女性兵士への「性上納」強要を超える金正恩体制の理不尽すぎる行為
韓国統一省の集計によると、昨年12月末までに韓国入りした脱北者の数は3万212人に及ぶ。しかし、脱北者は韓国だけにいるわけではない。中国には数万人から数十万人、ロシアには1万人が潜伏し、欧米諸国に逃れたり移住したりした人も2000人いると言われている。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)
軍隊内での性行為強要
韓国在住の脱北者のうち、約7割が咸鏡北道(ハムギョンブクト、2008年の人口は約232万人)出身であることを考えると、同地ではおよそ100人に1人が脱北している計算になる。中国やロシアにいる人を含めると、その比率はさらに大きくなるだろう。両江道(リャンガンド)や平安北道(ピョンアンブクト)といった中朝国境に近いほかの地域でも、事情は似たようなものと思われる。
家族や親戚、友人や隣人の中に1人や2人は脱北者がいて当たり前という状況であるにもかかわらず、北朝鮮当局は、脱北者家族への締め付けをさらに強化している。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、幹部になる夢を抱き大学を卒業した人の中で、幹部に登用されない人が何人も出ている。
北朝鮮で官僚や軍人、経済機関の幹部として出世するのに必須条件となるのは、朝鮮労働党に入党することだが、誰にでも認められるわけではない。体制への忠誠心や出身成分(身分)を問われるのはもちろんのこと、党員2人以上の推薦を受け、市や郡の党委員会の承認を経た後、1年間の「候補期間」を経てようやく正式な入党が認められる。
推薦を受けるために、党員にワイロを渡すのは基本中の基本で、軍の上官や職場の上司が部下の女性を「入党させてやる」と誘い出し、性的関係を迫る「マダラス」(マットレス)と呼ばれる「性上納」の強要行為も横行している。
(参考記事:脱北女性、北朝鮮軍隊内の性的暴力を暴露「人権侵害と気づかない」)
しかし、そこまで理不尽な思いを強いられても、引き換えに得たものがチャラにされる状況が生まれてきたのである。
一般的な若者の場合は12年(女性は7年)に及ぶ兵役を終え、大学を卒業し、審査を経てようやく幹部への道が開けるのだが、当局は今年から「4親等以内に脱北者がいる者は、幹部として登用しない」という方針を示した。
RFAによれば、これを受け、多くの人が肩を落としている。
昨年までは、審査で「兄弟姉妹の中に脱北者はいないか」と問われ、いたと答えても一般の工場や行政機関の幹部になることはできたが、今年から急に状況が変わったということだ。既に幹部になった人でも、後に家族や親戚に脱北者がいることが判明すれば、クビにされてしまう。
両江道(リャンガンド)の別の情報筋は、「国境地域だけなのか、全国的なものかわからない」としつつ、道内では大卒者のうち、6親等までの親戚に脱北者がいないかを調査しているという。
当局は幹部登用の基準を急に強化した理由について、「家族や親戚に脱北者がいる者は、黒いカネを受け取って国家機密を売り渡すかもしれない」としているという。
幹部登用の道を閉ざされた人々は「ひもじい思いをしながら軍隊に行って、ワイロを送って労働党に入って、大学で苦労したのに、なぜ見捨てられなければならないのか」と怒りを露わにしている。
6親等以上でも親戚に脱北者がいる人は、大学を辞めている。勉強を続けたところで未来がないので、さっさと見切りをつけて市場で商売を始めたほうが良いという判断からだろう。韓国に住む家族から資金を融通してもらって、商売を始める人もいる。
こうした状況の中、祖国に絶望して脱北し、家族や親戚のいる韓国に向かう人々も新たに現れるだろう。当局の方針がむしろ脱北を煽る皮肉な展開となっているのだ。さらには怨み骨髄に達し、体制に対して「実力行使」に出る人が現れないとも限らないだろう。