テレビも映画もアニメが席巻した2022年、親子で観る普遍的な作品が締めくくる
2022年のエンターテインメントシーンを振り返ったとき、特筆すべきはアニメの隆盛だろう。映画では、年間興収No.1となる『ONE PIECE FILM RED』(興収186億円超え)、続く『すずめの戸締まり』(最終興収見込み150億円前後)、『劇場版 呪術廻戦 0』(138億円)と邦画アニメの100億円超えヒットが年間3本と歴代最高記録となった。さらに、12月3日に公開されたばかりの『THE FIRST SLAM DUNK』もすでに30億円を超え、100億円に迫る勢いで興収を伸ばしている。
テレビアニメでも『SPY×FAMILY』や『チェンソーマン』(ともにテレビ東京系)などアニメファンを超えて一般層にまでブレイクスルーする社会的ヒット作品が世の中をにぎわせた。そんな今年を締めくくるのに相応しいトピックとして注目したいのが、世代を超えて親子で楽しめる普遍的アニメの名作『ちびまる子ちゃん』だ。劇場公開30周年を記念して映画第2作『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(1992年)がBlu-rayで登場した(1990年公開の第1作『大野君と杉山君』も同時リリース)。
誰もが過ごした小学校低学年時代の日常を、実際のクラス内にいるであろうさまざまなキャラクターをデフォルメしつつ、社会の縮図のようなヒエラルキーもふんわりとにじませる本作。ときおり飛び出す、子どもらしからぬ大人びたセリフやシュールなギャグ、ナレーションによるツッコミの独特なゆるい世界観は、かつて子どもから大人までオール世代に親しまれた。
そんな普遍的アニメの劇場版が30年のときを経ていまの時代に再びよみがえる。アニメが話題をさらった今年だが、どの作品よりも幅広い世代に認知され、家族みんなで一緒に楽しめる真打ちの登場といったところだろう。
日曜夜の顔となった『サザエさん』と『ちびまる子ちゃん』
『ちびまる子ちゃん』は、作者のさくらももこ氏が自身を主人公に投影し、1970年代の小学3年生の何気ない日常を描いた物語。原作漫画は1990年にテレビアニメ化され、フジテレビ系で毎週日曜日18時から放送されると、直後の放送枠の『サザエさん』とともに日曜夕方ならではの家族で楽しめるアニメとして人気を博した。
同局系列アニメの長寿番組としては、1位が『サザエさん』、2位が『ちびまる子ちゃん』となり、両作とも現在も同枠で放送中。とくに『ちびまる子ちゃん』は、放送開始時のエンディング曲「おどるポンポコリン」(B.B.クィーンズ)が社会現象的ヒットになったことでより幅広い層に訴求し、平成から令和の国民的アニメとして親しまれてきている。
親世代に自分事として小学生社会を考えさせる
そんな本作の劇場映画第1作となる『大野君と杉山君』は、さくら氏による書き下ろしオリジナルストーリーで、まる子と同じクラスの大野くんと杉山くんの友情が描かれる。どこの学校にでもいるであろう、やんちゃでいつもクラスで目立っているガキ大将的な男子2人組は、ときにクラスメイトたちをからかったりする暴れん坊だが、学校行事ではみんなをまとめる中心的な存在になり、クラスのために一生懸命になる。
しかし、ちょっとしたすれ違いから口をきかなくなる気まずい関係になり、お互い素直になれないまま時間が過ぎていく。そんな2人の気持ちは、3つの学校行事「運動会」「合唱コンクール」「お別れの会」を通して、避けられない“お別れのとき”に向けて揺れ動く。2人と、2人を心配して見守るクラスメイトたちの心のあり方に、大人たちは自分自身の過去としても、我が子や親しい身内のこととしても、感情移入せずにはいられないだろう。
小学生たちの日常のストーリーでは、日々の細やかな出来事のなかの家族や友人たちのリアルな姿が描かれ、とくにドラマチックな展開があるわけではない。しかし、その日常がどうなっていくのかつい気になってしまう。小学生たちの関係性や友情がどこに着地するのか、いつの間にか惹きつけられてしまっている。
それは親世代の大人にとっては、誰もが経てきた小学生時代を追体験させてくれるからだろう。子どもたちが向き合わざるを得ない小さな世界のささいな出来事の数々に、気がつけばことあるごとに感情を揺さぶられ、思わず声をあげて笑ったり、涙を浮かべてしまうことさえある。
一方、当事者である子どもたちにとっては、別の場所にいる自分たちと同じ小学生の話として、登場人物に共感したり、応援したりすることで物語に入り込んでいることだろう。親子それぞれで目が離せなくなる身近な物語であり、世代を超えた共感が根底にあるからこその普遍的な作品であることを改めて感じさせられる。
“別れ”への子どもの涙が感じさせる成長
第2作『わたしの好きな歌』は、絵描きのお姉さんとの出会いと交流を通して、まる子が少し成長する姿を描く、“別れ”をテーマにした物語。「好きな歌の絵を描く」という学校の課題から、まる子はクラスメイトやいろいろな人たちの好きな曲を知り、それにあわせて歌や踊りが繰り広げられるミュージカル風のファンタジックな作品になっている。
ふだん何気なく歌っていた曲の歌詞がふとしたきっかけで気になり、その曲が作られた背景やそこに込められたメッセージを深く考えた経験は誰にでもあるだろう。本作は、そんな歌を通したまる子の出会いから、純粋で感受性の豊かな小学校低学年の子どもたちの心に触れることができる。
ストーリーの本筋になる絵描きのお姉さんとまる子の交流からは、誰にも必ず訪れる人生の岐路にぶつかったときの子どもなりの考え方と、そこにまっすぐに向き合う健気な姿勢が描かれる。音楽の先生がまる子に話す「別れてもずっと忘れない。そういうことって人が生きていく間に何回もある」という言葉は、物語のなかに留まらず、観る人それぞれの人生へ語りかけてくる。当時は何気なく本作を観ていた子どもたちは、大人になったいま改めてその言葉を送った先生の気持ちに想いを馳せることができるかもしれない。そこでは当時とはまた違った感情が生まれることだろう。
まる子の涙にあふれる終盤は、観る人の涙腺もゆるむに違いない。子どもが涙を流しながら成長していく姿は、切なさと同時に未来への希望を感じさせてくれる。大人も子どもも本作から得るそれぞれの感情と学びがあるはずだ。
不朽の名作が引き継ぐ親子のコミュニケーション
リアルタイムでこの2作を楽しんだ子どもたちが親世代になったいま改めて観れば、きっと感じることがまったく違うだろう。30年という時間を経て見直して改めて湧き上がる感情や新たな発見があるに違いない。
それは当時の大人たち親世代も同様だろう。いま大人になった子どもと一緒に観ることで、お互いに思ったことや感じたこと、いまの社会につながる課題やメッセージを話し合うことは、とくに親世代にとっては大人になった子どもと共有するかけがえのない時間になることは間違いない。
そして、かつて子ども時代に本作を楽しんだ親たちは、いま自身の子どもと一緒に追体験しようとするかもしれない。そんなループが生まれる不朽の名作としての力がある本作。さまざまなヒット作が生まれた今年のなかで、親子で安心して楽しみながら考えを深めることができるいちばんの名作と言っても過言ではないだろう。時代を超えて引き継がれていく普遍的な物語の価値は、いつの世の中でも変わらないことを強く感じさせてくれる。
※映画興収は12月12日時点の推定値