フォーミュラEが切り開く、新しいモータースポーツの価値
2014年はモータースポーツ界にとって、どんな1年が待っているのだろうか。自動車メーカー、バイクメーカー共に本格的なモータースポーツ活動再開に積極的な動きを見せ始めている2014年は業界が「V字回復」する1年になるか。今年のモータースポーツ界を沸かせてくれそうな話題をピックアップする「Go! for 2014」。Vol.3は今年から始まる電気自動車の「フォーミュラE世界選手権」をピックアップする。
2014年9月にフォーミュラEが開幕
2014年はモータースポーツ界にとって歴史的な1年になる。ルマン24時間レースはハイブリッドカーによるメーカー対決の舞台となり、F1は小排気量ターボエンジンとエネルギー回生システムの導入により、限られた燃料でレースを走りきることが求められるようになる。モータースポーツのトップカテゴリーは「エネルギーマネージメント」が大きなテーマとなる新時代を迎えるのだ。
そんな中、電気自動車のF1と呼ばれる「フォーミュラE」もFIA(国際自動車連盟)の世界選手権として9月から開幕し、2015年にかけて全10戦の開催が予定されている。電気自動車初のビッグレースイベントということもあり、今年、世界中で話題を振りまくことは間違いないだろう。
市街地開催、話題のチームの参戦
昨年秋から「フォーミュラE」の運営を行うフォーミュラEホールディングスが開催日程や初年度の参戦チーム、そして今後のプランなどを積極的にリリースし、「フォーミュラE」は開幕前から話題が満載だ。
1年目のシーズンは全開催地が「市街地コース」。エンジン音のしない、静かな電気自動車だからこそできるフォーマットが取られる。また、チームも10チームがヨーロッパ、アメリカ、アジアなどから参戦。人気俳優レオナルド・ディカプリオが中心人物に名を連ねる「ヴェンチュリグランプリ」や、鈴木亜久里の元F1チーム「スーパーアグリ」など話題を集めそうな注目チームが多く、今後の開幕に向けたプロモーションにも期待がかかる。
また、テレビ中継も米国の「FOX」がホスト局となり、世界中に映像が配信される。日本ではテレビ朝日が全戦生中継を発表したし、SNSと連動したファン参加型の演出を加えた新しいエンターテイメントを創造していく。
フォーミュラEの話題については、All About「モータースポーツ」の記事にまとめているのでご参考に頂きたい。
電気自動車のレースは受け入れられるか?
話題が多いとは言っても、既存のモータースポーツファンにはなかなか受け入れがたい内容が多いのが電気自動車のレースだ。まず懸念されるのが、エンジン音が無いこと。モータースポーツの大きな価値はスピードにあるが、それ以上に「音」の良さにコダワリを持つファンは多い。甲高い高回転エンジンサウンド、観客席のファンの体の芯まで揺らしてしまうほどの低音サウンド。クルマのエンジンタイプによって異なる様々なエキゾーストサウンドはモータースポーツの大きな魅力と言える。
しかし、電気自動車の「フォーミュラE」はエンジンサウンドが無く、モーターの音とタイヤのスキール音、ロードノイズが中心となるので、迫力に欠けるものになる。実際に既存のレースイベントでも、電気自動車のレーシングカーがデモンストレーション走行を行う機会が増えてきているが、観客はどう反応し、何に対して拍手して良いのか分からない微妙な反応を示す事が多い。
何年か前までは失笑すら漏れ聞こえてきた電気自動車の走行。それでも、電気自動車のリーフやアイミーブを街中でも見かけるようになり、関心の高まりが後押しをしているのか、抵抗を示す人は少なくなってきている印象ももつ。
音が静かな分、迫力に欠けるとはいえ、電気自動車のレースは新たな演出を創造する可能性も秘めている。そこで重要になってくるのは、レーシングコース場内での放送。既存のレースに比べると、よく聞こえるようになる放送のクオリティがポイントになる。分かりやすく的確なアナウンス、そしてエンターテイメント精神が求められてくるだろうし、BGMの選び方にも凝った演出が求められるようになるはずだ。レースの内容だけでなく、イベントを作る側の努力も大きなウェイトをしめてくるようになる。
また、エンジン音が無いことはテレビなどの映像エンターテイメントとしては、あまり重要ではない。レースの内容が面白く、ファンが楽しめる要素を盛り込んで行けば、面白いエンターテイメントが産まれるのではないかと期待している。「フォーミュラE」の初年度はワンメイク車両(同一車)のレースになり、レースフォーマットを含めた全てが手探りの状態となるが、今は想像できないエンターテイメントに成長する可能性も秘めている。既存のモータースポーツファンは、否定から入らず、まずは見てみる、楽しもうとしてみる。ドタバタが起こってもそれを含めて楽しむスタンスで行くと、より健康的に新しいモータースポーツを楽しめるのではないか。
日本でも公道レース開催の機運
音の静かな「フォーミュラE」は環境問題を真正面から捉えたプロモーションを世界各国の市街地コースから発信していく。
ファミリーで1日のイベントを楽しみながら、環境問題についても学び、電気自動車の普及につなげていきたい姿勢がプロモーション映像からも感じ取ることができる。音の迫力がない分、街中で開催されるイベントの楽しさも「フォーミュラE」の重要な要素になってくるだろう。
残念ながら「フォーミュラE」の初年度シーズンに日本での開催予定はないが、静かなサウンドと環境への配慮という観点からいくと、「フォーミュラE」の日本での開催は近い将来に実現されるのではないかと感じる。日本での市街地レース開催は前例が無く、いまだ厳しい道のりにあるが、F1などの騒音問題が必ず出てくるイベントに比べると近隣住民の理解も得やすく、ハードルは低い。
2013年末、自民党「モータースポーツ振興議員連盟」(会長・衛藤征士郎前衆院副議長)が市街地でのレース開催に向け、道路使用許可などの行政手続きを円滑化する法案をまとめ、2014年の国会に提出する動きを見せているという報道があった(時事通信:日本版「モナコGP」へ法案=自民議連、国会提出目指す)。こういった動きも日本での「フォーミュラE」市街地開催を後押しすることになるだろう。昨年も大阪城で開催されたフリースタイルモトクロスのイベントが大きな話題となり、シティセールスとしての市街地レース開催に対する理解も高まってきている。自治体が開催の意向に手を挙げるなら今がベストタイミングといえる。
開幕はまだ先ではあるが、電気自動車「フォーミュラE」が秘める新たな可能性にはとても期待している。ま、実際、蓋を開けてみるまで分からないが、皆さんの期待度はどのくらいだろうか?
【フォーミュラE】
FIAの新たな世界選手権として発足する電気自動車のフォーミュラカーレース。初年度は2014年9月から2015年6月まで全10戦。10チーム、20人のドライバーが市街地コースでレースを戦う。日本ではテレビ朝日が全戦テレビ中継を発表しているほか、インディカー参戦中の佐藤琢磨がマシンのテストドライバーとして開発を担う。初年度は全車同じマシンを使用する。フォーミュラE公式サイト(英語)