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ロシアによるドネツク、ルガンスクのウクライナからの独立承認をいち早く支持するシリア

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

ロシアのヴラジーミル・プーチン大統領は2月21日、2014年のクリミア危機・ウクライナ東部紛争に際してウクライナからの独立を宣言していたドネツク、ルガンスクの両人民共和国を独立国家として承認する大統領令に署名した。

これを受け、米国のジョー・バイデン大統領は「侵攻の始まり」と厳しく非難、ロシアに対して金融制裁を科す考えを示した。

ウクライナ情勢が一気に緊張を増すなか、真っ先にロシアを支持する姿勢を示したのがシリアだ。

ミクダード外務在外居住者大臣のロシア訪問

プーチン大統領がドネツク、ルガンスクの独立を承認することを事前に知らされていたかは定かではないが、シリアのファイサル・ミクダード外務在外居住者大臣は2月21日にモスクワを訪問し、セルゲイ・ラヴロフ外務大臣と会談した。

SANA、2022年2月21日
SANA、2022年2月21日

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、会談では、シリア情勢、中東地域情勢、国際情勢の進捗について意見が交わされた。

シリア情勢をめぐっては、シリアの安定強化、主権維持、領土統合への欧米諸国の妨害を許さないこと、紛争解決に向けた政治プロセスを継続することの必要が確認され、西側諸国によるシリアへの一方的制裁への非難が表明された。

またウクライナ情勢をめぐっては、ミクダード外務在外居住者大臣が米国や西欧諸国によるロシアへの誹謗中傷や偽情報の拡散を非難し、こうした動きが国際社会の緊張を高め、国際社会におけるロシアの役割を低下させようとするものだと非難した。

シリア大統領府声明

プーチン大統領が国民向けのテレビ演説で、ドネツク、ルガンスクの独立を承認したことを発表した翌日の2月22日、シリアの大統領府が声明を出し、両国の独立についての政府の姿勢を発表した。声明の内容(全文)は以下の通りである。

複数のメディアは、シリアがルガンスク、ドネツク両共和国を承認したと伝えた。

シリア・アラブ共和国大統領府は、ドミトリー・サーブリン連邦議会下院(ドゥーマ)議員を団長とし、ドネツク共和国代表も参加したロシアの議員使節団が、今回の事態進展の2か月前の2021年12月21日にダマスカスを訪問した際に、バッシャール・アサド大統領が、ドネツク共和国を承認するとのシリア側の意欲を示し、同国との関係構築開始について合意を交わしていたことを明らかにしたい。

シリア・アラブ共和国のこの姿勢は、ウクライナ危機が米国を筆頭とする西側諸国によってもたらされた問題で、諸国民を分断し、ロシアの国家安全保障を脅かそうとするものだとの確信に基づいている。またこの姿勢は、西側の政策に対抗することが、覇権に抗うすべての諸国民にとっての共通の持続的利益につながり、シリアはあらゆる可能な手段をもって対抗しなければならないとの確固たる原則に立脚している。

シリアは、ルガンスク、ドネツク両共和国との共通の利益、相互互恵の枠組みのなかで、両国との関係構築、関係強化のために取り組む用意があることを確認する。

シリア・アラブ共和国大統領府

また、この声明と合わせて、ミクダード外務在外居住者大臣はモスクワでのヴァルダイ国際討論クラブの会合で講演を行い、ロシアによるルガンスク、ドネツクの独立承認について、国際の平和、国際法、国連憲章、平和な国際関係を守る措置だとして支持を表明した。

ミクダード外務在外居住者大臣は、プーチン大統領による両国の独立承認が「西側諸国、そしてこれらの国々が長らく行ってきた脅迫への対抗の分岐点」としたうえで、「欧米諸国は世界各地を侵略し、テロを支援し、力、欺瞞、圧力を駆使し、こうした方法をとる者を民主的で自由だとみなす一方で、こうした方法への服従を拒否する者を民主主義や自由の敵とみなしている」と非難した。

SANA、2022年2月22日
SANA、2022年2月22日

米国や西欧諸国は、2011年の「アラブの春」波及に伴いシリアで発生した抗議デモへの弾圧を非人道的と非難、バッシャール・アサド政権の統治の正統性を一方的に否定し、経済制裁を科す一方、「民主化」支援と称して、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)を含む反体制派を直接間接に支援した。

また、シリア軍が化学兵器を使用したと断定し、米国は2017年と2018年には限定的なミサイル攻撃を行った。

2014年にイスラーム国が台頭すると、「テロとの戦い」を行うとして、シリア各所を爆撃したほか、地上部隊を駐留させていった。イスラーム国が勢力を失った現在においても、その再興を阻止し、油田を防衛するという口実のもと、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が実効支配するシリア北東部やイラク・ヨルダンとの国境地帯に26もの基地を違法に設置し、900人とも3000人とも言われる部隊を残留させている。

筆者作成
筆者作成

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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