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〝私は〟映画館のポップコーンは迷惑騒音だと思います。対策をお願いします!

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
(提供:イメージマート)

 騒音問題に関する我が国の状況は、年を経るごとに確実に悪化してきています。しかも、この10年程の変化はこれまでとは明らかに異なる特異な傾向を示しています。一言でいえば、声と音と騒音の区別がない混沌の時代になったのです。子どもの声の騒音問題で児童公園が廃止になり、駅のストリートピアノは撤去され、田んぼのカエルの声で裁判が起こり、音響信号機がうるさいとして停止され視覚障がい者の死亡事故が起きる時代なのです。もう、何だって騒音問題になるのです。そこで、映画好きの私が思いついたのが映画館でのポップコーンの音です。

映画館でなぜポップコーンを食べる

 日本はこれまで、アメリカの良いところも悪いところも何でもみんな持ち込んできましたが、映画を見ながらポップコーンをくちゃくちゃ食べる習慣は、向こうのドライブイン・シアターならともかく、日本の映画館ではあまり褒められたものではないと思っています。

 ポップコーンは比較的食べる音が小さいため、映画館で食べられるようになったのかどうかは分かりませんが、何故か、どこの映画館の売店でも販売しています。しかし、横でくちゃくちゃやられるとその音がかなり気になり、映画に集中できないことも多いのは私だけではないと思っています。また、ポップコーンの袋と口の間を手がずっと動き続けることも視覚的にかなり煩わしく感じます。これは、大枚2000円を払って(実際にはシニア割引で1300円)、至福の一時を得ようとする楽しみを妨害する行為であり、私から見れば明らかな迷惑行為なのです。

 このようなことを言えば、そんなに気になるなら、家で1人でビデオでも見ていろと反論されるのがおちでしょうが、私の主張は逆です。そんなにポップコーンが食べたいなら、家でビデオでも見ながらどうぞ思う存分食べて下さいということです。ただ、不特定多数の人が集まる場所では、周囲への配慮は不可欠なはずです。

ポップコーンを食べる音は意外と大きい!

 しかし、ポップコーンを食べる音が迷惑騒音だというからには、その音が本当にうるさいものなのか、それとも私が神経質なだけなのか、客観的な判断材料が必要になります。そう考えると、何でも測定したがる音響屋の性癖がむくむくと頭を持ち上げ、実際にポップコーンを食べる音の大きさを測定してみることにしました。

 測定は、大学にある無響室と呼ばれる音響実験室の中で行いました。椅子に座ってポップコーンを食べる人の口から距離1m離れた位置で、その騒音レベルを測定しました。これは映画館の隣同士の席よりもやや離れたぐらいの距離です。測定内容は、ポップコーンを食べる時の最大レベル(ピーク)記録時の騒音レベルと、その時の周波数分析結果です。下図が、そのポップコーンの騒音レベル測定結果です。

ポップコーンを食べる音の測定結果(ピーク値)、筆者作成
ポップコーンを食べる音の測定結果(ピーク値)、筆者作成

 図の一番右端のOA(Over All)となっている欄が騒音レベルの値であり、その他は周波数成分ごとの値です。ポップコーンを食べる音の大きさは最大値で56dBという結果になりました。ポップコーンの音がこんなに大きいとは、正直ちょっと予想外でした。周波数成分をみると、やはり1KHzから8KHzの高音域にピークがあり、かなり耳障りな音であることが分かります。

 測定距離1mといえば、映画館で一つ席を離れて座ったぐらいの距離ですが、そこで56dBもの騒音が聞こえるというのは、これは気になっても仕方のない音の大きさであるといえます。すぐ隣の席ならもっと大きな音になるはずです。ちなみに、静かな住宅地の騒音レベルは40dB程度、ちょっとうるさいオフィスは50dB、乗用車の車内が60dBぐらいです。また、一般住宅地での環境基準の騒音目標値は夜間40dB、昼間50dBであり、騒音規制法の工場騒音では、夜間の規制値が40~50dBです。また、40dBというのは、人にもよりますが、寝ていても覚醒するレベルであるといわれています。このように見ると、測定法の違い(最大値と等価騒音レベル等)はあるものの、56dBというのは結構大きな音であることが分かると思います。映画館で眠ってしまっても、ポップコーンの音で目が覚めることもあるレベルなのです(笑)。

 しかし、当然ながら次のような反論があると思います。映画館の中は映画の音が充満しており、その音は70~80dBぐらいの大きさにはなるはずで、56dBぐらいの音がしても映画の音にかき消されているのではないかということです。確かに、大音量の時は聞こえないかもしれませんが、映画に引き込まれるのは寧ろ静かな場面であることが多いことを考えれば、マスキング効果は期待できません。また、手の動きの煩わしさは音ではどうしようもありません。ポップコーンを食べる音と頻繁な手の動きは、映画を楽しむ行為を妨げており、やはり迷惑行為と言われても仕方ないと思います。

対策は簡単です。映画館は是非、検討をお願いします

 同じ映画料金を払いながら、ポップコーンをむしゃむしゃ食べながら映画を十分に楽しむ人がいる一方、隣の席のポップコーンを食べる音に悩まされながら我慢して映画を見なければならない人もいる、これは明らかに不合理です。そうなる原因はただ一つです。指定席の隣の人が、ポップコーンを食べる人かそうでないかを事前に把握できないからです。もし、それが分かるようなら、私は間違いなく食べない人の隣の席に座ります。

 ですから映画館側の対策は簡単です。座席をポップコーンを食べられる席と食べられない席にエリアを分けることです。そうすれば指定席を選ぶ時に、自分で選択ができるからです。どちらかの席がもし一杯になってしまっていたら、その時は我慢して席をとるか、映画を見ないで帰るかを選択することもできます。どの場合でも、自分で選択できる状況が作れていることが重要で、好まない状況を押し付けられることがないようにすることです。

 映画館でのポップコーン問題、これはまさに近隣騒音問題の構図そのものなのです。マンション上階では子どもが普通に生活しているだけですが、その足音が下の階に響いてくるという状況と同じです。どの子どもも下の階に迷惑をかけようと思っているわけではありませんが、響く音をうるさいと思う下階の住人もいます。ポップコーンを食べる人も隣に迷惑をかけようと思って食べている人はいませんが、それをうるさく感じる人はいるのです。同じ状況ですが、一つ違いがあります。この上階音問題に関しては有効な解決策はなかなか見つかりませんが、ポップコーン問題には上記したような簡単な解決策があります。ポップコーンの騒音でトラブルになったという話は今のところ聞きませんが、最初に述べたように、今は何でも騒音問題になる時代です。念のため、今のうちに対策を行っておいた方が良いのではないかと思っています。如何でしょうか。

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。我が国での近隣トラブル解決センター設立を目指して活動中。

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