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若き挑戦者・藤井聡太七段(17)初めての封じ手もミスなく無事に通過 王位戦七番勝負第2局2日目始まる

松本博文将棋ライター
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 7月14日。北海道札幌市・ホテルエミシア札幌において第61期王位戦七番勝負第2局▲木村一基王位(47歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦、2日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 昨日は藤井七段が40手目を封じました。

 封じ手は通例では2通作成されます。一方、本局で藤井七段が作成したのは3通。これは木村王位が事前に提案したものだそうです。

 これもまた、木村王位の人柄がうかがえるようなエピソードです。この封じ手がチャリティオークションに出品されれば、善意ある方に落札されることでしょう。

 東日本大震災が起こった2011年。名人戦七番勝負第5局・羽生善治名人-森内俊之九段戦でも、やはり封じ手を3通作り、対局2日目、現地のチャリティ・オークションに出品されたという例はありました。

以下、記事中の画像撮影:筆者
以下、記事中の画像撮影:筆者

 この時、封じ手は5万円で落札されています。

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 さて、封じ手の話題になると必ずと言っていいほど「もし書き間違えていたらどうなるのか?」という疑問が呈されます。現実的にはありえない話のようです。しかし長い将棋界の歴史では、実はそうした例もあります。塚田正夫名誉十段(1914-77)は次のように記しています。

封じ手といえば、私の失敗談をご披露しよう。昔、ある棋戦で、木村名人との対局(香落)であるが、私の封じ手が8六飛と書くのを2六飛と間違えてしまい、敵の2五歩の頭に行ってしまった。木村名人のことであるから笑って許してくれたが、ひやあせ物であった。

現今の封じ手は、棋譜号で書くのではなく(前述の2六飛でなく)、図面を用意して、矢印で駒の行く道を書く、これなら間違いない。

出典:塚田正夫『将棋世界』1976年1月号

 木村義雄14世名人(1905-86)は骨の髄までの勝負師でした。こと盤上の勝負においては、誰を相手にしても決して甘いところは見せなかった。その木村名人でも笑って許してくれた、というのは将棋界のよき伝統を物語るようです。

 現在、もし封じ手の記入ミスがあったならば、どうなるでしょうか。もちろん、その可能性はほとんどないのですが、あらゆるケースを事前に想定していくと、どんな可能性も挙げていけるでしょう。そうした細かいことは規定には書かないのが将棋界流です。現代の木村一基王位ならば、多少の相手のミスは、やはり笑ってすませるような気もします。

 8時43分、藤井七段入室。挑戦者が先に部屋に入るのが、近年の不文律です。ただし昭和の昔の観戦記など見ると、タイトル保持者が先に部屋に入ることも多かったようです。

「おはようございます」

 8時51分。木村王位がよく通る声であいさつをして入室。上座に着きました。

 2日制の対局では、1日目が終わった時点で、いったん駒はしまわれます。2日目朝、改めて木村王位が駒箱から駒を取り出し、盤上にあけます。

 本局で使われるのは、大竹竹風師作、錦旗書の盛上駒。両対局者が初期位置に駒を並べ終わると、歩が4枚余りました。高級な駒の場合、通例では2枚ぐらい歩が多く入れられています。4枚は多い方でしょう。

「では1日目の指し手を読み上げていきます」

 立会人の深浦康市九段がそう告げます。

「先手、木村王位、2六歩」

 記録係の広森航汰三段(19歳、中座真七段門下、北海道旭川市出身)が前日の棋譜を読み上げていき、両対局者はその声に従って、指し手を再現していきます。

 39手目、木村王位が銀を引いた局面まで進めたところで、深浦九段が3通の封じ手をすべて開封します。

 藤井七段は赤いペンで持ち駒の歩に丸をして線を引き、8六の地点で矢印で示していました。

「封じ手は△8六歩です」

 深浦九段が封じ手を読み上げ、報道陣のカメラのシャッター音が鳴り響く中、藤井七段は駒台の歩を手にして、8六の地点に置きました。合わせの歩で飛車を8六にまで進め、縦横に利かせて使おうという積極的な攻めの姿勢です。

 △8六歩がいい手かどうかは、進んでみないと観戦者にはわかりません。ともかくも、まずは藤井七段、初めての封じ手をミスなく無難にこなしたことになりました。

「では2日目、よろしくお願いします」

 定刻9時。深浦九段が声をかけて、対局は再開されました。

 10時を過ぎた時点では46手目まで。藤井七段は歩を取りながら、飛車を5六の地点に展開しています。

 王位戦の持ち時間は各8時間。通例では本日2日目の夕方から夜にかけて、決着がつくことになります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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