ダニエル・クレイグ、これが最後のジェームズ・ボンドと断言できる、いくつかの理由
007シリーズ最新作『スペクター』が12月の本公開に先駆けて、本日から先行公開です。日本では007はたいてい年末公開なんで、今年もそんな時期なんですねえ。なんだかよくわかんないけどすっごいデカい悪事をたくらむ敵を、絶対に死ななないスパイが、ど派手にやっつけ美女もいただいちゃう!的な映画ですが、今回も何も考えずに派手な花火ぶち上げたろか!みたいな感じで、空飛ぶヘリでくんずほずれつ!とか、壁も走る三次元カーチェイス!とか、モロッコの砂漠で大爆発!とか、いろいろやっとります。ライターのくせしてこんなこた言いたかないが、ぶっちゃけ文章で紹介するのとかアホらしい!で・も・ね!今回ははやくも話題な「ダニエル=ボンド引退か!」って部分を、ライターっぼく検証していたいと思います!引退なんですよ!絶対!たぶん!(どっちだ!)
物語のオープニングは、「死人は生きている」という思わせぶりな文言で始まる、メキシコ版ハロウィン「死者の日」から。仮装した人々のパレードの中には、骸骨マスクのボンド。いつもながら美女を連れて、これからお楽しみ――と思いきや、密かに追っていたのは爆破テロを計画中の悪党。やがていつもの銃撃戦と大爆発が起こり、町は大混乱に陥ります。用意した逃走用のヘリに乗り込む男、追うボンドも飛び乗り、機内で大格闘が始まります。これめちゃくちゃ危険なシーンです。狭いしドアもない上にヘリは錐もみ状態で、ひゃあボンド落ちる!危ない!の連続、高所恐怖症の人ならずとも(私のことですけど)身体に力バッキバキに入ってまいます!この怒涛のオープニングの戦いを制したボンドは、男の指の奇妙な指輪に気づきます。刻み込まれているのは、不気味な「タコ」マーク。
一方、ロンドンでは、国をまたいだ情報監視システムの立ち上げ計画が進んでいます。推進者の官僚のデンビーは「00部門の廃止」を主張、やり玉に挙げられているのが独断専行のボンドです。Mはボンドを監視するため、Qに命じて極小の追跡装置をボンドの身体に埋め込みますが――ボンドはQを丸め込み、マネーペニーも引っ張り込んで「タコ」の正体を追い、「スペクター」という世界的な犯罪組織の存在にたどり着くのです。
スペクターと言えばショーン・コネリー時代の初期の007を支えた悪の組織。40オーバーの方々、お待たせしました、面白ワルの首領ブロフェルドが登場です~。通常運転でぬか味噌色の人民服着て白い猫なでなでしてる、片眼が潰れたあのオッサンですねー。若い人にはさっぱりわかりませんね~。あ、『オースティン・パワーズ』のDr.イーブルのモデルになった人です――って、これもわかんないかもしれませんね~。ま、これで昔の名前が出そろった!ってことだけわかっときましょう。
今回の映画のポイントは、もちろん「スペクター」が登場したこと。そしてそれにより、ボンド自身の過去が明らかになることです。でもって、見終わった後に思うのは「ダニエル、やめちゃうんだな」。これを語るには、ダニエル主演の過去3作の検証が必要ですので、まずはそこから。独断と偏見で行ってみたいと思います。
ダニエル主演の4作品は、言ってみればそれぞれが「起・承・転・結」になっています。最初の「起」である『カジノ・ロワイヤル』は、新人スパイのボンドが名実ともにスパイになっていく話。さらに運命の人、ヴェスパーとの出会いと別れを描いています。1作目のボンドは危なっかしく粗っぽく、監視カメラに映るとかスパイ的にあり得ないポカをし、実は敵と通じていたヴェスパーを本気で愛してしまうという、驚くべき若造ぶりですが、最終的にはヴェスパーの死によって、この仕事のリアルを知ることになります。「承」『慰めの報酬』はその延長線上にあり、ボンドはヴェスパーを殺した奴らを追っています。スパイとしてはやや洗練されてきてはいますが、生け捕りにすべき敵を殺してしまう場面もあります。でもダニエル=ボンドはそこが魅力なんですね。どうしてもクールになりきれないんです。ぶっちゃけスパイ向きではありません。
そんなボンドが前作、つまり「転」の『スカイフォール』では、スパイの世界のさらなる非情を嫌というほど思い知らされることになるわけです。オープニングでは信頼する上司「M」に切り捨てられて「死んだこと」にされ、闘う敵はかつてMに切り捨てられた「00」ナンバーで、悲惨な命運を辿ったシルヴァ。彼がする「ネズミ」の話――ココナッツでおびき寄せられドラム缶から逃げられなくなった無数のネズミは、腹をすかして共食いを始め、最後に残った二匹はもうココナッツでなくネズミを食うネズミになっている――は強烈です。ボンドとシルヴァは正義と悪にみえて、しょせんはふたりとも互いを食うよう仕込まれた「ネズミを食うネズミ」でしかないんですね。
そして今回の『スペクター』でのボンドは、「00」要員そのものを切り捨てようとする組織(Mではなく、政治的思惑のようなものです)を完全に無視して、自分の信じる正義のために突き進んでゆきます。そこに見たものの醜悪さは、ネタバレになっちゃうので詳しくは書けませんが、正義と悪は別物に見えて1枚のコインの表裏でしかないという事実です。そして冒頭で予言された「死者は生きている」が響いてくる、自身の過去の亡霊との邂逅によって、自分もその例外ではないことをボンドは知ってしまうんですね~。もともとスパイの非情に馴染めていないキャラクターとして作り上げたダニエル=ボンドが、その構造から「降りよう」と思うのは当然の帰結です。
さらに初期の007作品が好きだというダニエル・クレイグが、007関連のインタビューでよく使う「原点回帰」。前作『スカイフォール』では、男性がMの座を取り戻し、技術屋Qが復活し、女性秘書のマネーペニーも再登場し、MI6まわりの「原点回帰」は完成しました。そして本作で、シリーズ最高の悪役、スペクターのブロフェルドも復活。ダニエルの4作品で、「原点回帰」は完璧に完成したわけです。
でもね、こういったことはボンドになった当初から4作と決まっていないと、なかなか計画的にはできませんよね。ここで私の独自情報の登場するわけです!(大げさ)2作目の『慰めの報酬』の来日でインタビューさせていただいた時に、こんな質問をしたんですね。
あと2本だよ…あと2本だよ…あと2本だよ…。
リフレインしますねー。てか、ダニエル=ボンちゃん、言っちゃってるじゃんか!当時の彼は、ほんとまだ純朴な感じでしたから、ガード甘かったんでしょうか。まあそんなわけで、『慰めの報酬』のあとの『スカイフォール』と『スペクター』で、その2本が終わったわけです。「ショーン・コネリー以来最高のボンド」と言われたダニエル・クレイグの最後の姿(決めつけ状態)を、是非劇場で楽しんでくださいませ。
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