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【F1】オーストラリアGPが開幕!2016年のF1はタイヤの選択と予選方式の変更が波乱を作る?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
フェラーリの2016年型マシン【写真:PIRELLI】

「F1世界選手権」の2016年シーズンが「オーストラリアGP」(3月18日〜20日)から開幕する。今年は新規チームとしてアメリカの「ハース」を加えた全11チーム22台が参戦。そして、全21戦というF1史上最多のレース数が組まれ、ワールドチャンピオンを決する戦いがいよいよ始まった。

今年も速さを見せるメルセデス【写真:Daimler】
今年も速さを見せるメルセデス【写真:Daimler】

メルセデスをフェラーリが追う

昨年は2年連続で「メルセデス」の独走、ルイス・ハミルトンの2連覇。新パワーユニット規定に移行してからというものの「メルセデス」の速さ、強さは今季も変わらない。ただ、冬の合同テストでは「フェラーリ」が好タイムを連発し、「メルセデス」を猛追している印象だ。

「フェラーリ」は昨年、セバスチャン・ベッテルを迎え入れ、3勝をあげる復調ぶりを見せたが、今季は新車「SF-16 H」に近年のトレンドであるショートノーズを採用。またサスペンションもプルロッドからプッシュロッドに変更するなどして、これまでの路線からは大きくスタンスを変えてきた。2014年にフェラーリ会長に就任したセルジオ・マルキオンネ体制になって3シーズン目となるだけに今季はチャンピオン奪還に燃えているのが「フェラーリ」である。

バルセロナで開催されたウインターテストでのタイムやチームの状況、マシンのポテンシャル、ドライバーラインナップを考えると、今年もチャンピオン争いを展開するのは「メルセデス」と「フェラーリ」だろう。そこに条件によっては「レッドブル」と「ウィリアムズ」が優勝あるいは表彰台の一角に入るという構図は昨年通りと予想される。

ショートノーズを採用したフェラーリ【写真:PIRELLI】
ショートノーズを採用したフェラーリ【写真:PIRELLI】

それ以上に熾烈になりそうなのが昨年のコンストラクターズランキング5位以下のチームの争い。「フォースインディア」は好調ぶりが伝えられ、「マクラーレン」が使用するホンダのパワーユニットの改善などもあり、ポイント獲得をかけた中段争いがこれまで以上に激しくなりそうだ。というのも今季は新参チームの「ハース」がテストからいきなり好調なほか、「マノー」がメルセデスのパワーユニットを搭載するため、明らかなテールエンダーのチームが実質的にない状態だ。それに加えてタイヤのルール変更、予選方式の変更などで様々な番狂わせが起こる可能性も秘めている。

2016年のF1チーム&ドライバー 訂正:ベッテルのチャンピオン回数4回
2016年のF1チーム&ドライバー 訂正:ベッテルのチャンピオン回数4回

タイヤは3種類から事前に選択

2016年の規定で最も大きな変更点は「ピレリ」が供給するタイヤに関するルールだ。GPごとにピレリは異なるコンパウンドのドライタイヤを3種類準備し、チームはドライバーごとに全13セット(計52本)のコンパウンドを事前に選択する。ただし、このうちの3セットは3種類のドライタイヤをそれぞれ1セットずつ強制的に割り当てられる。すなわち10セット分のコンパウンドを選ぶのだ。

ピレリが供給するF1タイヤ 【写真:PIRELLI】
ピレリが供給するF1タイヤ 【写真:PIRELLI】

開幕戦「オーストラリアGP」では、「スーパーソフト」「ソフト」「ミディアム」の3種類から選ぶことになるが、タイヤの製造および運搬の都合上、今季用のマシンが完成する前(昨年12月)に既にチームはFIA(国際自動車連盟)にタイヤのセット数を通知しており、GP期間中に変更することはできない。同じチームでもドライバーごとにセット数が異なるチームもある。

「オーストラリアGP」では指定された決勝用のタイヤは「ソフト」と「ミディアム」。ウェットコンディションにならない限り、この2つのうちどちらかを必ず決勝レースで使わなければならない。また、予選Q3(トップ8台)では強制的に最も柔らかい指定タイヤの使用が義務付けられる。オーストラリアGPでいえば「スーパーソフト」だ。Q3用の「スーパーソフト」は予選後に返却しなければならないが、Q1、Q2で敗退したドライバー(9位以下)はこれを決勝レースで使用できる。さらに昨年までと同様にQ3進出チームはQ2でベストタイムを記録したタイヤ(スーパーソフトになる可能性が高い)を決勝レースのスタートで使用しなくてはならない。

オーストラリアGP タイヤ選択リスト 【写真:PIRELLI】
オーストラリアGP タイヤ選択リスト 【写真:PIRELLI】
3連覇を狙うハミルトン【写真:Daimler】
3連覇を狙うハミルトン【写真:Daimler】

かなり複雑、難解なルールになっている。予選・決勝で使えるのは7セット(指定3セットを含む)。「メルセデス」のハミルトンがQ3に進出したとして、仮にQ1で「スーパーソフト(1)」Q2で「スーパーソフト(2)」Q3で「スーパーソフト(3)」を使用してPPを獲得したとしよう。決勝は「スーパーソフト(2)」でスタートすることになる。決勝では指定タイヤの「ソフト(4)」「ミディアム(5)」のどちらかを使用しなければならない。残っている2セットのコンパウンドは何を選んでいるかというところが興味の焦点だ。

一方、Q1Q2敗退(9位以下)のドライバーはボーナス的に「スーパーソフト(3)」を使用せずに持っているため、セーフティカー導入で差が詰まった時に新品の「スーパーソフト」に履き替えて一気にオーバーテイクショーに持ち込める可能性もあるということだ。

90秒足切り方式の新予選

タイヤのルール変更に加えて、今季はまたさらに「番狂わせの要素」が存在する。それがグリッドを決める「予選」方式の変更だ。開幕戦オーストラリアGPから導入されることが先日発表された90秒ごとにその時点で最も遅いタイムのドライバーが敗退していく「90秒足切り方式の予選」である。

予選Q1の仕組み
予選Q1の仕組み

【Q1】

全22台が出走する。予選開始後7分で最初の足切りがやってくるので、ここまでに全車がタイムを記録する。すなわちコースは22台のマシンでひしめきあっている可能性が高い。ちなみにタイヤ交換のためにピットインはできない。ピットインした時点でアタック終了だ。訂正:ピットインでのタイヤ交換は可能。ただし、インラップ、タイヤ交換、アウトラップに要する時間を見越してノックアウトされない位置につけるタイムを出しておかなくてはならない。また、他者のアタックを妨害する行為をしたドライバーはタイムが抹消される。コース上にストップした場合、セッション終了までにピットに戻れてもパルクフェルメされてしまう。

Q3進出に自信のある上位チームはタイムを出したあと、早々にピットに戻るかもしれない。Q2に進出したいチームは少しでもベストタイムを更新すべく、毎周ごとのフルアタックを行う。敗退ギリギリの順位にいる状態でミスをし、タイム更新ができなければその時点でQ1敗退となる。上位15台がQ2に進出。

予選Q2の仕組み
予選Q2の仕組み

【Q2】

15台が出走する。Q3進出を想定して「スーパーソフト」を使用するチームが多いと考えられる。6分後から足切りが始まるが、「メルセデス」や「フェラーリ」などの上位チームはタイヤをあまり使いたくないため(=決勝レースに温存するため)、コースインから2周ほどアタックして早々にピットインする可能性が高い。

フリー走行やQ1で上位チームに肉薄できていると感じた中段チームはQ3進出を狙ってアタックを続けるかもしれない。だが、Q2で使用したタイヤを決勝のスタートでも使用しなくてはならないので、タイヤは酷使できない。すなわち、足切り開始後早々にタイムが出揃い、みんなピットインして、静寂のまま90秒ごとに足切りが行われ、グリッドの順位が決まっていく事態が無きにしもあらず。雨の場合は最後まで走り続けてベストタイムの更新に全車が躍起になる面白い予選が見られるかもしれない。

予選Q3の仕組み
予選Q3の仕組み

【Q3】

上位8台が指定「スーパーソフト」を履いてのアタック。最後の90秒はポールポジションをかけて2台がタイムアタック合戦をするという設定だ。Q3で使用するタイヤは終了後に返却のため、タイヤの性能を使い切ってもOKなため、何周もアタックできる。

ただ、ポール狙いのドライバーが14分間、フルにアタックをし続けるかどうかは分からない。「メルセデス」ハミルトンがコースインして2周アタックし、「スーパーソフト」の一番美味しいスイートスポット(最もグリップ力が得られ、好タイムを出しやすい部分)を使って、圧倒的に速いタイムを出した時、ライバルたちが果たしてさらに8周、9周走ったタイヤでそれを上回るタイムを出せるのかどうなのか?

マクラーレン・ホンダ(前)は浮上できるか?【写真:PIRELLI】
マクラーレン・ホンダ(前)は浮上できるか?【写真:PIRELLI】

この予選方式は鳴り物入りでオーストラリアGPから始まるが、果たして観客を興奮に導くものになるのかどうなのかは始まってみないと分からない。それでも、FIAが新予選方式をゴリ押しするのは「番狂わせ」の演出のためだ。予選中にマシントラブルを起こしたりした時、あるいは遅いマシンに引っかかってクリアラップが取れなかった時、上位チームのドライバーが下位グリッドに沈む可能性もある。下位グリッドからの追い上げは決勝レースを面白くしてくれるはずだ。

しかしながら、こんなことも考えられる。決勝レースで最も順位を上げやすいのはスタートである。そのため、予選9位以下の順位ならば新品の「スーパーソフト」でスタートできる。スタートで順位を3つ4つ上げて良いポジションで1周目を終えることで目下のランキングを争うライバルを突き放したいと考えるならば、あえてQ3に進まない=9番手狙いで「お先にどうぞ」的予選を行うチームが出てきてもおかしくはない。また、コース上にストップ車両が発生し、赤旗中断になった場合のやり直しなどでも混乱が起きそうな予選方式だ。

今季のルール改定で「イケイケドンドン逃げ切り型」のチームと「決勝レースの追い上げ重視型」のチームに戦況が分かれるだろう。ただ、これはDRSを使ったオーバーテイクがしやすいサーキットでは大きな見どころになるが「モナコ」「シンガポール」などの市街地コースや順位が変わりづらいサーキットでは「イケイケドンドン逃げ切り型」の勝ちは見えている。逆に言うと、偶然が偶然を呼ぶ「番狂わせ」で予想外なチームが優勝する可能性も秘めており、シーズンを通してみれば意外に面白いものになるかもしれない。

ファンにとって複雑怪奇なルール変更が功を奏すかどうか、始まってみないと分からない。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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