マレーシアの食品ロス削減プロジェクト7ヶ月で43%削減1083億円減が期待
*本記事は、2020年2月24日に掲載した「マレーシアの食品ロス削減プロジェクト 7ヶ月で43%削減 1083億円減が期待:SDGs世界レポ(5)」の連載と記事掲載が終了するにあたって、当時の内容を編集・追記したものです。
マレーシアで2019年1月に始めた「食品ロス削減プロジェクト」。対象となった家庭の食品ロスが7ヶ月で43%も削減し、国全体では1083億円削減が期待できるそうだ。日本の大学が関わったこの企画、どのようなことを実施して成果が出たのだろう。
マレーシアの1日16,000トンの食料廃棄を解決すべくプロジェクトが立ち上がり、2020年2月23日付のNew Straits Timesで、このプロジェクトの7ヶ月間の成果が報じられた(1)。
マレーシアでは、1日16,000トンの食べ物が廃棄されている。この問題を解決するためのプロジェクトが"Eat Smart, Save Food"(賢く食べて、食品を節約しよう)だ。2019年1月に始まった。
このプロジェクトはJICA(ジャイカ:国際協力機構)の資金援助を受け、日本の筑波大学が、SWCorp(Solid Waste Management and Public Cleansing Corporation)、マレーシア工科大学、マレーシア日本国際工科大学、マレーシア・グリーン・テクノロジー・コーポレーション、マレーシアイスラム理解研究所と共同で運営したものだ。
筑波大学からは、システム情報系・社会工学域の准教授、甲斐田直子(かいだ・なおこ)先生がプロジェクトに関わっている(2)。
甲斐田先生は、New Straits Timesの記事で「廃棄される食料が埋め立てられると、温室効果ガスを発生し、温暖化に悪影響を与えます。環境に負荷をかけるだけでなく、お金も無駄になります」と語った。
プロジェクトの対象コミュニティ
クラン・バレーにある、次の4つのコミュニティが、プロジェクトの対象となった。
1)バンダル・トゥン・ラザックのスリ・コタ公営住宅
2)Taman Mulia, CherasにあるPeople's Housing Project
3)プトラジャヤのPresint 11
4)ネグリ・スンビランのニライの政府地区
甲斐田准教授が日本の「MOTTAINAI(もったいない)」の概念を紹介
記事によると、甲斐田准教授は、食品ロスを減らすために使われた、日本の「もったいない」という概念について参加者に説明し、プロジェクトの進め方についてこう語った。
「参加者には、プログラムの小冊子と体重計、ごみ袋、毎日の食品ロス(食べ物の無駄)を記録するための日記を配りました。コミュニティの集まりを開催し、進捗状況について話し合い、食料品リストやレシピで食品ロスを減らすヒントを参加者同士で共有しました。」
スタート7ヶ月で43%削減、国内で41億リンギット(約1083億円)の節約が見込める
このプロジェクトは2019年1月から2年間の期間が設けられ、スタートしてから7ヶ月目で、すでに43%の食品ロスが削減できた。甲斐田准教授はこう語っている。
「プロジェクト開始時、対象となった各世帯は、平均600gの食品ロスを出していました。これが、2019年7月には平均350gまで徐々に減少していきました。2019年1月から7月までの7ヶ月間、各世帯は平均27kgの食品ロスと、68kgの二酸化炭素排出量を削減することができました。また、1世帯あたり平均でRM300(300リンギット、約7926円)を節約できました。これを、マレーシア国内すべての世帯に適用すると、合計で41億RM(41億リンギット、約1083億円)の節約になります。このようなプロジェクトが、マレーシア全土に広がることを願っています。」
プロジェクトに関する感想
筆者は日頃から、国内外での食品ロスの講演で、「測ること」「見える化すること」の重要性を伝えている。
兵庫県神戸市が全国で初めてスタートした「食品ロスダイアリー」もその一例だ。家庭で捨ててしまった食べ物の種類と量を書いていくものである。一週間目よりも二週間目に食品ロスが減り、二週目より三週目にロスが減る傾向が見られたという。これは、測って、記録し、見える化したためだろう。
この「食品ロスダイアリー」は、家庭での食品ロス削減に効果が期待できるとして、宮城県仙台市や、愛知県など、全国の自治体で採用され始めている。今では環境省の公式サイトでも推奨している(3)。
測ること、記録すること、見える化することの重要性は、家庭だけではなく、事業者にも言える。
中部地方でスーパーを運営するユニーは、店舗で出される廃棄物を19分類し、毎日計測することによって、廃棄物がどこからどれくらいの量、排出されるかを見える化し、削減に成功した(4)。
SDGsの2番、4番、12番に貢献
このプロジェクトは、SDGsの複数のゴールに貢献できる。中でも、2番、4番、12番などに貢献するだろう。
日本では「教育」というと、対象が子どもをイメージしがちだが、今回のプロジェクトは、大人を対象とした「消費者教育」であり「啓発」と言える。
成果を出すポイントは「計測」「記録」「見える化」
生活者も事業者も、日頃からなんとなく食品を無駄にしていることは感じている。だが、具体的に何をどれくらいの量、無駄にしているかをきっちり把握している人や組織は限られる。
このプロジェクトは進行中ではあるが、すでに期間を半分終える以前の時点で成果を出している。
「測るだけダイエット」が流行ったことがある。「測るだけで効果あるの?」と思うかもしれないが、計測して実態を把握することで、意識に上り、実行につながりやすくなる。
今回のプロジェクトで大きな成果が見られていることも、計測と記録の重要性を市民に伝え、習慣化させたことが、食品ロス削減のポイントと言えるかもしれない。
2022年時点での進捗状況
その後、マレーシアの食品ロス問題は改善されたのか。
2022年5月9日付の日本食糧新聞「食品ロス削減 ASEANで動き広がる」(5)を見ると、マレーシアでは食品廃棄物問題は深刻で、国内から排出されるごみの半分が食品関連、問題意識の高いクアラルンプールでも、全体の4割を食品ごみが占める、とある。記事は「国民への啓発活動を展開するなどしてリサイクルへの関心を高める」と結ばれているので、まだ改善の余地はあるのだろう。
参考記事
1)'Eat Smart, Save Food' programme cuts food waste by 43pct (New Straits Times)(2020.2.23)
https://www.nst.com.my/news/nation/2020/02/568239/eat-smart-save-food-programme-cuts-food-waste-43pct
https://trios.tsukuba.ac.jp/researcher/0000003031
https://www.env.go.jp/recycle/diary.pdf
https://ppih.co.jp/csr/uny_report/pdf/2021.pdf
5)「食品ロス削減 ASEANで動き広がる」(日本食糧新聞、2022.5.9)