわかったように受動喫煙の害を受けるタバコを吸わない人や社会のためにもならない。

 日本では、喫煙により年間12万人から13万人が死亡していると推計される(※2)。これは全死亡者数の約1割にあたり、2021年の新型コロナによる死者数の10倍近くになる。

 また、日本では毎年、1年間に受動喫煙関連で約1万5000人が死んでいるとされ(※3)、新型コロナを重症化させる心血管疾患、呼吸器系の疾患、糖尿病などは、受動喫煙でも発症することが知られている(※4)。

 受動喫煙の害を減らし、タバコの吸い殻のポイ捨て問題を解決する抜本的な方法とは何だろう。

 それは喫煙者を減らし、喫煙率を下げていくことだ。コンビニエンスストアに陳列せず、店頭のタバコ広告をなくし、依存物質であるタバコ製品が目につかないようにする。タバコへの課税を強め、禁煙したい喫煙者をしっかりサポートすれば、やがて喫煙者が減り、こうした社会問題もなくなっていくだろう。

※1:Facebook「公衆喫煙所に関する意識調査プロジェクト」(プライベートグループ)による、人口密度の高い都府県(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)在住で20歳以上の男性2164人の喫煙者(20代:373人、30代:498人、40代:482人、50代:445人、60代以上:366人)を対象にした調査。この調査による喫煙者とは「あなたは現在、喫煙しますか」(このアンケート調査において「喫煙」とは、メビウスやマルボロなどの紙巻きタバコを吸うこと、アイコス・プルームテック・グローなどの加熱式タバコやmyBlu・Juul・ビタフルなどの電子タバコを使用することを指します)に「はい」と回答した対象者。調査費用はウェブサイト「禁煙化推進の手引」への寄付金を利用した。

※2-1:Yoshitaka Murakami, et al., "Population attributable numbers and fractions of deaths due to smoking: A pooled analysis of 180,000 Japanese" Preventive Medicine, Vol.52, Issue1, 60-65, 2011

※2-2:Nayu Ikeda, et al., "What has made the population of Japan healthy?" LANCET, Vol.379, Issue9796, 1094-1105, 2011

※3:片野田耕太ら、「たばこ対策の健康影響および経済影響の包括的評価に関する研究」厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業、平成27(2015)年度報告書

※4-3:Dongdong Zhang, et al., "Dose-related effect of secondhand smoke on cardiovascular disease in nonsmokers: Systematic review and meta-analysis." International Journal of Hygiene and Environmental Health, Vol.228, July, 2020

※4-5:Minjin Zhang, et al., "The association of husbands’ smoking with wives' dysglycemia status: A cross‐sectional study among over 10 million Chinese women aged 20‐49." Journal of Diabetes, Vol.12, Issue5, 354-364, May, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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