「声をあげよう」変化する北欧の抗議活動とSNSの影響力、過激な言論は主催者の悩みの種にも
北欧諸国では市民運動が盛んで、若者の姿も当たり前の光景となっている。
スウェーデンの環境活動家グレタさんも、ストックホルムの国会周辺でひとりで活動を始めた。活動を習慣化することで、同調する人を増やし、感情で訴えかけ、応援団・コミュニティの規模を着実に大きくしていった。
お隣の国ノルウェーでも市民運動は盛んだが、これまで路上で行われていた抗議活動は、ネットの普及とコロナ禍の影響で、SNSへと場所を変えつつある。
10月28日、オスロ・メトロポリタン大学では都市開発の研究成果や都市の課題を話し合う都市会議が開催され、ノルウェー現地の「市民運動の今」が垣間見えた。
ノルウェーでは路上での抗議活動には2種類あるとされる
- 「道路自体が目的の抗議活動」高速道路、有料道路、自転車道の建設など道路そのものの在り方をめぐって
- 「道路を手段とする抗議活動」デモをする舞台・会場として道路を使う
路上抗議にはつながりを生むだけではなく、主催者側が新しい仲間を勧誘する目的もある。
路上よりも参加しやすいのがSNSだ。「気軽に参加できますよ!」、「敷居が低め」という言葉遣いが事前告知で使われやすいことも会議で指摘された。
若者はインスタグラムを好むことから、派手な色を使うなど、写真映えするヴィジュアル重視の活動がネットでは増加傾向に。ポスターを作って、写真をスマホで撮影し、ハッシュタグをつけて、キャンドルに火をともすなど、「つながりと共同体の意識をうむ」手段はネット型にアップデートされている。
路上での抗議活動を生中継して、SNSがドキュメンテーションの場所になっていることも着目された。誰かが警察と衝突する、逮捕されるなどの「ドラマ」が起きるほど熱気は高まる。
カメラレンズを通して中継されると、スクリーンショットを撮ってさらに拡散することも可能となる。写真や動画で中継・記録に残すこと事態が、相手に圧力をかける手段として利用されるようになった。
市民運動を起こす団体らが議論するパネルには、ノルウェーでは大きな影響力を持つ自然青年団体(Natur og Ungdom)も参加していた。会議に参加していた教授らは「デジタル学校ストライキなどをしながら、可能そうな解決策も提示する重要な機関」として彼らを紹介する。若者の政治活動を後押しするノルウェー社会ならではの光景ともいえるだろう。
活動しやすいと感じるSNSは世代で異なる
若者を中心とするこの団体は「インスタグラムこそが活動しやすい場」と話すが、年齢が高い大人を中心とする団体は「フェイスブックこそが民主的な活動がしやすい」と話した。
自然青年団体のAndreas Randoyさんは「若い人はフェイスブックのグループには参加しない。インスタグラムのほうがとても居心地がいい」と話すが、大人が圧倒的に多い「有料道路に反対する市民活動」の Lyngby代表やオスロのフログネル地区の住民グループの代表はフェイスブックこそが話がしやすいと言う。
世代によって、仲間を探す・抗議活動として好むSNSが異なることは明白だった。同時にそれは両者が目にしている世界が異なっており、分断や意見のすれ違いが起きている原因のひとつであろうことも予想される。
若者はインスタグラム、大人はフェイスブックか
2019年のノルウェーでの統一地方選挙で意外なほど票を多く獲得した新政党「有料道路に反対する市民活動」のCecilie Lyngby代表は、「感情的になる人が多いと、時間とエネルギーをより消費する。激しい言葉が飛び交うツイッターは避けている」と話す。
どの団体もスナップチャットとティックトックは市民運動を起こすにはあまり向いていないと語る。
複数の団体から語られたことは、「自分の声が届いていない」と感情的になっている人々がいる現代で、感情を上乗せしやすいSNSでは市民運動を起こしやすいということだ。ノルウェーでは現在、風力発電や油田採掘などを巡って感情的な議論が続いている。
市民が感じる不平等をイラスト化できるかが鍵
「自分たちも都市がどのように変わっていくか、その変化に加わりたい」と話す自然青年団体のAndreas Randoyさん。SNSでの市民運動の成功のカギは「自分たちが感じている不平等をうまくイラストできればできるほど、運動はうまくいく」と語った。
コロナ禍でSNS運動がさらに形を変えるか
ノルウェーでは新型コロナの感染者が増加傾向にあり、各地ではさまざまな対策を講じられている。
首都オスロでは11月10日午前0時から3週間、劇場・映画館・ジムの閉鎖などの社会活動の停止が始まり、家庭以外での全ての社会的集会は禁止され、飲食店などでのアルコールの提供は中止される(外出禁止令はなし)。
飲食や文化業界からは悲鳴が上がっており、SNSで苦しみを訴える動きはより大きくなっていきそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi