もし、爪による相性診断があったら…。映画『フィンガーネイルズ』
「相性診断」と検索すると、2800万件ヒットする。
みんな不安なのだ。
相手は私を愛してくれるのか? 私たちの関係に将来はあるのか?
誰か超能力がある人に診断してほしい。
それらのページをチラ見すると、相手と自分の名前、生年月日、血液型程度のデータを入れるだけで、相性がわかり、愛の行方が占えるようだ。
もっと、詳細な情報、お互いの性格とか趣味とか学歴とか職業とか年収とか家族構成とか親と同居希望かどうかとか子供が欲しいか否かとか好みのタイプなどたくさん入れた方がより確実な診断ができそうだが、それだと超能力に頼るより結婚相談所のアドバイザーに頼った方が良くなってしまう。
夢とロマンが失われる。
■マッチは人が判断、おススメは機械が判断
『フィンガーネイルズ』で相性や愛情の継続性を診断するのは、機械である。
機械が「100%マッチ」とか「50%」とか「0%」とか診断する。入れるべきデータはタイトル通り、フィンガーネイル=爪だ。
どういう仕組みなのかはわからないが、爪のDNAとかバイオロジカルなデータを抽出して統計学と組み合わせて判断するのであろう――なんて。
まあ、仕組みなんてどうでもいい。大事なのは誤診がなく結果の信頼度が100%である(と利用者が信じている)ことだ。
機械が言うことだから間違いない……だろうか?
マッチングアプリってのがありますよね。
あれも「マッチ」を出してくれるけども、出しているのは機械ではなく、アプリを通じてコンタクトを取っている人間。お互いが気に入るとマッチが出る。機械は仲介に過ぎない。
おススメを出してくれるアプリもある。
アルゴリズムを使って「この人はどうですか?」と提案してくれる。情報の収集と分析用には機械は大変優秀で便利だ。
だけど、おススメを受け入れるか否かを、付き合うか否かを最終的にジャッジをするのは人間だ。機械ではない。
■良い結果=歓喜。悪い結果=無視
私がこの映画の主人公ならこうする。
愛し合っている私と彼女の診断をさせたら、機械が「50%」なんて言いやがった。傲然と無視。「100%」と出た時だけ、喜び勇んで彼女に報告する。
機械に背中を押されて愛にばく進する、というのは正しいと思うが、機械ごときに反対されたからと言って、愛している人と別れる、というのは違う。
とはいえ、一度診断をすると、結果に囚われかねない。
喧嘩をする度に「そういや、機械に50%って言われたっけ」と思い出さざるを得ない。50%とレッテルを貼られたせいで、自分の行動や気持ちが条件付けされ、制限される。
ネガティブな結果が出るとネガティブな見方しかできなくなり、負のスパイラルに陥るので、はなから機械診断なんてしないのがベストなのか。
■真に求められる、愛を保温する機械
『フィンガーネイルズ』の中でも診断を拒否するカップルはいる。愛し合っている自分たちの感情だけを信じる、というわけだ。
でもね、だんだん熱が冷めてくると相手に黙ってこっそり診断に行ったりして。で、50%とか0%とが出たら「やっぱり……」とか言って、診断結果を口実にして別れを切り出したりして……。
いや、そもそも私が欲しいのは、恋に落ちることをブーストする診断ではない。そっちは機械抜きでも心が勝手に暴走してくれる。
そうではなくて、一度落ちた恋が冷めないように保温してくれる機械だ。
不倫や離婚を防ぐには、結婚前の相性診断機よりも結婚後の愛のブースト機の方が有効なのは明らか。
人類史上の大問題にテクノロジー的な解決策が欲しい……。
妄想は尽きない。
■名作『ガタカ』ではDNA判定も
『ガタカ』という素晴らしいSFがあった。
調査会社に髪の毛や爪を持って行くと、交際相手のDNA情報を解析してくれ、相手の将来像が手に入る。
「平均的な余命はあと●年」とか「糖尿病を患う可能性が●%」とか「老眼を患う可能性が●%」とか。たぶん「禿頭になる可能性」や「加齢臭が出る可能性」や「偏屈な年寄りになる可能性」もわかるのだろうし、「●年後の外見の劣化」もきっちり提示してくれるだろう。
機械は「別れろ」とは言わない。交際を続けるかどうかを決めるのは、あくまで人間、あなたである。しかし、別れる理由や付き合う理由を機械は、山ほど提供してくる。
愛だけで付き合ったり結婚したりするイノセントな時代は終わった。
感情なんて頼りないものに託すのは不安だ。占いや爪診断、DNA分析で間違いのない相手を選ぼうとする気持ちは良くわかる。
さて、『フィンガーネイルズ』の登場人物たちはどうするのだろうか?
※『フィンガーネイルズ』はApple TV+で見ることができる。
※写真提供はサン・セバスティアン映画祭