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チェコで近年最強の竜巻発生、背景にロシアの記録的熱波

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
チェコで発生した竜巻による被害(写真:ロイター/アフロ)

「まるで生き地獄の様だ」。24日(木)巨大な竜巻がチェコを襲い、5人が亡くなる大惨事となりました。この言葉は、その被害を見て知事が口にしたものです。

この竜巻は24日(木)午後7時頃、チェコ南部の町ホドニン周辺で発生しました。5人の死者が出たほか、200人以上がケガをしたと報じられています。教会や学校、動物園などが直撃を受け、数百軒に及ぶ家屋の屋根が飛ばされたり、トラックが横転するなど、深刻な被害が広がっています。

隣国のオーストリアやスロバキアからも救助隊が派遣されているようです。まだがれきの下に人が埋まっている可能性があるとのことで、ドローンなどでも捜索活動が続けられています。

竜巻の強さ

推定風速は最大92メートルとされ、竜巻のカテゴリーは6段階で3番目に強い「F3」と発表されました。Severe Weather EUによると、チェコで発生した竜巻としては近年でもっとも強く、また2001年にウクライナで発生した竜巻以来、ヨーロッパでもっとも大きな人的被害を竜巻だということです。

ヨーロッパの竜巻事情

竜巻大国といえば、年間1,000個以上発生するアメリカが世界一ですが、ヨーロッパはどうなのでしょうか。

欧州の気象機関によれば、2010年から2020年にかけて、欧州全体で3,827個の竜巻が報告されたそうです。つまり平均すれば年間350個となります。弱いものがもっとも多いのですが、そのうち約10%がF2(風速50~69メートル)、1%がF3(風速70~92メートル)で、0.05%がF4もしくはF5(風速93~114メートル)とのことです。

つまり今回のチェコの竜巻はF3判定ですから、ヨーロッパとしては非常に稀な強さと言えそうです。

竜巻の背景

この竜巻発生の背景は何でしょうか。

当時「寒冷渦」と呼ばれる、上空に寒気を伴った低気圧が渦巻いていました。さらにその東側では、記録的な熱波が覆っていて、極端な温度差がこうした激しい現象を発生させた一因と考えられます。

どれほど暑かったのでしょうか。

モスクワのこの時期の平均は23度ほどですが、21日(月)からは30度以上の高温が続いていました。23日(水)には34.8度に達し、6月としては観測史上もっとも暑い一日となりました。ロシア第二の都市サンクトペテルブルグでも同日35.9度まで気温が上昇して、こちらも6月の記録を更新しています。

暑さはロシアの周辺諸国にも広がり、下のような記録が作られました。

フィンランド首都ヘルシンキ、最高気温31.7度

→ 6月の最高記録

23日、エストニア・ナルバ、最高気温34.6度

→ 6月の国内最高記録

22日、ラトビア首都リガ、最低気温24.2度

→ 最低気温の国内最高記録

ヨーロッパ東部の記録的な高温は来週前半にかけて続く見込みです。それに伴って、今後も竜巻や雹、大雨と言った激しい気象現象が起こる可能性が出ています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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