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ノーバン始球式が悪いとは言わないけど……。日米に見る開幕戦の始球式

宇根夏樹ベースボール・ライター
左からD・ストロベリー、M・ウィルソン、C・ジョーンズ NOV.1, 2015(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

始球式を報じる記事の見出しに「ノーバン」と入れると、読者の目を惹くという。今シーズンも開幕戦の始球式について「土屋太鳳、開幕戦でノーバン始球式」(デイリースポーツonline)、「セクシー藤原紀香、“ほぼ”ノーバン始球式にガッツポーズ」(サンスポ・コム)などの見出しがつけられていた。

ノーバンかどうかはさておき、気になるのは始球式の人選だ。今シーズン、日本プロ野球の開幕戦で始球式に登場した6人のなかに元プロ野球選手はおらず、芸能人が3人(土屋太鳳、藤原紀香、西川貴教)、他種目のスポーツ選手が2人(桃田賢斗、ホラニ龍コリニアシ)、政治家が1人(松井一實・広島市長)だった。

昨シーズンのメジャーリーグの開幕戦と比べてみよう(今シーズンは4月3日に開幕する)。15試合中8試合は元選手あるいは元監督、2試合は元球団関係者が始球式を行った。アリゾナ・ダイヤモンドバックス戦のランディ・ジョンソンやヒューストン・アストロズ戦のクレイグ・ビジオ、ニューヨーク・ヤンキース戦のジョー・トーリといった単独の始球式ではなく、複数のOBが登場したところもあった。ロサンゼルス・ドジャースは時代の異なる3投手、ドン・ニューカムフェルナンド・バレンズエラエリック・ガニエを呼んだ。シンシナティ・レッズ戦も同じく3投手ながら、こちらはノーム・チャールトンロブ・ディブルランディ・マイヤーズの「ナスティ・ボーイズ」だった。

また、残る5試合のうち、シカゴ・カブス戦は昨年1月に亡くなった「ミスター・カブ」、アーニー・バンクスの息子2人が始球式で投げた。ワシントン・ナショナルズ戦はコミッショナーのロブ・マンフレッドが予定されていて、登場もしたのだが、9歳のリトルリーガーにリリーフを仰いだ。この少年は将来、メジャーリーガーとしてフィールドに立つかもしれない。

他には、第2次世界大戦に従軍した90歳の退役軍人(カンザスシティ・ロイヤルズ)や難病を患う8歳の少年ら(フィラデルフィア・フィリーズ)がいて、唯一、デトロイト・タイガースだけが始球式に芸能人を招いた。ただ、J.K.シモンズはデトロイト出身であるのに加え、映画「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」(サム・ライミ監督、ケビン・コスナー主演)でタイガースの監督を演じている。

芸能人の始球式を否定するわけではないし、それが「ノーバン始球式」と形容されるものであってもいいと思う。メジャーリーグでも、芸能人あるいはそれに類する人が始球式を行うことは少なくない。昨シーズンの始球式からいくつか拾ってみても、スティーヴ・アオキ、ジェームス・テイラー、ハロー・キティ(!)、ミス・カリフォルニア、ニーナ・アグダル、クリスティ・スワンソン、リー・トンプソンらが投げている。ちなみに、トンプソンはデロリアンに乗って登場した(映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」には3作品とも、彼女が乗っているシーンはなかったと思うが)。

けれども、開幕戦の始球式に、往年の名選手や名監督が一人もいないというのは、いかがなものだろう。清原和博は別にしても、かつて日本プロ野球を沸かせ、今も生きている元選手は何人もいる。観客席で始球式を見ながら、「あの人はすごい選手だったんだぞ」「へぇ、どんな選手だったの?」「それはね」と親子が会話を交わす光景を想像するのは、オッサンの儚いノスタルジーに過ぎないのだろうか。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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